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潜む
禊の夜は、静かだった。
付き添い人の世話役神官は、
小さく響く水音を聞きながら、
その時が来るのを待っていた。
白い装束の裾が、
石床を掠める。
手元を照らす灯は、
これから起こることを予感するように、
不安気に揺れていた。
禊の間。
その奥で、付き添い人が身を清めている。
神官は、気づかれぬように香を焚き染めた。
効果が出るまで、一刻ほど。
香に火をつける手が、知らず震える。
大丈夫だろうか。
本当に。
もしも、これで継承がなされなければ?
いや、そもそも継承がなされるのか。
それすら今ではわからない。
……けれど、男の決意は固まっていた。
煙を上げ始めた香を、
そっと扉の奥に忍ばせた。
この国は、
夜によって閉ざされている。
二千年の昔から。
ならばこそ。
夜を繋ぐ王には、
正しいものが寄り添うべきだ。
未来を繋ぐために。
その想いだけは、決して揺らがない。
――ぴちょん。
地下水路に、水音だけが響いていた。
打ち付けるように。
何度も、何度も。
そのうち。
灯の届かない場所から。
ゆらりと、
人影が現れた。
白い布。
細い影。
顔は見えない。
けれど。
神官は、
ゆっくりと頭を垂れる。
「……お待ちしておりました。」
儀式まで、あと数刻。




