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ヨルから生まれた物語【第二部連載中】  作者: 灯ノ森みつき
【第二部】第四章《花冠》

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2-47話 風の声

第二部 撰択編


「明日はね、ヨルが眠る日なんだって」


夏至祭の前夜祭。


今夜始まる祭りに備え、

劍国王都は賑わい始めていた。


神殿を中心に据えた三つの街の中央広場には、

それぞれ花で飾られた柱が建てられている。


明日、王の乗った花輿が通る道。


その巡行路を確認しに来たElliottは、

いつの間にか街の子供達に囲まれていた。


「そうなんだ?」


物珍しそうにこちらを見上げる子供達に、

Elliottは首を傾げる。


初めて聞く話だった。


「お兄ちゃん、宵の国の人?」


「そうだよ。」

「ふーん……」


「なら、お祭りのことあんまり知らないでしょ。」

「うん、あんまり知らない。」


Elliottも子供達と同じような調子で返すと、

子供達は待ってましたと言わんばかりに話し始めた。


「明日は太陽が一番長く出てる日だから、ヨルが眠るんだって。」


「起こさないように静かにって、母さんが言ってた。」


「だったら、なんで夜中までみんなで歌って踊るのさ?」


「うるさくて寝れないんじゃない?」


「そんなの違うよ。」


一人がむっとした顔で反論する。


「明日は、ヨルがお姫様と結婚した日だって!」


「うそだぁ!」


別の子がすぐに言い返した。


「だって前の王様は男の人だったもん。」


「昔のお姫様だよ!」


負けじと反論が返る。


「その子どもが王様になったって言ってたもん。」


「どれも全然ちがうってば!」


さらに別の子が割り込む。


「明日はヨルの誕生日なんだよ!」


子供達は真剣だった。


Elliottは思わず笑う。


「それは誰に聞いたんですか?」


すると。


「「「おばあちゃん!」」」


綺麗に声が揃った。


Elliottは吹き出した。


なるほど。

それなら仕方ない。


「Elliott様。」


聞き慣れた声にElliottは振り返った。


人垣の向こうに、Ulricが立っていた。


「探しました。」


少しだけ疲れた顔をしている。


「巡行路確認の途中で姿を消さないでください。」


「消してません。」

「消していました。」


子供達が顔を見合わせる。


「お兄ちゃん怒られてる……」

「怒られてるね。」

「大人も怒られるんだね。」


「怒られてませんって。」


笑い声が起こる。


侍従は小さくため息をついた。


「続きは明日にしてください。」


「はーい。」


子供達は素直に返事をする。


だが。


その場を離れる直前。


一人の子がElliottへ声を潜めて言った。


「でも本当だよ。」


「何が?」


「おばあちゃんが言ってたもん。」


真剣な顔だった。


Elliottは少し笑って頷く。


「そうかもしれないね。」


そう答えると、

子供達は嬉しそうに手を振りながら走っていった。


「また明日ねーー!」


笑顔で手を振り返しながら、

Elliottはふと先ほどの話を思い出した。


「夏至祭というのは、

街ごとに言い伝えが違うみたいですね。」


広場の中央にある花柱は、

祭の本番を控えて華やかに彩られている。


侍従は肩を竦めた。


「劍国は歴史が長いですからね。

王宮祭祀と民間祭祀の始まりは、

別のものらしいですよ。」


「別なんですか。」


「王宮側の祭礼は、

初代国王の時代から始まったそうです。」


「街の祭りは、

劍国の歴史よりも古いんですか。」


Elliottは驚いた顔をした。


世界最古の王朝を誇る、劍国・ヨル。


「……相当なものですね。」


Elliottが呟く。


Ulricもまた、

柱を見上げながら頷いた。


「長く続けば意味が増えます。

神が眠る日だったり、

結婚した日だったり、

生まれた日だったり。」


夏の風が吹く。


花で飾られた柱が、

ゆっくり揺れた。


「どれが本当なんでしょうね。」

「さぁ……。」


侍従は少しだけ考えた。


「元が何だったかなど、

もう誰にも分からないのかもしれません。」


Elliottはもう一度、

柱を見上げた。


花の隙間から、

青い空が見える。


明日は、ヨルが眠る日。


――ヨルがお姫様と結婚した日だって。


ふと、先ほどの子供の声が蘇る。


お姫様。


その言葉に、自然と劍国女王を思い浮かべた。


兄が言っていた。


『劍国女王陛下の元へ、各国から縁談の申し込みが殺到しているらしい』


「……そうですか。」


それだけ答えて、

Elliottは視線を戻した。


――――『お前、いつ来んの?』


いつかのLeonisの声が、

風のようにElliottの耳元を掠めていった。


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