禊
〈――それは剣であり、盾である〉
ぴちょん、と。
水滴が、
Lunariaの指先から垂れた。
「…………」
揺れる水面を眺めながら、
Lunariaの意識は沈んでいった。
劍国神殿の地下深く。
禊の水を受ける泉は、
表面を白い石で囲まれていた。
中は絶えず清らかな水で満ちている。
壁際に置かれた灯は、
薄ぼんやりと剥き出しの岩肌を照らしていた。
禊の間。
ここは元々、
地下水脈へ繋がる洞窟だったらしい。
ちゃぷん。
肩まで沈めた水が、
静かに揺れる。
冷たい。
けれど不思議と、寒くはなかった。
――ぴちょん。
また、
水滴が落ちる。
「…………」
心が落ち着くようだった。
Lunariaは、息をつき目を閉じた。
〈王が国を繋ぎ止める限り、劍は現れる〉
幼い頃から、
何度も聞かされてきた伝承だった。
〈それは王を守り、国を守り、境界を閉ざす――〉
ちゃぷん。
さらに深く沈むと、
水面へ、Lunariaの灰銀の髪が広がった。
兄の葬儀からおよそ二ヶ月。
ヨルはまだ、兄と共にいたようだった。
ここへきてから、息がしやすい……。
「兄様。」
溶けるような小声で、呼んでみる。
返事はない。
けれどほんの少し、夜が動いた気配がした。
――本当は、幼い頃から気づいていた。
兄の後ろには、何かがいる。
それは時折やってきて、
Lunariaの頬を撫でていった。
兄は"夜"と呼んでいたようだ。
夜が迎えに来た時は、
会いに来ちゃだめだ、と。
幼いLunariaは、何度も言い含められていた。
見たらだめだ。
触ってもだめだ。
呼ぶのも。
「…………」
だめだ。
――ぴちょん。
水滴が落ちる。
とたん。
――――――――ぐわん。
ぞわりと、
空気が震えた。
Lunariaの呼吸が、
僅かに止まる。
ぐるり、と天地がひっくり返ったみたいだった。
まるで。
暗闇の奥で、
何か巨大なものが静かに呼吸しているようだった。
「……………」
ぶるっと、肩が震えた。
何か、大きくて得体の知れない暗いもの。
……近づいてくる。
Lunariaに向かって。
「……大丈夫。」
出そうになる弱音を、ぐっと飲み干した。
……大丈夫。
水面が、
小さく揺れる。
――ちゃぷん。
その音だけが、
静かな地下へ広がっていく。




