2-36話 お気の毒に。
第二部 撰択編
「Elliott様。」
「はい……。」
部屋へ戻るなり、
Ulricが低い声を出した。
これは怒られるやつだ。
ちゃんと座らなければならない。
「本日の顔合わせで、女王陛下が何度もあなたと私を見比べておられました。」
「はい。」
「その後、とても気まずそうにしていらっしゃいました。」
「はい。」
「これは一体、どういうことでしょうか。」
Ulricの視線が怖い。
「……多分、間違えていたんじゃないかと……。」
そこまで言って、
Elliottは何とも言えない顔になる。
「なぜですか。」
「それは俺にもわかりません……。」
答えた声は少し情けなかった。
本当にわからない、
というのも嘘だった。
前回の劍国滞在中。
Elliottは意図的に、
女王へ近づかないようにしていた。
女王に関わる用件は、
できる限りこの侍従へ回していた。
だから。
思い当たる節がないわけではない。
「だからいつも、ちゃんとした服装をしてくださいって何度も……。」
Ulricは、
呆れたようにため息を吐いた。
彼の身なりは、
王族の隣に立つ人間として、
いつも隙なく整っている。
王弟家の人間が人前へ出る時の姿を、
そのまま形にしたような男だった。
「だって窮屈すぎるんです、この服。」
Elliottは肩を竦める。
「あなた、本当にあのEdric様の弟ですか?」
外交官の兄、Edricの装いはいつも完璧に整えられていた。
髪も、服も、纏う香りでさえ、
その場に相応しいものを常に選んでいる。
そのこだわりは、
侍従として傍にいるUlricの服装にまで及んでいた。
かたやElliottは政務官。
同じ王族とはいえ、裏方だ。
服など、最低限整っていればいい。
「お前がきちんとし過ぎてるんじゃ……。」
「反省してませんね?」
「反省してます。」
「してません。」
侍従の目が怖い。
Elliottは視線を逸らした。
王族らしい装いが嫌いなわけではない。
ただ。
動きにくい。
走りにくい。
息苦しい。
それだけだった。
「そもそもあなたは、身軽過ぎるんです。」
侍従が額を押さえる。
「王族が屋根に登りますか。」
「必要なら。」
「地下通路へ潜りますか。」
「必要なら。」
「猫を追いかけますか。」
「必要なら。」
「ほら!」
「……最後は必要なかったかもしれません。」
侍従は深いため息を吐いた。
「女王陛下も、お気の毒に。」
「やめてください。」
即座に返る。
「事実です。」
「やめてください。」
耳が痛かった。




