2-55話 水を運ぶ
第二部 撰択編
――――女王の乗った、花輿が行く。
人々の列の間を、
ゆっくりと進んでいく。
両脇からは花弁が撒かれた。
白い花。
金の花。
風に乗ったそれらは、
夏の空を舞っている。
街道の広場に立てられた花柱の周りでは、
神殿迎えの巫女達が踊っていた。
古くから伝わる音色に合わせて。
輪を描くように。
人々は歌い。
人々は踊り。
人々は祝う。
収穫を願い、種を蒔く。
夏至の祭り。
ヨルが眠る日。
王も、ヨルと共に眠る。
ひとつめの花柱で、
花輿がゆっくりと止まった。
降りてきた女王が、
手にした桶から水を撒く。
柄杓ですくい、飛沫をあげて。
水面に浮かべられていた一輪の白花が、
石畳の上に滑り落ちた。
黒髪の青年はそれを見ていた。
弟を連れ、
神殿の衣に身を包んで。
青年にとっては、女王も同じだった。
誰も、ヨルから逃げられない。
一年で最も昼が長く。
一年で最も夜が短い日。
宵の空に向かう、太陽の下で――
女王を乗せた花輿が進む。
ふたつめの柱に水を撒く。
花冠を被った子供達がいた。
親達にたしなめられながら、
それでも女王に向かって手を振っている。
それは、とても楽しそうに。
みっつめの柱に水を撒き、
女王は再び花輿に乗った。
離れた場所から、侍従は見ていた。
女王の乗った花輿は、
神殿に向かって進路を変えた。
神殿前の広場に据えられた、王族用の観覧席。
各国から訪れた来賓達がそれを見守っていた。
空は、黄昏色に染まりだしていた。
花の向こう。
歓声の奥に進む白い花輿を、
皆が見ている。
花が舞い。
鈴が鳴る。
輿を引く馬の嘶きに、人々の声が重なる。
やがて花輿は、
神殿前の広場へ辿り着いた。
神殿へ続く最後の道。
その入口を、女王が通る。
人々が頭を垂れる。
巫女達が花を撒く。
そのうち花輿はゆっくり止まった。
王族席の一角で、
青い瞳の青年がそれを見ていた。
隣にいる煌びやかな王子は、
微笑みながら弟を見る。
女王の頭上には花冠が戴かれていた。
銀糸が陽光を返す。
女王は顔を上げた。
歩み寄る、護衛の騎士。
手を取り、女王は立ち上がった。
濃紫の瞳が、青年を捉える。
視線の先――
女王の、白い衣の裾が揺れている。
人々から、ため息が漏れる。
花輿から降りた劍国女王は、
宵闇に落ちた月光のようだった。




