2-56話 月に寄り添う
第二部 撰択編
「――――」
白い花輿が、
神殿前広場に静かに停まった。
息を呑むように、
人々が見ている。
護衛の騎士が、
馬上から降りた。
Elliottの兄・Ethanだった。
「おや。」
隣で長兄が声を上げる。
Elliottもそちらを見る。
見慣れた兄の軍装だった。
深い藍。
銀の肩章。
宵の国の正式軍装。
だが――
肩から流れる祭礼用のマントだけが違った。
濃紺から黒へ。
夜空がそのまま布になったような色彩。
銀糸で縁取られた裾が、
夕暮れの光を受けて揺れている。
Ethanは、花輿へ歩み寄った。
白い帳が開かれる。
現れたのは――白銀。
わっと、歓声が上がった。
結い上げられた銀の髪に、
花冠を戴く白月のような女王の姿。
襟元まで閉じられた祭礼衣裳を彩る銀糸が、
光を受けて柔らかく輝いている。
肩から落ちる、白銀の外套。
裾に縫い取られた白花。
銀の蔦がそれを取り囲み、
奥には剣の意匠が沈んでいた。
白銀の糸で描かれたそれは、
まるで月光の中から現れたようだった。
Ethanが手を差し出す。
女王がその手を取る。
静かに。
ごく自然に。
花輿から降りるためだけの動作だった。
けれど、その瞬間――白い衣装の裾が揺れた。
夜色のマントが風を受けた。
月光に、夜が寄り添う。
「……。」
Elliottは、声が出せなかった。
その姿はあまりにも。
あまりにも――
ふと、女王が顔を上げた。
濃紫の瞳が、
静かにこちらを向いた。
「――――」
花が舞う。
鈴が鳴る。
黄昏色の空の下。
白銀の女王と夜色の騎士。
「ヨル様みたい……。」
王族席の女性達から、そんな声が漏れる。
ヨルが眠る日。
人々には、
まるで夜そのものが、
女王の傍らに立っているように見えた。
女王は神殿に向かう。
鈴の音に合わせるように、歩みを進めて。
女王は、神殿の入り口で立ち止まった。
護衛の騎士が一礼して下がる。
そして。
そのまま。
白銀の月だけを閉じ込めるかのように。
――神殿の扉は、閉ざされた。
「――たとえ王配であっても、神殿内には立ち入れないそうだよ。」
やっと動き出した空気の中、Edricは言った。
祭祀の間、人は神殿内に立ち入れない。
たとえそれが、王配であったとしても――
「……そうですか。」
Elliottが零した声は、乾いていた。
『明日は、ヨルがお姫様と結婚した日』
昨日の子供の声が思い出される。
神殿の扉は閉ざされたまま、
鈴の音は、微かに外へ漏れている。
ヨルがお姫様と結婚した日――
その時だけは、Elliottの目にもそう見えた。




