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ヨルから生まれた物語  作者: 灯ノ森みつき
第二章《波紋》

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神域

劍国神殿へ王宮からの使者が到着したのは、

夜半を過ぎた頃だった。


石畳を打つ足音が、

静まり返った回廊へ鋭く響く。


「王宮より至急の調査要請です。」


その声だけで。


神殿内全ての空気が変わった。


「なんだと……」


祭祀長をはじめとした、

神官達の顔色が一斉に強張る。


異例の、女性王族による継承儀。


それが無事になされたことに、

安堵した矢先での出来事だった。


継承儀の後。


再び閉ざされていた祭殿奥へ、

次々と灯が入っていく。


「世話役神官は!?」


「まだ見つかっておりません!」


「地下水路側は確認したのか?」


「現在調査中です!」


張り詰めた声が、

石壁へ反響する。


夜の神殿は、

本来静かな場所だ。


灯火を落とし。


祈りを残して朝を待つ。


だが今夜は違った。


人が走る。


鐘が鳴る。


記録庫が開かれる。


「……何故だ。」


継承儀は、無事になされた。


ヨルは新たな王を拒まなかった。


剣と、王権。


二つを持つ女王の誕生。


神殿にとってそれは――

初代国王の再来を意味していた。


ヨルは揺らがない。


だが。


継承儀での失態。


もし黎明側の付き添い人死亡が確定すれば。


神殿だけでは済まない。


劍国そのものの問題になる。


神官長は、

険しい顔のまま記録へ目を通していた。


「……待て。」


低い声が落ちる。


「この世話役、

誰が通した。」


周囲が、

静まり返る。


記録官が、

慌てて羊皮紙を捲った。


「……本来の担当は、別の者となってます。」


「何?」


神官長の目が、

鋭く細まる。


やがて。


奥から、

青ざめた神官が連れて来られた。


「申し訳ございません……!」


震える声だった。


「直前に、

変更が入ったと聞かされておりました……」


「誰からだ」


「それは……っ」


神官は、

顔を伏せる。


「王宮側神殿連絡室より、

正式変更と……」


空気が、

凍る。


神官長は、

ゆっくりと目を閉じた。


あり得ない。


継承儀直前での、

世話役変更など。


本来ならば、絶対に。


「失踪した神官の身元は。」


低い声で、

神官長が問う。


記録官は、

僅かに躊躇った。


「……黎明国出身です。」


「前劍国王陛下ご即位以前より、

神殿へ所属しております。」


「当時はまだ若手でしたが、

継承儀にも立ち会っております。」


「…………」


祭祀長の表情が、

僅かに変わった。


「……黎明か。」


誰にも聞こえないほどの低い声だった。


その場にいた神官達は、

誰も言葉を発せなかった。


夜の神殿の空気は、異様なほど冷えていた。

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