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ヨルから生まれた物語【第二部連載中】  作者: 灯ノ森みつき
【第二部】第三章《芽吹き》

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2-44話 守るもの

第二部 撰択編


明日に夏至祭前祭を控え、

王宮では神殿側との最終打ち合わせが行われていた。


会場となったのは、

王宮西棟の会議室。


外交使節との会談にも用いられる、

格式ある部屋だった。


Lunariaの正面には、劍国神殿の祭祀長。

その隣には神殿連絡局の女が座っていた。

周囲には数名の補佐官達が、

三人を囲むように控えていた。


「まずは夏至祭の進行について

ご説明いたします。」


祭祀長が口を開く。


神殿連絡局の女が、

机上へ書類を広げた。


「祭祀は、日の出前より始まります。」


祭祀長が、

進行表へ視線を落とす。


「陛下には早朝、神殿内にございます白花の井戸にて祭水をお汲みいただきます。」


Lunariaは静かに頷いた。


国王が戴冠後、初めて迎える夏至祭では、

王自らが祭祀の要である“水守”を務める。

それが神殿に古くから伝わる習わしだった。


神殿連絡局の女が説明を引き継ぐ。


「正午からは“水守”として花輿にて王都三街を巡行し、各街の花柱へ祭水をお注ぎいただきます。」


「巡行経路は例年通り。

警備体制につきましては、

昨年までの配置を見直しております。」


「王都衛政局警備隊との連携も再確認済みです。

巡行中の警戒人員も増員しております。」


祭祀長が続ける。


「夕刻、中央神殿へお戻りいただき、

日没の時刻より神殿内祭祀へと移ります。

禊の後、翌朝のお目覚めまで、

神殿内にてお休みいただきます。」


そこで一度、

補佐官の一人が口を開いた。


「日没後の神殿内祭祀につきましては、

今回も身辺警護は入れませんか?」


部屋の空気がわずかに張った。


前回の祭祀では、

神殿内部に綻びがあった。


誰もがそれを覚えている。


祭祀長は即座に答えた。


「入れません。」


迷いのない声だった。


「神殿内祭祀で見聞きしたものを

外へ持ち出さないこと。

それが古より続く約定です。」


静かな口調。


だが一歩も譲る気はない。


Lunariaは小さく眉を寄せる。


「……それほどまでに?」


祭祀長は頷いた。


「はい。」


「それが、ヨルの理。

我々は、それをヨルの意思と呼びます。」


部屋が静まる。


誰も反論しなかった。


それは信仰の話ではない。


劍国という国が、

建国以来守り続けてきた約定の話だった。


今度は、

神殿連絡局の女が言葉を引き継いだ。


「前回の件を受け、

内部警戒は例年以上に強化しております。」


「祭祀に関わる神官は全員再確認済みです。

祭具管理、出入り管理、宿泊区域の監視体制も見直しております。

同様の事態は起こさせません。」


補佐官達もそれ以上は追及しなかった。


神殿側は譲らない。


今回ばかりは、

本気で警戒していることも伝わったからだ。


「――わかったわ。」


Lunariaは小さく頷いた。


その後も細かな進行確認が続いた。


神殿入りの時刻。

祭具搬入。


巡行時の導線。

神殿宿泊時の連絡体制。

夏至祭当日の祭祀手順。

そして後祭期間中の各国使節との会談日程。


一つずつ確認が進み、

やがて打ち合わせは終わりへ向かう。


「……以上となります。」


やがて、祭祀長が立ち上がり一礼する。


「お疲れ様でした。」


Lunariaは座ったまま、小さく会釈した。


祭祀長が下がろうとしたその時、

後ろに控えていた神学生が視界へ入った。


少し長めに揃えた艶やかな黒い髪。

身に纏うのは、白い神学生服だった。


まだ少年にも見える年頃だが、

妙に落ち着いた空気を纏っていた。


陽に晒されたことがないかのように肌は白く、

まるで白磁の彫刻のような美しい顔立ちをしていた。


深い藍色の瞳は夜空に星を溶かしたようにも見え、まるで祭祀長が天使でも連れ歩いているようだった。


「――――」


一瞬、目が離せなかった。


だが、神学生は何も言わない。


視線も合わせない。


ただ祭祀長の後ろへ静かに控えている。


やがて神殿側は退出していった。


「…………。」


扉が閉まり、部屋に静寂が落ちた。


……長い打ち合わせだった。


明日からはいよいよ夏至祭。


「……つかれた。」


Lunariaがほっとしたのも束の間。


「陛下、宵の国王弟家次男殿下がお越しです。」


補佐官が来客を告げる。


夏至祭準備室から知らされていた、

身辺警護の件だ。

午後から運用開始と言っていた。


「ええ。」


Lunariaは頷いた。


「通して。」


ほどなくして、扉が開かれる。


迎えるために、Lunariaは立ち上がった。


男が入室してきた。


途端。


その場の空気が止まった。


補佐官達がわずかに姿勢を正す。


――軍人だ。

長身の、鍛えられた身体。


黒にも見える短い濃茶の髪は、

額を出すように後ろへ流して纏められていた。


深い緑の瞳は、鋭く、

まっすぐにLunariaを見据えていた。


整った鼻梁が、

精悍な顔立ちをさらに際立たせている。


唇は薄く結ばれ、

表情にはほとんど隙がない。


その場に立っているだけで、自然と場が引き締まるような、そんな空気を纏っていた。


男は部屋の中央まで進み出る。


そして――


Lunariaの前で、片膝をついた。


騎士が主君へ忠誠を示すように、

右手を胸へ当てる。


「宵の国王弟家次男、Ethan Ehrenberg。」


静かな声だった。


「夏至祭期間中、

劍国女王陛下の身辺警護を拝命いたしました。」


そして。


Ethanは、深く頭を垂れた。


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