↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヨルから生まれた物語【第二部連載中】  作者: 灯ノ森みつき
【第二部】第二章《蕾》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/149

2-18話 育種

正午。


白い石畳が、

強い日差しを照り返している。


研究棟へ続く中庭には、

ほとんど人影がない。


その奥にある講義室で、

神殿連絡局の女は、

留学生達の後方に立っていた。


今日の実習は植物学。


前方では神官が、

いくつかの苗を机へ並べている。


「同じ植物でも、

親株によって成長速度は変わります。」


若い苗を一本持ち上げる。


「こちらは成長の早い系統。」


隣へ別の苗を置く。


「こちらは花付きの良い系統です。」


留学生達が熱心に書き留める。

神官は花の付いた鉢を持ち上げた。


「そして花粉を移し、

別の系統を掛け合わせることで、

成長速度、品質、病への耐性など

それぞれの特徴を受け継いだ

個体が生まれることがあります。」


机の上には、

小さな種子が入った皿も置かれていた。


「もちろん、

全てが思い通りにはなりません。」


神官は穏やかに続けた。


「望む特徴が出ることもあれば、

出ないこともある。」


「育種とは、

長い時間を掛けた選別の積み重ねです。」


講義室はどこまでも静かで、

紙を走る羽根ペンの音だけが響いている。


神殿連絡局の女は、留学生達へ目を向けた。


その中の、黒髪の青年へ視線が止まる。


いつも通りだった。


背筋は伸びている。


ノートも取っている。


特に変わった様子はない。


けれど、何かが引っ掛かった。


青年が一度だけ目を伏せる。


それから、

こめかみを押さえるような仕草をした。


――気付いたのは、女だけだったかもしれない。


講義は続く。


しばらくして、青年が静かに立ち上がった。


「すみません。」


講義室中の視線が青年に集まった。


「少し外します。」


神官は一瞬だけ青年を見た。


そして、軽く頷く。


青年は一礼し、

そのまま研究棟を出ていった。


女は無意識にその背を見送る。


「…………。」


――それから。


自分でも理由が分からないまま、

後を追っていた。


研究棟の外は暑かった。


白い石畳。


強い日差し。


建物の影へ回り込む。


そして、女は足を止めた。


――青年が壁へ手をついていた。


肩が震える。


次の瞬間。


吐き戻した。


「――」


女は動けなかった。


青年は壁に手をついたまま、

しばらく呼吸を整えていた。


やがて。


気配に気付いたのか。


ゆっくり振り返る。


そして、女と目が合った。


深い藍色の瞳。


強い日差しに照らされ、

今にも倒れそうなのに必死に立っているようだった。


「…………。」


――女は、声を出せなかった。


それから、青年は小さく息を吐いた。


しばらくして。


「……言わないで。」


――その声は、驚くほど弱かった。


今まで聞いたことがないほどに。


女は息を呑む。


青年は静かに女を見ていた。


「…………」


女は何か言おうとした。


けれど結局、言葉にならなかった。


女は何も言えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。