顔
「―――発見された遺体は、
顔が焼き潰されていたようです。」
一瞬、
心臓が跳ねた。
「……そう。」
Lunariaは、
静かに答える。
続けて。
目で合図を送る。
官僚は、
硬い表情のまま続けた。
「身体的特徴と、所持していた装飾品から黎明国側付き添い人の可能性が高いと見られています。」
「ただ、顔が損壊しているため、現時点では断定できません。」
「現在、身元確認を進めております。」
――――夜が近づいていた。
政務室の窓は、
もう薄く青い。
机の上には、
まだ書類が積まれている。
昼間より静かになった室内で。
その報告だけが、
重く沈んでいた。
「…………」
Lunariaは、
ゆっくりと息を吐く。
あの儀式の時、後ろには
確かに付き添い人がいた。
けれど、深く垂らされたベールのせいで、
顔までは見えていない。
あの時後ろにいた人物が、本当に
今回の被害者なのか。
まだ、わからなかった。
ただ、もし本当に被害者が
黎明側付き添い人なら…
劍国神殿の内部で、
黎明側人間が死亡したことになる。
しかも、顔を焼かれている。
それは、偶発ではなく意図だ。
問題は――誰が、何のために。
「神殿側は、まだ何も?」
「はい。
現時点では。」
官僚は、
僅かに視線を伏せた。
「世話役神官も、
行方が知れておりません。」
「…………」
逃亡。
その二文字が
誰の口からも出ないまま、
室内の空気は重く沈んでいた。
Lunariaは、
目を伏せる。
もし。
神官が本当に逃げているなら。
疑いは、
さらに深くなる。
「……黎明側へは。」
「まだ、
正式報告前です。」
「そう。」
早すぎても駄目だ。
遅すぎても、
隠蔽になる。
胃の奥が、
重く軋む。
兄ならどうしただろう。
その考えが浮かびかけて。
Lunariaは、
小さく息を吐いた。
考えても仕方ない。
今ここに居るのは、
自分だ。
「それから…」
別の書類が、
静かに机へ置かれる。
「こちらが、
宵の国代表より届いております。」
Lunariaは、
視線を落とす。
王弟が残すと言った者達の名簿だった。
見覚えのある家名が並んでいる。
王弟付きの高官。
政務官。
侍従。
その中へ。
一つの名前が、
目に止まった。
王弟子息三男。
「……」
Lunariaは、
ほんの僅かに眉を寄せる。
……どんな方だっただろうか。
体調のせいで、
記憶がひどく曖昧だった。
顔が、思い出せない。
晩餐会で見かけた、
王弟子息の後ろに控えていた、
あの男性だろうか。
――多分。
華やかな王弟子息長男の隣にいた、
静かだが、きちんとした印象の…
隙がない立ち振る舞いをしていたのを
覚えている。
「…………」
王弟が、
子息まで残していった。
そこまでして。
宵の国は、
劍国へ手を貸そうとしている。
Lunariaは、
静かに書類を閉じた。
「西棟の空き部屋を、
政務室として宵の国側へ回して。」
「あちらの方が動きやすいように。」
「承知しました。」
官僚は、
すぐに一礼する。
扉が閉まり。
政務室へ、
静けさが戻る。
「…………」
ふと。
Lunariaは思い出した。
そういえば。
晩餐会の頃は、
もっと息苦しかった。
胸へ、
重く何かが圧し掛かるような。
常に誰かに見られているような。
あの感覚が今は少しだけ薄れている。
「…………」
理由はわからない。
ただ戴冠式以来、“何か”の気配だけは
僅かに変わっていた。




