2-17話 王配候補、三人
青葉が風に揺れている。
日差しは日に日に強くなり、
季節は確実に夏に向かっていた。
机の上には、
相変わらず大量の釣書が積まれていた。
Lunariaは、
ため息を吐くことにさえ、疲れきっていた。
正直なところ、
もうよく分からない。
初めの方に見た釣書は、
ほとんど覚えていなかった。
一枚一枚、丁寧に目を通す。
けれど、内容はほとんど頭に入ってこない。
気持ちだけが焦る。
だって……。
決めないと……。
「女王陛下。」
劍国高官が声を掛けた。
「そろそろ、
いくつか候補は絞られましたかな。」
「…………。」
返事がない。
高官は少し首を傾げた。
「陛下?」
「……え?」
ようやく反応が返る。
「候補でございます。」
「候補?」
「はい。」
「…………。」
Lunariaは手元の書類を見た。
それから。
――しばらく。
……さらに、しばらく。
――じっくり考えてみたけれど。
「わからないわ……。」
高官達は顔を見合わせた。
「その……ひとつも、ありませんか?」
「え?」
「その……候補の、候補でも。」
「候補の、候補。」
Lunariaはさらに考える。
けれど、首を横に振った。
政務室が静まり返った。
「……ひとつも、ですか?」
こくり。
返事の代わりに、Lunariaは小さく頷いた。
劍国高官は、
眉間に皺を寄せながら目を閉じた。
「あー……。」
こほん、と、
わざとらしい咳払いをひとつ。
Lunariaが顔を上げる。
高官は何も言わず、
ただ、そっと数枚の書類を机の端へ置いた。
「何?」
高官は、やはり何も言わない。
言える立場ではないのかもしれない。
伴侶を選ぶのは国王だ。
誰かを勧めることは、出来ないのだろう。
だから、ただ置いただけだった。
そっと。
「…………。」
おすすめ、ってことかしら。
Lunariaは書類へ目を向けた。
一番上の封蝋。
見覚えのある紋章だった。
宵の国・王弟家。
「……知ってる。」
小さく呟く。
そして、封を切った。
――一枚目、長男・Edric。
知ってる。
戴冠式に来ていた、あの華やかな方。
十年前から、神殿側の王配候補者に入っていた方だ。
――二枚目、次男・Ethan。
優秀な方だと聞いている。
会ったことはないけれど。
――三枚目、三男・Elliott。
……知っている、と思う。多分。
戴冠前の晩餐会で、
長男と一緒にいた方だろう。
つい先日まで、劍国の臨時政務室にいた。
とても優秀な方で。
あの、お気に入りのお茶をくれた人。
「三人も。」
あまりにも自然な声だった。
政務室が静まり返る。
Lunariaは、じっくり釣書を眺めた。
長男……悪くない。むしろ、良い。
次男……悪くない。むしろ、良い。
三男……悪くない。むしろ、良い。
官僚達も、期待しているようだ。
――だったら。
もう、何も知らない相手よりは。
……Lunariaは、決めた。
「こちらで。」
劍国高官達は、
どよめきながら顔を見合わせた。
「で、どなたを?」
一斉に視線を向けられ、
Lunariaは三枚の釣書へ目を落とした。
「この中から、そちらで調整してください。」
政務室の空気が止まった。
「え。」
「この方たちなら、どなたでも。」
言うなり、Lunariaは立ち上がった。
「そんな。」
再び、高官達がどよめく。
「今日はもう、休みます。」
Lunariaは、
そのまま扉に向かって歩き出した。
もう、これ以上考える気力はない。
高官達が慌てて道を空ける。
「陛下――」
「――あと。」
ぴたっと、全員の動きが止まった。
「他の釣書は、全て片付けておいて下さい。」
そう言い、Lunariaは部屋を出た。
足早に。
誰にも、呼び止められないように。
もう、釣書なんて見たくもない。




