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ヨルから生まれた物語【第二部連載中】  作者: 灯ノ森みつき
【第二部】第三章《芽吹き》

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2-37話 知らなかったこと。まだ知らないこと。

第二部 撰択編


夏至を目前に控えた夜。


昼間より幾分涼しくなった風が、

王宮の屋上を吹き抜けていく。


遠くに見える王都の灯り。


祭りを迎える準備は、

今も続いているのだろう。


屋上の塀に腰を掛けたLunariaは、

その灯を見下ろしながら、

顔を埋めるように膝を抱えていた。


「……やだもう。」


昼間のことを思い出し、

思わずぎゅっと目を瞑る。


恥ずかしい。


とても。


ものすごく。


恥ずかしい。


なんで私、勘違いしちゃったのかしら……。


西棟の中庭にいたあの人。


王弟家の三男だったなんて。


「絶対、変な顔しちゃってたわ……。」


きっと、みんなに見られてた。


ただの、猫好きな侍従か何かだと思ってたのに。


「どうしよう。」


色んな感情が一度に押し寄せてきて、混乱する。


「……Elliottだって。」


赤くなっている頬に手を触れながら、

Lunariaは呟いた。


それは、知っていた名前だった。


けれど――知らなかった。


私に、美味しいお茶をくれた人。


仕事を請け負ってくれる優秀な人。


猫に餌をやっていた人。


話しかけてもそっけない人。


私を、陛下と呼ばない人。


怪しい男と顔見知りな人。


いやに身軽で。


ただ者じゃない身のこなし。


夜の空気の中。


戸惑うLunariaを置いて、

逃げるように帰って行った人。


「……全部、同じ人だったのね。」


気持ちが少し落ち着いてきて、

Lunariaは小さく息をついた。


冷静になってみると、それほど恥ずかしいことでもないのかもしれない。


……いや。


でも、やっぱり恥ずかしい。


「……。」


黙って、膝へ額を押し付ける。


ただ人違いをしていただけだ。


それだけなのに。


どうしてこんなに動揺するのか。


「へんなの……。」


そして。


ふと、あの夜のことを思い返した。


西棟の中庭。


Lunariaが、なぜそこへ行ったのかを。


「――そうだわ。」


Lunariaははっと顔を上げた。


Yuleだ。


Yuleを探しに、行ったんだった。


その時、夜は青年の後ろにいた。


そして、また別の日――


Lunariaの前に、黒装束の男が現れた。


彼が襲われて、Yuleが――


《観る者》


黒い男が、そう言っていた。


観測対象。

特異点。

次代座標候補……。


……観測。


『俺は、実験動物みたいなものです』


『貴女は違う』


「……そうだったわ。」


本来なら、

もっと早く確認すべきことだったのかもしれない。


どうして今まで、深く考えなかったのだろう。


『我らは、"観る者"』


暗闇に浮かぶ、黒装束の声。


『我らは、ただ観測する』


『この世界が、どこへ収束していくのかを――』


『"観る者"、でございます』


――これは。


聞いてはいけないことだ、と。


どこかで思考を止めていたようだった。


理由はわからない。


けれど、確かにそう感じた。


だからといって、

放っておいて良い話ではない。


王として、

いずれ確認しなければならないことだ。


だから。


「……会わなきゃ。」


小さく呟く。


そして、きちんと話を聞かなくては。


王都の灯りが、夜の向こうで揺れていた。


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