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ヨルから生まれた物語  作者: 灯ノ森みつき
第二章《波紋》

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宵の国、謁見の間

日が傾き始めた頃。

宵の国との謁見が行われた。


「宵の国王弟殿下、

ご入室」


式部官の声に、扉が静かに開かれた。


最初に入ってきたのは、

宵の国王弟だった。


深い紺を基調とした正装。


歳を重ねた落ち着きと、

隙のない空気を纏っている。


その後ろへ、

柔らかな微笑みを浮かべた王弟子息と、

数名の随員達が続いた。


「此度の戴冠、

誠におめでとうございます」


一同は、Lunariaに向かって深く一礼する。


「宵の国の皆様にも御列席いただき、とても嬉しく思います。」


Lunariaは微笑みながら、

感謝の言葉を述べた。


短い儀礼。


明日帰国する宵の国の使節団。

それを前提とした最後の言葉が、

穏やかに交わされていく。


王弟は、静かにLunariaを見つめていた。


その眼差しは暖かく、

黎明国のような推し量るようなものではなかった。


……息がつける。


Lunariaの肩からほんの少し、力が抜けた。


この人は、変わらない。


まるで、宵の国の在り方そのもののよう。


戴冠前のLunariaに対しても、

女王となった今でも。


Lunariaを、

Lunariaとして見ているような眼差しだった。


「宵の国の皆様方。

わが劍国は、

貴国の此度のご来国に深く感謝致します。

今後も変わらぬ友好を――」


その時。


とん、と扉の外から控えめな音が響いた。


「…………」


室内の空気が、

僅かに止まった。


入り口近くに控えていた官僚が、

扉の隙間から報告を聞く。


その直後。

官僚の顔色が目に見えて変わった。


「…………」


一瞬だけ。


躊躇うような沈黙。


本来なら、他国との正式謁見中に、

差し込むべきではない。


だが、そのただならぬ空気を読み取ったのか、

王弟の後ろに控えていた王弟子息が動いた。


「どうぞ。」


柔らかな声。


官僚は一瞬躊躇したが、

王弟子息に緩やかに促され、

やがて意を決したように一礼した。


「……謁見中、失礼致します。」


張り詰めた声だった。


「先程、王都港湾側より報告が入りました。」


「……身元不明の遺体が、

発見されたとのことです。」


小さな声だった。


だが、

その場にいた全員がその報告を聞いていた。


「現在、

確認を進めておりますが……」


官僚は、

その先を飲み込む。


「…………」


Lunariaは、

黙ったまま耳を傾けていた。


知らず、指先に力が籠る。


王弟は、目を伏せていた。


王弟子息は、Lunariaの手元に

視線を向けていた。


「――――――」


Lunariaは、息を詰めた。


だが、姿勢は崩さなかった。


揺らいでいることを、気取られてはいけない。


兄なら、きっとそうしていた。


官僚が退出した後、

Lunariaは改めて王弟に向き直った。


「お聞き苦しい報告となりましたこと、お詫び申し上げます。」


「……差し支えがなければ。

我が国の者を数名残しましょう。」


室内の空気が、

僅かに揺れた。


「今は、慌ただしいでしょう。」


少し砕けた、けれども穏やかな声音だった。


押しつけでもない。


恩着せでもない。


ただ。


静かに、

手を差し伸べるような声。


「…………」


Lunariaは、

ほんの一瞬だけ目を伏せた。


それから。


小さく頷く。


「……感謝いたします。」


宵の国の王弟は、多くは語らない。


けれど。


心強かった。

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