2-14話 次の子
今夜の月は、明るかった。
吹き込んできた風に、
手元を照らす灯りが揺れた。
机の上には、
まだ数通の釣書が残っている。
「もう、やだ。」
誰にともなく呟き、手元の書類を閉じる。
もう、泣いてしまいたかった。
目をやると、まだ数枚残っている。
名前も違う。
生まれも。
年齢も。
経歴も。
書かれていることだって、それぞれ違う。
けれど正直、
どれも似ていて。
「……わっかんない。」
Lunariaの本音が落ちた。
安心。
仕事。
顔。
それに……
「――ときめき……?」
口に出してみる。
なおさら、
わからなくなった。
本来、
王族の婚姻は、
本人ではなく周囲が決めるものだった。
だからこそ、自分で選べと言われても、
何をもって選べばいいのかが、
Lunariaには全くわからなかった。
「決めてって欲しかったわ。」
ぽつり。
小さな弱音は、夜の空気に溶けた。
兄や、皆が望む相手なら、
いっそ誰でもいいとすら思う。
早く終わらせたい。
けれど、なかなか答えが出せなかった。
『自分で選べ』
兄のLeonisなら、きっとそう言う。
「……わからないわ……。」
どう考えても、わからない。
書類も、どうせ数枚残したところで、
明日はさらに増えるだろう。
諦めて立ち上がり、
窓の近くにいる夜に話しかける。
「おやすみ、Yule。」
《――――》
返事をするように、夜の気配が揺れた。
「――――Yule?」
カーテンが、ふわりと舞い上がった。
その瞬間。
ふいに、昨日の夢が脳裏をよぎった。
金色の瞳。
長い黒髪。
Yuleと同じ、美しい横顔の男。
《あれを繋ぎ止める》
《次が必要だ》
そう言って、乱暴に腕を掴まれた。
胸が張り裂けそうなほどの、
悲しみと愛しさ。
「……あれを、繋ぎ止める……?」
ただの夢とは思えなかった。
……男が言っていた。
『あれ』
それが、何を意味するのかはわからない。
けれど――
男が何をしようとしていたかくらいは、Lunariaにだって分かっていた。
知らず、頬が赤くなる。
「……次、ってもしかして。」
気づいたとたん、
Lunariaの濃紫の瞳が揺らいだ。
「――っ。」
瞬間。
吹き込んできた突風が
カーテンを舞い上げた。
勢いに、机の上の書類が吹き上がる。
バタバタと音を立てる窓を、
Lunariaは慌てて閉めた。
夜風が途切れ、部屋はすぐに静かになる。
「…………。」
胸の奥がざわつく。
どうして、今まで気づかなかったんだろう。
神殿側が、婚姻を急かす理由――
兄に、子供はいない。
だからこそ、
Lunariaの元へヨルがやってきた。
そして……次もいない。
だから――もしかして。
「……いやだ。」
考えるより先に、言葉が漏れた。
不安が、どんどん膨らんでゆく。
「Yule。」
夜は、ゆっくりとこちらを見つめていた。
金色の瞳。
あの男と、同じ顔で。
「次が、必要なの……?」
次。
次の、子供がいないと……。
――――Yuleが消えちゃう。




