2-32話 どんな顔で
第二部 撰択編
「起きてください。」
ばさり。
今日も、容赦なくカーテンが開かれる。
「やめて……眩しい……。」
いつものように。
長兄付きの侍従は、Elliottを叩き起こした。
突き刺さるような朝の光に、
Elliottは呻き声を漏らしながら、
両手で顔を覆った。
「本当に、朝が弱いお方ですね。」
「……夜行性なもので。」
目をこすりながら出した声は、
まだ眠たそうだった。
「本日の予定は……。」
「聞きたくありません。」
言おうとするUlricの言葉を遮り、
Elliottは布団に潜り込んだ。
「……子供ですか。」
「あー……無理だ、ほんとに。」
呟き、顔を布団へ埋めたまま動かない。
Ulricは呆れたように目を細めた。
「諦めてください。」
「……はぁ……。」
Elliottは大きく息を吐く。
それから、
観念したようにばさりと布団を跳ね上げた。
気乗りしない様子のまま寝台を降りる。
「よくできました。」
「やめてください。」
侍従の軽口へ、
Elliottは拗ねたように返した。
窓の外は既に明るい。
夏至を目前に控えた朝の日差しが、
容赦なく部屋へ差し込んでいる。
のろのろと洗面台へ向かいながら、
Elliottはふたたび、息を吐いた。
冷たい水で顔を洗う。
少しだけ頭はすっきりしたが、
気分はまったく冴えなかった。
「……。」
Ulricは、
前回の滞在時に王宮内へ広がった噂話が、
この憂鬱の原因だと思っているのだろう。
戴冠直後の若い女王。
その私室へ夜な夜な通う男。
――が、俺。
全くの濡れ衣だ。
「……嫌だなぁ。」
濡れた前髪をかき上げながら、
Elliottは一瞬考える。
……いや。
確かにそれも嫌ではあるけれど。
それよりも――
不意に、
あの夜の光景が脳裏を過った。
西棟の中庭。
猫に餌をやっていたところへ、
彼女は現れた。
人を探している、と言って。
夜を携えて。
一番まずいタイミングで、
一番来てほしくなかった場所へ。
そのことについて、
Elliottは女王へほとんど何も説明しなかった。
「……どんな顔をして行けばいいんだ?」
聞こえないほどの呟きが落ちた。
帰り際に見た女王の顔は、
とても不機嫌そうだった。
今回は、もう逃げられない。




