2-30話 Ethanの休暇理由
第二部 撰択編
劍国の夜は涼しく、
外からは虫の鳴き声が聞こえていた。
劍国から借り受けた家の客間で、
叔父は甥の向かいに腰を下ろしていた。
「まさか、お前まで来るとは。」
叔父は酒杯を傾ける。
「世話になります。」
濃茶色の短い髪をした甥のEthanは、
軍人らしく深々と頭を下げた。
「仕事はどうした?」
「副官に任せて来ました。」
険しい顔で言う甥に、叔父は笑った。
「雪でも降るんじゃないか。」
『観光』
その理由で休暇を取ったと聞いた時、
王弟家は少々騒がしかったらしい。
Ethanが軍部の要職に就いてからは、
なかなか会う機会もなかった。
叔父は酒杯を掲げた。
「この間に有事でもあれば、一大事じゃないか?」
「ありません。」
Ethanは迷いなく言い切った。
「言い切るのか。」
「言い切ります。」
「あるとすれば、劍国でしょう。」
叔父は眉を上げた。
「夏至祭か?」
「それもありますが……。」
沈黙が落ちる。
次男は窓の外へ目を向けた。
「ヨルが動いている。」
静かな声だった。
「Elliottは、必ずそれの近くに行く。」
叔父は酒杯を止める。
劍国高官から打診を受け、
王弟家三兄弟全員分の釣書を提出した頃から、
確かに何かが動いている気はしていた。
「確信か。」
「確信です。」
「だから、観光か。」
次男は気まずそうに視線を逸らした。
「……それしか、書く理由が思いつかなかったので。」
叔父は吹き出した。
この甥は、昔から変わらない。
本人も上手く説明はできないようだった。
だが、こういう時のEthanは大抵外さない。
「――そうか、Elliottなのか。」
「はい。」
その時、控えめなノックの音が響いた。
「失礼します。」
扉が開く。
荷解きを終えたElliottだった。
その後ろには、侍従のUlricもいる。
「遅かったな。」
「荷物が思ったより多かったんです。」
Ethanに言われ、Elliottは苦笑した。
Ulricも軽く頭を下げる。
叔父は三人を見回した。
次男。
三男。
そして、長男付きの侍従。
しばらく静かだった家。
ようやく落ち着いたと思っていたのに。
気付けば、
また人が増えている。
叔父は酒杯を口元へ運んだ。
「しばらくは、またむさ苦しくなるな。」
窓の外では、
虫の鳴き声が静かに続いていた。




