2-12話 あと、二人
劍国王宮、政務室前の回廊。
宵の国の王弟付き高官は、
抱えていた書類を政務官へ手渡した。
「これで最後ですな。」
「本当に助かりました。」
劍国の政務官が頭を下げる。
今回の案件は、
これで一段落だった。
高官が去ろうとしたその時。
小休憩室の扉が少し開き、
侍女が茶器を抱えて出てくるのが見えた。
その向こう。
一瞬だけ見えた机の上には、
相変わらず大量の書簡が積まれていた。
政務官が思わず苦笑する。
「陛下は、
休めておられなさそうですね。」
「お気の毒に。」
そんな二人の視線に、
侍女は気付かぬまま扉を閉める。
「どうやら、
なかなか決めかねておられるようでして。」
「そのようですな。」
王弟付き高官は深く頷いた。
書類仕事なら、我々にも手伝うことが出来る。
だが、王配候補選びとなっては。
「まあ、無理もありませんが……」
政務官は小さくため息を吐く。
それから。
はたと思い出したように口を開いた。
「そういえば、
そちらからも以前、釣書が届いておりましたね。」
「ええ。神殿側から初めにお話をいただいたのは、十年前のことになりますが……」
王弟付き高官は頷く。
「義兄の王弟家から、長男を。」
政務官の視線が少し上がった。
「長男殿でしたか。」
「ええ。」
短い返事だった。
劍国政務官が、何気ない様子で口を開く。
「……というと。」
声を潜めて。
「他にもおられますね?」
一瞬だけ沈黙が落ちた。
王弟付き高官は困ったように眉根を寄せる。
「はあ……。」
「確か――三人だったような。」
よく知っている。
「まあ、おるにはおりますが。」
政務官は続きを待った。
高官は少し考える。
言葉を選ぶように。
「なんというか……全員、少々癖が強いもので。」
政務官が思わず笑った。
「それはまた。」
「身内の話ですので。」
高官は肩を竦める。
「贔屓目も入っているかもしれませんが。」
「なるほど。」
政務官は頷き、何でもないように続けた。
「ですが……
陛下が決めかねておられる以上、
見ていただくだけなら損はないのでは、と。」
「……。」
王弟付き高官は、ほんの僅かに眉を上げた。
今日はよく、甥達について尋ねられる。
しかも、誰一人として身を固めていない。
これはもしや。
「今の陛下のご様子ですと、望み薄ではないでしょうか。」
高官が言うと、
劍国政務官は思わず吹き出した。
「違いありません。」
少しの間の談笑だった。
「…………。」
「…………。」
一瞬の沈黙の後、
劍国政務官がさらに声を潜めた。
「よろしければ、ぜひに。」
王弟付き高官は政務官を見る。
閉じられた小休憩室の扉へ視線を移した。
その向こうでは今も、
女王が大量の書簡を相手にしているのだろう。
「……まあ、打診だけはしてみましょうか。」
高官は、瞼を伏せて息をついた。




