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ヨルから生まれた物語  作者: 灯ノ森みつき
一部:第一章『継承』

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潜む

禊の夜は、静かだった。


付き添い人の世話役神官は、

小さく響く水音を聞きながら、

その時が来るのを待っていた。


白い装束の裾が、

石床を掠める。


手元を照らす灯は、

これから起こることを予感するように、

不安気に揺れていた。


禊の間。

その奥で、付き添い人が身を清めている。


神官は、気づかれぬように香を焚き染めた。

効果が出るまで、一刻ほど。


香に火をつける手が、知らず震える。


大丈夫だろうか。


本当に。


もしも、これで継承がなされなければ?


いや、そもそも継承がなされるのか。


それすら今ではわからない。


……けれど、男の決意は固まっていた。


煙を上げ始めた香を、

そっと扉の奥に忍ばせた。


この国は、

夜によって閉ざされている。


二千年の昔から。


ならばこそ。


夜を繋ぐ王には、

正しいものが寄り添うべきだ。


未来を繋ぐために。


その想いだけは、決して揺らがない。

 




――ぴちょん。


地下水路に、水音だけが響いていた。


打ち付けるように。


何度も、何度も。


そのうち。


灯の届かない場所から。

ゆらりと、

人影が現れた。


白い布。


細い影。


顔は見えない。


けれど。


神官は、

ゆっくりと頭を垂れる。


「……お待ちしておりました。」


儀式まで、あと数刻。

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