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ヨルから生まれた物語【第二部連載中】  作者: 灯ノ森みつき
【第二部】第三章《芽吹き》

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3-34話 空っぽの王配室

第二部 撰択編


女王を政務室に送り出した後、

二人の侍女達は、Lunariaの部屋を整えていた。


使った茶器や、読みかけの書類。

朝の身支度で使われた品々。


それぞれを元の場所へ戻していく。


そんな中で、

若い侍女だけがどこか落ち着かない様子だった。


屋上へ続くテラスの鉢植えに水をやりながら、

視線はきょろきょろと忙しなく彷徨っている。


そわそわしていた。


朝からずっと。


「なんで、あなたが緊張してるんですか。」


呆れた様子で年嵩の侍女に言われる。


「だって……。」


若い侍女は言いかけて、

口を閉じた。


言われてみればその通りだった。


顔合わせをするのはLunariaであって、

自分ではない。


「それは、そうなんですけど……。」


うまく言葉にできない。


もごもごしていると、

昨夜の猫が若い侍女の足元へ擦り寄って来た。


「まあ。」


年嵩の侍女が少し微笑む。

どうやら、猫が好きらしかった。


「どこから来たの?」


そう言いながら、抱き上げる。


年嵩の侍女の目尻は、少し下がっていた。


昨夜から、

すっかり居着いてしまったようだった。


抱き上げられた猫は、

年嵩の侍女の腕の中で大人しくしている。


頬を寄せられても特に嫌がる様子はない。


「……。」


若い侍女は、

しばらくその様子を眺めていた。


猫は、あるがままだった。


こんなに見られていても、こんなに構われていても。


どこまでも、気ままなままだ。


好きな場所へ行き、好きな場所で眠り。


気が向けば戻ってくる――


人ならば、

こうはいかないのだろう。


「…………。」


若い侍女は小さく息を吐いた。


姫様の婚約者は、

どうやら正式にはまだ決まっていなかったらしい。


宵の国王弟家の三人のうちの、

誰かになるそうだ。


……私が思っていた方とは、違うのかしら。


なぜ、姫様はどなたかのお名前を選ばれなかったのだろう。


以前、

政務室にいらしていた王弟家三男殿下。


あの方が王宮にいられる間、

姫様はいつも西棟側の窓をご覧になっていた。


だから、姫様はあの方のことを……。


そう思っていたのに。


「言えない理由が、きっとあるのね。」


おそらく、ご兄弟のご事情だとか。

高官達の都合だとか。

神殿側からの、意見もあるかもしれない。


高貴な方達の恋愛は、

我々一般の者とはどうやら違うものらしい。


恋愛小説でも、悲恋ばかりだ。


「――姫様。」


姫様もちゃんと、

お好きな方と結婚できたらいいのに。


抱き上げられた猫は、

年嵩の侍女の腕の中で大きな欠伸をした。


そのうち、

身を捻って腕から抜け出し、

ひょいとテラスの柵へ飛び乗ると、

そのままどこかへ消えていった。


「あら……。」


残念そうに、

年嵩の侍女が呟く。


そして、ふいに年嵩の侍女は、

Lunariaの部屋とは反対側へ視線を向けた。


隣の王配室。

長い間使われていなかった部屋だった。


「そろそろ、あちらのお部屋も整えねばなりませんね。」


若い侍女も、

その視線を追った。


その部屋は、

まだ空っぽのままだった。


「――どなたが入られるのでしょうね。」


願わくば。


その方が、

どうか姫様のお好きな人でありますように。


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