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ヨルから生まれた物語  作者: 灯ノ森みつき
第二章《波紋》

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不穏

昼を少し回った頃。


王の休憩室には、

静かな疲労が落ちていた。


窓辺へ寄せられた長椅子。


小さな丸机。


兄が生きていた頃から変わらない、

静かな部屋だった。


机の端には、

軽い昼食が並べられている。


ほとんど、手はつけていなかった。


Lunariaは、

冷めかけた茶をぼんやり見つめる。


窓の外では。


西方連合の旗が、

小さく揺れている。


見送りは、

滞りなく終わった。


笑って。


礼を交わして。


言葉を返した。


……はずだった。


覚えている。


ちゃんと。


覚えているのに。


まるで、

遠くから自分を見ていたみたいだった。


その時。


とんとん、と。


控えめな音が扉の外から響いた。


侍女が、

すぐに扉へ向かう。


低く、外の者から何事かを耳打ちされている。


瞬間。


侍女の顔色が変わった。


室内の空気が、僅かに張った。


急ぎの知らせ――


侍女は、

一瞬だけ迷うように目を伏せ。


それから、

意を決したようにLunariaへ向き直った。


「……失礼致します。」


張り詰めた声だった。


「黎明側より、

正式な申し入れがきた、とのことです。」


「通して。」


「失礼致します。」


許可するや否や、

数名の官僚達が休憩室に足を踏み入れた。


誰も口を挟まない。


「黎明国よりの申し入れです。

継承儀へ付き人として参加していた者が一名、

いまだ帰還していないとのことです。」


抑えた声色。


けれどそれがただの報告ではないことを、

その場に居た全員が理解していた。


「現在、王宮側でも捜索を行っておりますが……」


官僚は、

慎重に言葉を選ぶ。


「黎明側は、

確認が済むまで滞在延長を希望しております。」


「…………」


Lunariaは、

黙ったままその言葉を聞いていた。


窓の外では。


遠ざかる馬車列の音だけが、

微かに残っている。


「最後に確認されたのは……」


別の官僚が、

低く続ける。


「継承儀、終了前とのことです。」


「…………」


Lunariaの胸の奥を、

ひどく嫌な感覚が撫でていった。


終わり、ではなかった――


窓の外では、西方連合の旗が風に揺れている。


女王は小さく息を吸った。


劍国では、何かがこれから始まろうとしている。

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