2-49話 見えているもの
第二部 撰択編
回廊を、侍従達が忙しなく行き来している。
衣装室から見える景色は、
明日に控える夏至祭本番に向けて少し慌ただしく見えた。
Lunariaの祭礼用マントは、
最後の調整段階に入っていた。
元は、先王であった兄のために作られたものだった。
女王のために仕立て直された今も、
その面影は残されている。
「あなたに任せる。」
そう言われた衣装長は、
何度も調整を重ねたマントを女王の肩にそっと乗せた。
「……いかがでしょう。」
衣装長が肩口を整える。
鏡の前のLunariaは、
静かに外套へ触れた。
薄く光を返す白い布地。
細かく輝く銀の糸。
王家を象徴する白い花。
神殿を象徴する蔦と剣。
少々無骨な印象だった飾りは外され、
顔周りの装飾は柔らかく威厳のあるものへ変えられている。
元の形は残されていた。
それでいて、
不思議と違和感はない。
そこにいるのは、兄ではない。
それでも確かに、
兄から受け継いだ王の姿をしていた。
「――ありがとう。」
Lunariaは、微笑んで小さく答えた。
とても、満足な仕上がりだ。
衣装長は、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。」
その表情には、どこか安堵が滲んでいた。
こんこん、と乾いた音がして、
外から侍従の声が響いた。
「Ethan殿下、入室いたします。」
Lunariaの着替えが終わった知らせを受け、
警護担当の騎士が入室してきた。
宵の国王弟家次男・Ethan。
今日は、宵の国の正式軍装を身につけていた。
深い藍の上衣。
銀の肩章。
腰には、女王を護るための剣を携えている。
長身の騎士は、
Lunariaに変わりがない様子を確認すると
一礼し、そのまま静かに壁際に下がった。
その様子を見ていた周りの者達は、
思わず、ほうと息を吐いた。
「素敵……。」
若侍女の声が、ぽつりと漏れる。
祭礼用の衣裳を纏ったLunariaとEthanを、皆の視線が行き来している。
…………。
みんな、どうしちゃったのかしら。
急に室内が静けさに満ちて、Lunariaは瞬いた。
衣装長が声を上げる。
「陛下。」
「何?」
「警護の方は、祭祀当日もご一緒におられるのですか?」
「ええ、その予定よ。」
衣装長が、Ethanをじっと見ながら言う。
「……あのお姿で、警護なさるのでしょうか?」
「どうなのかしら。」
ちらっとEthanの方を見ると、
視線に気づいた騎士は首を振った。
「夏至祭当日は、儀礼軍装を着用する予定です。」
衣装長は黙った。
Ethanの全身を上から下までじっくり眺め、
目を細めて何かを考えているようだった。
そして衣装長は、
次に祭祀用の衣裳を纏うLunariaへ視線を向けた。
「…………。」
何かが、気に入らないらしい。
「……やはり、もう少々。」
衣装長は、長身の騎士を見た。
近くにいた衣装係達に、手早く指示を出す。
「何か?」
顔を上げたEthanに、衣装長は答えた。
「――祭祀ですので。」
そう言い、当たり前のように巻き尺を取り出した。




