2-15話 兄さん
劍国王立図書館。
高い窓から差し込む日差しに、
司書は小さく目を細めた。
少し前まで心地良かった風も、
最近は少し暖かい。
初夏。
もうすぐ本格的な夏が来る。
「今年も早いなぁ……。」
パタパタと制服の襟を仰ぎながら、
誰に聞かせるでもなく呟く。
そのうち、この制服も夏物に変わるだろう。
図書館は今日も静かだった。
利用者は多くない。
紙をめくる音。
椅子を引く音。
窓から吹き込む風。
窓際の席は、
強い日差しを避けるように空いている。
日陰ならば、
まだ涼しく利用できるだろう。
「あの。」
声をかけられ、司書は辺りを見渡した。
「こっちです。」
目線を落とすと、
書棚の影に小柄な少年がいた。
十歳くらいだろうか。
最近よく見かける利用者の一人だ。
幼いが、神殿留学生らしい。
この年にしては珍しく、
とても静かな子だった。
「あの本、とっていただけませんか?」
礼儀正しい。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
本を渡すと、ぺこりとお辞儀をされ、
司書は思わず口元を緩めた。
数冊の本を抱えたまま、
少年は窓際の席へ座ろうとした。
……その席は、今日は暑すぎるだろう。
「あちらの席の方が、
今日は涼しく過ごせますよ。」
つい、声をかける。
少年は一瞬びっくりしたような顔をして、
それから、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。」
言われた席へ、
静かに移動して座る。
そして、おとなしく本を読み始めた。
ただ、本棚の札を見る時も、
本の文字を追う時も、少しだけ顔を近付ける癖がある。
目があまり強くないのかもしれない。
「よろしければ灯りをどうぞ。」
「あ……ありがとうございます。」
礼儀正しく、お辞儀を返す。
司書は、仕事をしながら、
どこかで少年を気にしていた。
そのうち、閉館の鐘が鳴り、
読まれた本が返却されてくる。
図書館は今日も平和だった。
ぞろぞろと、利用者が退館していく。
ふと少年の方に目をやると、
迎えが来たようだった。
「帰るぞ。」
入り口付近で待つ青年に、
少年は嬉しそうに、駆け寄って行った。
「兄さん。」
手を繋ぎ、そのまま家路につく。
平和な風景に、
司書の表情が少しだけ緩んだ。




