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ヨルから生まれた物語  作者: 灯ノ森みつき
一部:第一章『継承』

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〈――それは剣であり、盾である〉



ぴちょん、と。


水滴が、

Lunariaの指先から垂れた。


「…………」


揺れる水面を眺めながら、

Lunariaの意識は沈んでいった。


劍国神殿の地下深く。


禊の水を受ける泉は、

表面を白い石で囲まれていた。


中は絶えず清らかな水で満ちている。


壁際に置かれた灯は、

薄ぼんやりと剥き出しの岩肌を照らしていた。


禊の間。


ここは元々、

地下水脈へ繋がる洞窟だったらしい。


ちゃぷん。


肩まで沈めた水が、

静かに揺れる。


冷たい。


けれど不思議と、寒くはなかった。


――ぴちょん。


また、

水滴が落ちる。


「…………」


心が落ち着くようだった。


Lunariaは、息をつき目を閉じた。


〈王が国を繋ぎ止める限り、劍は現れる〉


幼い頃から、

何度も聞かされてきた伝承だった。


〈それは王を守り、国を守り、境界を閉ざす――〉


ちゃぷん。


さらに深く沈むと、

水面へ、Lunariaの灰銀の髪が広がった。


兄の葬儀からおよそ二ヶ月。


ヨルはまだ、兄と共にいたようだった。


ここへきてから、息がしやすい……。


「兄様。」


溶けるような小声で、呼んでみる。


返事はない。


けれどほんの少し、夜が動いた気配がした。


――本当は、幼い頃から気づいていた。


兄の後ろには、何かがいる。


それは時折やってきて、

Lunariaの頬を撫でていった。


兄は"夜"と呼んでいたようだ。


夜が迎えに来た時は、

会いに来ちゃだめだ、と。


幼いLunariaは、何度も言い含められていた。


見たらだめだ。


触ってもだめだ。


呼ぶのも。


「…………」


だめだ。





――ぴちょん。


水滴が落ちる。


とたん。


――――――――ぐわん。


ぞわりと、

空気が震えた。


Lunariaの呼吸が、

僅かに止まる。


ぐるり、と天地がひっくり返ったみたいだった。



まるで。


暗闇の奥で、

何か巨大なものが静かに呼吸しているようだった。


「……………」


ぶるっと、肩が震えた。


何か、大きくて得体の知れない暗いもの。


……近づいてくる。


Lunariaに向かって。


「……大丈夫。」


出そうになる弱音を、ぐっと飲み干した。


……大丈夫。


水面が、

小さく揺れる。


――ちゃぷん。


その音だけが、

静かな地下へ広がっていく。

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