神殿からの迎え
神殿からの迎えが到着したのは、
宵闇を迎えた頃だった。
窓の外では、
既に城門前の灯が整えられている。
夜を渡るための火。
普段の祝祭より静かなそれは、
まるで真っ白な葬列のようにも見えた。
侍女達は、
誰も無駄口を叩かなかった。
淡い銀糸を織り込んだ礼装が、
静かにLunariaへ重ねられていく。
肩へ落ちる長衣。
細い帯。
胸元にはそっと飾章が下げられた。
王族としての正装だった。
……次にこの装束を纏う時には、
もう“王女”ではいられない。
「少し、
締め付けは強くありませんか。」
年嵩の侍女が、
帯を整えながら小さく問う。
「大丈夫よ。」
Lunariaは、
鏡越しに静かに答えた。
鏡の中の自分は、
思っていたよりも落ち着いて見えた。
その顔を見ながら、
ふと思う。
本当に。
明日の夜には、
全て終わっているのだろうか。
戴冠。
継承。
王位。
兄の不在。
そして、その先にいる自分。
考えようとして――やめた。
今はまだ、
考えるべきではない気がした。
若い侍女が、
震える指で最後の髪飾りを整える。
何度も角度を直している。
Lunariaは、
小さく目を細めた。
「そんなに緊張しなくても、平気よ。」
その言葉に、
若い侍女は思わず息を詰まらせる。
けれど、
笑うことはできなかった。
代わりに、
深く頭を下げる。
その様子を見て、
年嵩の侍女が静かに目を伏せた。
遠くで、
鈴の音が鳴る。
――来た。
神殿からの迎えが、
到着したのだろう。
部屋の空気が、
僅かに変わる。
境界を超えてくるような音。
誰も、
すぐには動けなかった。
やがて。
「……お時間です。」
年嵩の侍女が、
静かに告げる。
Lunariaは、
ゆっくりと立ち上がった。
衣の裾が静かに床を滑る。
侍女達が左右へ下がり、扉が開かれた。
薄暗い回廊の先に、
白装束の神官達が控えていた。
その奥の夜へ続くような暗闇の中で、
灯が静かに揺れている。
Lunariaは、
一度だけ振り返った。
子供の頃から過ごした部屋。
侍女達の顔。
その全てを、
静かに視線でなぞる。
それから。
何も言わず、
前を向いた。
静かに、歩き出す。
――境界の向こう側へ。




