黎明国、謁見の間
午後の謁見の間には、
重い静けさが落ちていた。
高い天井と、それを支える白い石柱。
長く敷かれた深紅の絨毯。
玉座へ続く階段の上で。
Lunariaは、
静かに座していた。
王冠の重みには、
まだ慣れない。
女王としての正式礼装。
嵩高すぎて、玉座からほとんど動けない。
けれど、背筋だけは、
自然と伸びていた。
「黎明国使節団、入室致します。」
式部官の声が響く。
最初に入ってきたのは、
黎明国代表の高官だった。
白と金を基調とした、
黎明国の正装。
その後ろへ、
数人の随員達が続き
完璧な所作で一礼した。
「劍国女王陛下へおかれましては、
此度のご戴冠を迎えられましたこと、黎明国を代表し、心よりお祝い申し上げます。」
祝辞は丁寧だった。
けれど、その空気は冷たい。
薄い氷が、
室内へ張っているみたいだった。
「此度の御列席、深く感謝致します。」
Lunariaは、
静かに言葉を返した。
短い儀礼の後。
黎明側高官が、
ゆっくりと顔を上げる。
「……既に、
ご報告は届いているかと思われますが。」
Lunariaの態度を探るような視線に、
わずかに空気が張った。
「我が国の同行者一名が、未だ戻っておりません。」
誰も、動けなかった。
「現在も捜索を続けております。」
低く抑えた声音だった。
けれど。
その奥にある緊張を、
隠しきれてはいない。
「…………」
Lunariaは、次の言葉を待つ。
黎明側高官は、慎重に言葉を選んでいた。
「彼は、
此度の戴冠前儀式における、
正式な参加者の一人でした。」
その瞬間。
劍国側官僚達の間へ、
張り詰めた空気が走った。
閉ざされた祭祀領域。
そこへ。
他国の人間が正式に入り、
そして戻って来ていない。
ここに居る誰もが、その意味を理解していた。
Lunariaの脳裏へ。
白い回廊が、
一瞬だけ過る。
鈴の音――
白布。
付き添う気配。
――あの、重く深い圧。
「…………」
無意識に。
指先へ、
力が入る。
黎明側高官は静かに続けた。
「確認が済むまで、
我々は滞在を延長したく存じます。」
責める声ではない。
けれど。
確かにそこには、外交としての圧があった。
「……ええ。」
小さく。
Lunariaは、
頷く。
「必要な捜索と確認は、
こちらでも行わせます。」
Lunariaの声は、落ち着いていた。
ほんの僅かに、
黎明側高官の視線が動いた。
「感謝致します、女王陛下。」
深く。
黎明側は頭を垂れる。
その場の誰もが理解していた。
これは――
新たな女王にとっての、
最初の試練になるだろうことを。




