2-42話 会わないと。
第二部 撰択編
政務室にいるLunariaの前に、
山のような書類が積まれていた。
夏至祭を目前に控え、
各部署からの報告も増えている。
Lunariaは手元の書類に、
裁可印を押し続けていた。
こんこん、と扉が叩かれ、外から取次役の声がした。
「陛下。夏至祭準備室よりUlric殿がお見えです。」
「お通しして。」
「承知いたしました。」
答えて、Lunariaは顔を上げた。
一度気配が遠ざかり、
ほどなくして再び扉が叩かれた。
「失礼いたします。」
入ってきたのは、
王弟家長男付きの侍従――Ulricだった。
「あ。」
ほんの一瞬、Lunariaの表情が止まった。
そして、わずかに耳が赤くなった。
顔が熱い。
「夏至祭準備室より、最終配置案をお持ちしました。」
一礼し、Ulricが書類を差し出した。
「本日中に裁可をいただければ、
午後より運用開始とのことです。」
「わかったわ。」
Lunariaは書類を受け取った。
祭礼担当。
神殿担当。
警備担当。
順番に目を通していく。
その先で――指先が止まった。
「…………。」
女王身辺警護・Ethan Ehrenberg。
祭礼運営補佐・Elliott Ehrenberg。
「……裁可します。」
短く答え、印を押す。
Lunariaは、小さく息をついた。
そうなったのね。
Ethan殿下は、私の身辺警護。
Elliott殿下は、祭礼運営補佐……。
「……あの。」
「はい。」
思わず、Lunariaは目の前の侍従に尋ねた。
「祭礼運営補佐とは、どのようなお仕事なのですか?」
Ulricは、一度だけ瞬きをした。
それから、少し考えてから口を開いた。
「祭礼期間中に不足する業務全般の補佐でございます。神殿との連絡や、各部署との調整、現場確認など、多岐にわたるようです。」
「……そう。」
Lunariaは小さく頷いた。
「Ulricさんも、Elliott殿下とご一緒に?」
「はい。」
「では、お二人とも街の方におられるのですね。」
「そのようになります。」
「……そうなの。」
――これでは、会えない。
「陛下?」
「……え?」
いつの間にか、考え込んでいたらしい。
「ごめんなさい、なんでもないわ。」
慌ててLunariaは、視線を書類へ戻した。
侍従は何も言わない。
ただ、黙って裁可済みの書類を受け取った。
「…………。」
そういえば私。
この人をElliott殿下だと思っちゃってた。
ふと、声が漏れた。
「あの。Ulric……さん。」
「なんでしょう?」
「――この間のこと、忘れてもらえるかしら?」
ぽつりと零れる。
Ulricは一瞬驚いたように瞬き、
口元を、ほんの少しだけ緩めた。
「私は、何も覚えておりません。」
「…………。」
絶対にわかっている顔だった。
Lunariaの耳が、また少し赤くなった。




