白月の神殿
――――――――シャンッ。
響き続けていた鈴の音が、
ひと振りだけ強く鳴り。
渡り車が、
ゆっくりと停まった。
白布の向こうで、
薄絹に包まれた灯が揺れていた。
Lunariaは、
静かに目を開ける。
どれほど走っていたのか、
もうわからない。
白布の内側は、
時間の感覚すら曖昧だった。
やがて。
外から、
神官の声が届いた。
「お着きになりました。」
さらりと白布が持ち上がり、
冷たい夜気が流れ込んできた。
神官に手を取られ、
Lunariaはそっと渡り車を降りる。
白い石畳。
薄絹に包まれた淡い灯。
長く続く渡殿。
月明かりを受けた神殿は、
白く静かに広がっていた。
中央の拝殿。
そこへ至るまでに真っ直ぐの石畳と、
白砂の庭が続いている。
淡い灯が、
風に小さく揺れた。
最後にここへ来たのは、
兄の葬儀だった。
あの日も。
同じ灯が、
静かに揺れていた気がする。
けれど今夜の神殿は、
あの時よりずっと静かだった。
人の気配が薄い。
音が、遠い。
まるでここだけ、
世界から切り離されているようだった。
Lunariaは、伏せていた視線を上げる。
拝殿の奥。
さらに暗い回廊が、
夜の深部へ続いている。
その下に、地下水の流れる禊の間。
更に奥には、継承の回廊。
そして、最も奥深く。
夜へ最も近い場所に、
初代国王の剣が祀られている祭殿がある。
祭殿中央には剣を納める座があり、
その周囲には歴代王達の剣が安置されている。
幼い頃から、幾度も聞かされていた。
だが、女性であるLunariaは
一度も足を踏み入れたことはなかった。
本来ならば――
〈剣〉は男性王族が継承するもの。
女性は、
足を踏み入れることすらできなかった。
「…………」
無意識に、
指先へ力が入る。
私に、繋げられるのかしら。
ぽつりと思い、唇を引き結んだ。
いや。
……繋げねばならない。
なんとしても。
兄が繋いできた、この国を。
二千年続く、劍国・ヨルを。
終わらせるわけにはいかなかった。
「こちらに。」
促されて、石畳の中央に降り立つ。
左右の渡り車からも、
二つの人影が降りてきた。
神官は二人の前へ進む。
一人へは柊の冠を。
もう一人へは、蔦で編まれた冠を戴かせる。
そして、互いに祈りを捧げた後、
二人はLunariaの両脇に並んだ。
深くかぶられた白い布が、
視線も、
声も、
その存在さえも覆い隠していた。
――見てはいけない。
――話してはならない。
そこに、ヨルを迎えるために。
それが、神殿による祭祀の作法だった。
神官達が、
静かに頭を垂れる。
「これより先、禊の道となります。」
低い声が、
白い回廊へ沈んでいく。
Lunariaは小さく頷き、
一歩だけ足を前に踏み出した。
それと同時に。
背後で重い音が響く。
……ゴゥン。
神殿の門が、閉じた音だった。




