2-45話 見てくれる人
第二部 撰択編
夕刻。
Lunariaは、
珍しく全ての政務から解放されていた。
明日の前祭まで、特にすることがない。
久しぶりにくつろいでみようかと、
しばらくぶりに団欒室に足を運んでみたが、
……落ち着かない。
何をお話しすればいいのかしら。
Lunariaは、
後ろに付き従う騎士のことを考えあぐねていた。
昼からずっと。
明日も、朝から。
祭祀期間中、Ethan殿下はLunariaの警護騎士として、常に傍へ控えることになっていた。
……正直、どうすれば良いのかわからなかった。
話しかけてもいいのか。
話しかけない方がいいのか。
相手は軍人だ。
それも、宵の国では数ある騎士団を纏める立場の将官だった。
そんな人を、自分の警護だけのために傍に置いてしまって良いのだろうか。
官僚達も、Ethan殿下は本来とても忙しい方だと言っていた。
「……あの。」
なんで、来てくれたんだろう。
そう聞いてみようかと声を上げたが、
はたと思い出した。
――この方も、王配候補なのよね……。
「はい。」
声は、すぐに返ってきた。
宵の国王弟家のEthan殿下は、
まっすぐにLunariaを見つめている。
「…………。」
聞けない。
もしも――
『王配候補として参りました。』
なんて答えられてしまったら。
あと数日の祭祀期間を、どんな顔をしてこの方と過ごせばいいのか。
Lunariaには、想像も出来なかった。
「…………。」
だから。
「その……なんとお呼びすればよろしいかしら。」
そう、話を逸らすことにした。
「Ethanで。」
思いがけず、返事はすぐに返ってきた。
――Ethan。
Ethan殿下、でも。
Ethan殿、でも。
Ethan様でもなく。
「Ethan。」
「はい。」
「……よろしいんでしょうか。」
「構いません。」
……本当かしら。
自分より年上の殿方を、呼び捨てにしてしまって。
なんだか、Lunariaは落ち着かなかった。
「ね、Ethan。」
「なんでしょう。」
Ethanの深い緑の瞳は、
まっすぐにLunariaを捉えていた。
あまりにもまっすぐな視線に、
思わずLunariaは口ごもった。
……あまり、似てないのね。
弟のElliott殿下は、
いつも視線を逸らしてばかりなのに。
そう思うと、
少しだけ胸の奥が痛んだ。
「少し、お話してくれないかしら。」
「私は話すのは得意ではありませんが……。Lunaria様がお望みでしたら。」
――Lunaria、様。
Lunariaは、目を瞬かせた。
久しぶりに、
名前を呼ばれた気がした。
「――ありがとう。」
思わず、微笑んだ。
その時から。
「それでね、Ethan。」
「はい。」
「Ethan、あのね。」
「はい。」
「Ethan。」
「はい。」
Lunariaは、Ethanの名前を何度も呼んだ。
Ethanはほとんど聞いているだけで、こちらから尋ねなければ「はい」としか答えない。
それでも。
ちゃんと聞いてくれる。
ちゃんと見ていてくれる。
「Ethan。」
「はい。」
それだけで、Lunariaはとても嬉しかった。




