不穏
昼を少し回った頃。
王の休憩室には、
静かな疲労が落ちていた。
窓辺へ寄せられた長椅子。
小さな丸机。
兄が生きていた頃から変わらない、
静かな部屋だった。
机の端には、
軽い昼食が並べられている。
ほとんど、手はつけていなかった。
Lunariaは、
冷めかけた茶をぼんやり見つめる。
窓の外では。
西方連合の旗が、
小さく揺れている。
見送りは、
滞りなく終わった。
笑って。
礼を交わして。
言葉を返した。
……はずだった。
覚えている。
ちゃんと。
覚えているのに。
まるで、
遠くから自分を見ていたみたいだった。
その時。
とんとん、と。
控えめな音が扉の外から響いた。
侍女が、
すぐに扉へ向かう。
低く、外の者から何事かを耳打ちされている。
瞬間。
侍女の顔色が変わった。
室内の空気が、僅かに張った。
急ぎの知らせ――
侍女は、
一瞬だけ迷うように目を伏せ。
それから、
意を決したようにLunariaへ向き直った。
「……失礼致します。」
張り詰めた声だった。
「黎明側より、
正式な申し入れがきた、とのことです。」
「通して。」
「失礼致します。」
許可するや否や、
数名の官僚達が休憩室に足を踏み入れた。
誰も口を挟まない。
「黎明国よりの申し入れです。
継承儀へ付き人として参加していた者が一名、
いまだ帰還していないとのことです。」
抑えた声色。
けれどそれがただの報告ではないことを、
その場に居た全員が理解していた。
「現在、王宮側でも捜索を行っておりますが……」
官僚は、
慎重に言葉を選ぶ。
「黎明側は、
確認が済むまで滞在延長を希望しております。」
「…………」
Lunariaは、
黙ったままその言葉を聞いていた。
窓の外では。
遠ざかる馬車列の音だけが、
微かに残っている。
「最後に確認されたのは……」
別の官僚が、
低く続ける。
「継承儀、終了前とのことです。」
「…………」
Lunariaの胸の奥を、
ひどく嫌な感覚が撫でていった。
終わり、ではなかった――
窓の外では、西方連合の旗が風に揺れている。
女王は小さく息を吸った。
劍国では、何かがこれから始まろうとしている。




