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ヨルから生まれた物語【第二部連載中】  作者: 灯ノ森みつき
【第二部】第四章《花冠》

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2-54話 王子様だったの。

第二部 撰択編


祭礼の音楽が響く。


王族用の観覧席は、

一般席から少し離れた場所に設けられていた。


周囲には警備兵。


両隣と、

背後には各国から訪れた賓客達がいた。


視線の先には、

花で飾られた街路が続いている。


「いつもよりはマシだね。」


Elliottの服装を見て、

長兄が言った。


「やめてください。」


不機嫌を隠そうともせず、Elliottは返した。


王族用の祭礼服――


長旅用の荷物に、

一応突っ込んでおいてよかった。


長兄の来訪を受けて、

夏至祭準備室に配属されていたElliottも、

急遽王族観覧席の方へ回されることになった。


来賓である長兄と同じ王弟家の人間に、

裏方で働かれるのは不都合らしかった。


そのため、Elliottの仕事は、

Ulric一人にのしかかることになった。


大変、申し訳ない。


「……本当に同じ服ですかね。」


長兄もElliottと同じ服を着ていた。


にもかかわらず……長兄が着ると、

なぜこうも煌びやかに見えるのか。


「常に見られる立場にいるからね。」


そう言った兄の声は、

いつもより少し落ち着いていた。


「…………。」


見られる、立場。


……特に今日は。


Elliottは昨日の話を思い出した。


王弟家に持ち込まれた、

劍国女王からの縁談。


長男。

次男。

そして三男の自分。


なかなか相手を決めかねている女王に、

劍国官僚側からの後押しとして、

自分たち三人がまとめて候補に挙げられたらしい。


宵の国王弟家三人全員分の釣書提出を打診したのは、王弟である父と、亡き母の弟である叔父だった。


前代未聞のことだった。


『どなたかおひとり、そちらでお選びください』


劍国側からの打診――


そして、

その返答がまだ行われていないことを、

叔父は苦し紛れに白状した。


「そこ!止まりなさい!」


すぐ近くで、警備兵の声が上がった。


いつの間にか考え込んでいたElliottは、

はっと顔を上げた。


見ると、

観覧席の前を走り抜けようとした子供が、

慌てて立ち止まっていた。


花飾りを頭に乗せた小さな少年。


そして……ぱちりと目が合った。


「あ。」


昨日の子だ。


王族席にいるElliottに気づいたのか、

驚いた顔をして固まっていた。


「大丈夫です。」


遮るように前に立とうとする警備兵を止め、

Elliottは少年を見た。


前夜祭の準備の日に、

ヨルの祭りのことを教えてくれた子供だった。


隣に座る煌びやかな長兄に目を向け、

そして、再びElliottを見る。


「……。」

「……。」


しばらく沈黙した後。


少年はぽつりと言った。


「お兄ちゃん、王子様だったの……。」


少年の中のElliottは、

先ほどまでただの「お兄ちゃん」だったはずなのに。


少年はどこか居心地悪そうに俯いている。


怒られる、とでも思っているようだった。


何と答えるのが正しいのか、

Elliottにわからなかった。


王族なのは事実だ。


だが――

昨日の自分と、

今日の自分の何が違うのか。


Elliott自身もよく分からない。


「……そうなるね。」


ようやく答える。


少年は、まだ少し納得していない顔だった。


そのまま警備兵に促され、

少年は、一般の観覧場所へ走っていった。


その背中を見送りながら。


Elliottは小さく息を吐いた。


服装が違う。

席が違う。


昨日と今日。


自分は、何も変わらないのに――


「――来たみたいだよ。」


街の向こう側で歓声が上がった。


長兄が顔を上げる。


Elliottもつられるように視線を向けた。


花で飾られた街路の先。


人々が一斉に頭を巡行路へ向けている。


女王の乗った花輿が、到着したようだった。


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