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ヨルから生まれた物語【第二部連載中】  作者: 灯ノ森みつき
【第二部】第二章《蕾》

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2-22話 Leonisのマント

開け放たれた窓から届く風は、

少し夏花の香りを乗せていた。


夏至祭を目前に控え、王宮の衣装室では女王のための祭礼用衣装合わせが行われていた。


「……重いわ。」


軽やかな初夏の空気とは裏腹に、

Lunariaの肩には、先王Leonisが纏っていた祭祀用のマントが乗せられていた。


白を基調とした光沢のある厚い生地に、

銀糸で、神殿と王家を象徴する細やかな紋様が刻まれている。


光を受けるたび、

水面を渡る月明かりのような輝きが、

静かに生地の上を流れていた。


「やはり大きすぎますね。

先王陛下は、かなり長身でございましたから。」


鏡に映った女王の姿を見て、王宮付きの衣装長が言った。


「丈も……難しそうですね。」


引きずるどころか、重みで引っ張られそうだ。


マントの裾に目をやり、

衣装長は、困った様子で頬に手を添えた。


衣装係が、Lunariaの肩からそっとマントを下ろす。


重みから解放され、首からやっと力が抜けた。


「他に使えるものがあるとすれば……。」


衣装長は部屋の隅に目をやり、衣装係に指示を出した。


しばらくして運ばれてきたのは、

数着の女性用のマント。


「これくらいでしょうか。」


Lunariaに見えるように、吊るして並べる。


「うわぁ……っ。」


近くにいた、若い侍女が目を輝かせる。


淡い春色に銀糸をあしらったもの。

濃紺に、宝石を散りばめたもの。

純白に金の刺繍を施したもの。


その他にも、いくつか。


しかし、どれもかなり古かった。


「歴代王は、男性の方が多かったもので……。」


祭祀用の女性マントが少ない理由だった。


衣装長は全ての祭祀用マントを

Lunariaに合わせてみたが、どれも納得のいかない様子だった。


「どれも大きいわ。」


ぽつりとこぼす。


鏡に映った自分の姿。


マントを着ている、と言うよりも

完全に"着せられている"ように見えた。


「陛下はお若く、また小柄でおられますから……。」


気を配りながら、衣装長が言う。


その間も手は休めずに、

次々と衣裳をあてがっていた。


「うわぁぁ……。」


若い侍女は、完全に仕事を忘れている。


次々に出てくる美しい祭祀衣裳に、

すっかり夢中なようだった。


「――やはり、難しいですね。」


首を傾げながら、衣装長が呟く。


どれも微妙にサイズが合わない。

しかも、かなり古く傷んでもいる。


「新しく仕立てられた方がよろしいかと。」


「……。」


衣装長に言われ、Lunariaは少し考えた。


男性用のマントは、大きすぎる。

女性用のマントは古すぎた。


でも、新しく作ったとしても……

これから先に、使う人はいるのかしら。


Lunariaの前には、古く傷んだ数着のマント。


新しく作ったとしても、

それもいずれこうなるだろう。


国王が街の夏至祭に参加するのは、戴冠した年の一度限りだ。


その後、Lunariaが袖を通すことはないだろう。


それに……。


次、がいない。


「……兄のものを、仕立て直してもらえる?」


衣装長は、一瞬驚いたように瞬いた。


「なるほど。」


その考えはなかったようだった。


「足りないものや使える装飾は、

こちらの古い衣裳から回して。

このまま置いておいても、誰の目にも止まらないもの。」


「承知いたしました。」


衣装長が答える。


「意匠など、陛下のご意向がございましたら……。」


「ないわ。」


間髪入れずに答えると、

衣装長は驚いたように顔を上げた。


「一つだけあるとしたら……。」


「今使えるものは、今活かせる人の元へ。

それだけだわ。あとは全て、あなたに任せる。」


「――承知いたしました。」


衣装長は、どこか嬉しそうに微笑んだ。

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