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ヨルから生まれた物語  作者: 灯ノ森みつき
第二章《波紋》

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焦り

「封鎖、だと?」


低い声が、

室内へ落ちた。


劍国王都、黎明国使節団滞在区画。


長机の上には、幾つもの書簡が置かれていた。


劍国からの正式通達だった。


継承儀直後の変死体。

失踪した神官。

祭祀領域封鎖。


そして――調査権制限。


「我々を締め出すつもりか。継承儀で死者が出たのは、こちらの人間だぞ。」


机上へ、羊皮紙が叩きつけられる。


「その上、失踪した神官も黎明出身だ。劍国側の管理責任はどうなる。」


「声を荒げるな。」


冷えた声が短く遮った。


「問題はそこではない。」


重い沈黙だった。


机上の書類。

そこへ押された正式印と署名。


全て、正規手続きを通っている。


「……誰が承認した?」


ぽつり、と。


静かな代表高官の声に、誰かが呟く。


「現在、本国側で確認中です。」


「確認中で済む話か。劍国側が“祭祀への介入”と取ればどうなる。」


空気が張った。


劍国王権にかかわる最重要祭祀への介入。

本来、閉鎖された神域での不祥事。


その事態を、誰も軽くは扱えなかった。


「変更申請時の署名ですが、随行高官の名が残っています。」


空気が、

僅かに変わる。


「本人確認は。」


「まだです。ですが印は一致しています。」


「……彼は、被害者の血縁の者です。」


側にいた者が、短く言葉を注いだ。


「――最悪だな。」


偽造なら問題だった。

だが。

正式な署名ならば、さらに悪い。


しかも署名した者が被害者の身内……。

こちら側の事情が深く関わっていそうだった。


「劍国側は、失踪神官を“保護対象”として扱っています。」


外交官が静かに続ける。


「引き渡しには応じない構えかと。」


「保護、か。こちらの人間を。」


男の目が細まる。


「劍国神殿所属、という扱いなのでしょう。」


再びの沈黙。

若い官僚が乾いた唇を開いた。


「……劍国側は、

我々を疑っているのでしょうか。」


誰も即答できなかった。


やがて。

年嵩の外交官が、

低く口を開く。


「疑う理由は十分にある。同行記録、正式署名、黎明出身神官……これだけ揃えば、“意図的介入”も視野へ入れる。」


「馬鹿な……」


吐き捨てる声。

だが、否定は弱かった。


「……継承儀は、

成立しているんだぞ。」


不意に落ちたその言葉へ、

視線が集まる。


もし、本当に不正侵入があったのならば。


今回の継承は成立してないはずだった。


静かな違和感だけが、

会議室へ沈んでいく。


「まさか、神殿側のあの噂……」


「……まずいな。」


空気が明らかに変わった。


「――失踪している神官の確保を。劍国よりも早く、早急にだ。」


先程までとは違う、硬い声だった。


「本国へも至急報告を。署名記録、同行経路、接触者……全て洗い出せ。」


焦りを押し殺した声が、

室内へ落ちる。


「署名を残した高官にも接触を。口を滑らせるなと伝えろ。」


「万が一にも、劍国側より先に“何か”を掴まれるな。」


誰も返答しない。


ただ張り詰めた沈黙だけが、

室内を満たしていた。


窓の外では、白い光が神殿の尖塔を照らしていた。

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