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ヨルから生まれた物語【第二部連載中】  作者: 灯ノ森みつき
【第二部】第四章《花冠》

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2-59話 最後かもしれない

第二部 撰択編


空が白み始めていた。

もうすぐ夜が明ける。


祭りはまだ続いていたが、

喧騒は少しずつ遠ざかり、

静かな朝の気配が満ち始めていた。


石畳を踏む足音が、規則正しく響いている。


「意外だね。」


長兄が微笑みながら言った。


「Elliottが一番平気そうだ。」


「飲みたくて、飲めるようになったわけじゃないです。」


辺りを見ると、祭の空気に当てられ、

飲みすぎた人達が、そこここに座り込んでいる。


そう言う長兄も、

徹夜明けだと言うのに、

いつもと変わらない調子だ。


Elliottは苦笑していた。


「慣れただけです。」


酒が好きなわけではない。


ただ、いつも周りから勧められる。


昔、酒場から酒場へ渡り歩く人を、追いかけ回していた頃をElliottは思い出していた。


「劍国先王は、酒好きだったな。」


察したように、次兄がいう。


「……ですね。」


劍国先王。

現・劍国女王陛下の兄だ。


宵の国に来た彼は、

一人で城を抜け出しては連日酒場を回っていた。


連れ戻しに行くのは、

なぜかElliottの役目になっていた。


困っているElliottを見て、

いつも楽しそうに酒を飲んでいた。


「人騒がせな人でした。」


兄達も、苦笑しながら頷いていた。


それぞれの立場で、交流があったようだった。


「なのに、なんででしょうね。」


Elliottは、ぽつりと溢した。


若かった。


簡単に、死ぬ様な人ではなかった。


それなのに。


「……。」


「……こんなふうに、兄弟揃って朝帰りなんて初めてかもしれないね。」


黙ってしまったElliottに、長兄が言った。


「あちらでは、出来ないだろうね。」


「悪くない。」


次兄が、言葉を継ぐ。


本国では出来ない。


確かに、そうかも知れなかった。


兄達には立場がある。


隣を歩く弟を見て、

二人は少し嬉しそうに見えた。


「……ですね。」


つられて、Elliottも小さく微笑んだ。


きっとあの人も、同じだったんだろう。


こちらではできなかった。


「僕たちも、出来ることは今のうちにしておかないとね。」


「出来るうちに、ですか?」


「うん。三人で居られるのも、これが最後になるだろうしね。」


「――そうだな。」


次兄のEthanは、

目を伏せながら小さく微笑んだ。


……そういうことだったのか。


長兄が遅れて劍国にやってきた理由が、

分かったような気がした。


Edricの言葉に、

王弟家に届いた縁談の話が重なる――


Elliottは、

隣を歩いているEthanに目を向ける。


『劍国女王陛下の元に、各国から縁談の申込みが殺到しているらしい。』


次兄はいつか、Elliottにそう言っていた。


――兄は、確かに自分にそう言ったのだ。


それに続く言葉を、

Elliottはきちんと聞こうとしなかった。


遮ったのだ。

自分には関係ない、と。


兄は、それ以上何も言わなかった。


……兄はあの時、Elliottの意思を確かめようとしていたのかも知れなかった。


聞くことすら拒んだElliottを見て、

次兄は、意思がないものと受け取ったのだろう。


その上、長男のEdricは身を固めるつもりはなさそうだった。


ならば――

話がEthanに向かうのは必然だ。


「…………。」


そして、次兄は劍国に来たのだろう。


Elliottは、神殿前で女王と並んでいたEthanを思い出した。


白い月のような女王の隣に、

夜色の外套を纏った次兄の姿――


これが最後かも知れないのだ。

兄弟三人で、過ごす時間は。


兄と離れる寂しさと、

それとは別の棘が、

Elliottの胸の奥で小さく傷んだ。


「それにしても、

このまま城に向かうのはいただけないね。」


「酒臭い。」


「……無理ですね。」


三人とも、

女王が神殿から出てくる昼過ぎには、

仕事に戻らなければいけなかった。


一旦帰ってから身支度をしたら、

仮眠程度はできるだろうか。


まばらに帰路につく人たちを避けながら、

叔父の家への道を急ぐ。


ふと、向かい側から歩いてきた男に、

Elliottは一瞬の違和感を覚えた。


「……対象、捕捉。」


「――――」


途端に眠気が醒めた。

振り返る。


……いない。


「Elliott?」


「すみません。」


言葉を置いて、Elliottは駆け出した。


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