黎明国使節団
謁見の間を出てしばらく。
王宮東棟に向かいながら、
黎明側高官は小さく息を吐いた。
「……思っていたより、押せませんね。」
随員の一人が低く漏らした。
高官は頷く。
兄王を喪ったばかりの、
戴冠直後の若い女王。
本来なら。
もっと揺れると思っていた。
だが。
――押し切れない。
なぜか、わからなかった。
威圧的でもない。
不安がないわけでもない。
あの前劍国王と比べれば、
経験も浅い。
押せば、
綻ぶ。
最初はそう考えていたが、甘かった。
「……妙だな。」
高官は、
低く呟く。
戴冠前の女王は、
今とは違う空気を纏っていた。
もっと小さかった。
もっと、不安定だった。
だが。
今ではあの女王の向こう側に、
何か別のものが、
立っているようだった。
あれは――先王と同じ気配だ。
「神殿の件、どうみますか。」
「……まだ断定は出来ん。」
廊下の向こう側を、
劍国の書記官が通り過ぎる。
その背を見送り、
高官はさらに声を潜めた。
「……前劍国王であったなら、
厄介だった。」
随員達が、
静かに顔を上げる。
「おそらく、神殿だけでは終わらん。
我ら黎明は、必ず探られることになっていただろう。」
閉ざされた祭祀領域。
他国人の失踪。
そして、神殿。
あの男なら。
それらを切り口として、
必ず次の綻びまで辿り着いていただろう。
神殿も。
黎明国王家のことも。
そして――
「……今の女王であれば、まだ。」
随員の言葉に、高官は頷いた。
「目の前の責務だけで手一杯のはずだ。」
あらゆる可能性が考えられた。
行方不明になった者は、
現在の黎明国王家の血を引く者であった。
事故による失踪。
事件によっての失踪。
自らの意思での逃亡。
そのどれであったとしても、
外交問題には変わりがない。
「だからこそ、今のうちに…」
高官は、言葉を飲み込んだ。
あの若い女王の側に、
夜が満ちてしまう前に。




