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澱界宮の探索者  作者: 赤上紫下
第 07 章

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23:灯台下暗し

 あれは、宙川さんを発見する直前だったかな。

 ゴーレムの核はどれを使おうかと考えていた時、ふと思いついて試してみたら、手元に核を置いたまま遠隔でゴーレムの身体だけを操作するなんて真似も出来ることに気づいて、今回も核は手元に置いたまま操作していた。

 ゲームや漫画での話だけど、物理的に繋がっていない岩が人型に浮いているようなタイプのゴーレムだとか、衝撃でバラバラに崩れるリビングアーマーなんかはよくあるから、魔力的に繋がっていれば可能だった模様。

 それで、今回ポッと出の自称魔王を倒したゴーレムもそんな風に遠隔で操作しつつ、『防護』や『飛翔』の力も送り込んだだけだったから、あの場のボディが焼かれてもただ何トンかのアクリルが焼失したってだけだったんだけど……普通にそこらの空気やらから合成すればいいんじゃないかと思いついて、やらせてみたら実際にできてしまって、消費した魔力も魔王とやらの魔法の余りを分解したらむしろ増えたぐらいで……なんというか、肩透かし感が酷かった。

 操作していたゴーレムは全身がアクリルで、軽量化のために内側はスカスカで空気が入っていたし、ガワも表面以外は繊維状にして白く見えるようになるまで空気を含ませたりしていた。関節は人形のような球体にはせず、ゴーレムの力で繋がった部分を変形させることで動かしていたから、探索で使っていたローションゴーレムと比べると関節付近の動きは明らかに悪かったんだけど、格闘戦はほとんどしないまま、魔法を返しただけで終わったからなぁ。


 それから、戦果の回収には変装をしつつも自分で出向いて、城の中に囚われていた人達とも会った。

 白目部分が白っぽい普通の色で西洋ファンタジーに出そうな外見の、どこかで聞いたような気がする個性的な声の、妙に聞き取りやすい日本語を話す人達で……要するに、ゲームやアニメのキャラが元作品と同じ声で喋ってるような感じ。そういえば魔王とやらもそういう声だった気がするなと思い返しつつも、囚われていた人達の事情を聞いて、ランス博士(エマ)にも相談したところ保護することに。

 城や島ごと潰したりしてなくてよかった。うん。

 まぁ、そんなこんなで何かとあわただしかったけど、それ以降は特に騒ぎもなく夜が明けて翌日になり――


「お疲れ様ですランス博士」

「やあアキミチ君。確かに今日はちょっと大変だったかね」

「あー、なんか、移住希望者が多かったそうですね?」

「うむ。昨晩の戦闘を見て危機感を抱いた者が多かったようなのだよ。それに、ドラゴンを一体分提供してくれただろう? 街から直接撮影していた映像もあったので、それと合わせてどんな大きさだったのかを比較した映像も作ったし、近くの屋外駐車場を借りて展示もしてある。ダメ押しという奴だね」

「あぁ……望遠の映像だけだとサイズは実感しにくいですもんね」

「うむ」


 サイズは大体全長三〇メートルくらい。魔王とやらの第二形態のようなドラゴン姿は全長四〇メートルくらいだったと思うから、展示するならこっちの方がインパクトはあったと思うけど、こっちは消し飛ばしちゃったからね。

 とはいえ、それでも頭から尻尾の先まで合わせた長さが三〇メートル、頭単体で見ても普通車程度の大きさはある。


「デカいだけで、中級ロビーのモンスターより柔らかかったとは思いますが」

「それを簡単に仕留めてしまえる白い巨人も含めて恐怖の対象になっているようだね。探索者でも、中級ロビーに行くまでは大きさと強さを同一視するものだよ」

「……アクリル製のハリボテなんですけどねー。白かったのも表面以外を繊維状にしてただけですし」

「魔王の軍勢を一方的に殲滅したのは事実だろう?」

「まぁ……それはそうですね」


 事実は事実か。

 ただ、なんというか、ゴーレムの核から離れた身体を操作する遠隔操作関係の無法感は流石にちょっとあんまりな感じだから、よっぽどのことでもない限りは自重したい気持ちがかなりある。

 自重せずに本気でやると……俺が魔力を操作できる範囲内なら何でもゴーレムにできそうだからね。冗談抜きで。

 だから一応、使っているゴーレムの核にも必要以上のことはしないようにと言い聞かせるように念じてはおいた。意味があったかは知らない。

 俺以外の誰かが同じようなことをした時に対抗できるように、ひっそりと研究はしておきたいところでもあるけど、それが漏れたり、痕跡を解析されたことで他の誰か実現できるようになった、なんて結果になったら笑えないので、細心の注意を払いたい。

 まぁ、【物品目録】もゴーレムと同じくらい大概ではあるけども。



 ◇



 特に問題もないまま時間は流れ、魔王とやらが現れた夜から一週間後のお昼時、この関東付近を担当した八人で集まった。


「いやはや、ここまで人数が多いとは思っておらんかったが、ようやく終わりが見えてきた、といったところかの」

「そうですね」

「うむ」


 イデア博士の総評にライド博士とランス博士(エマ)が同意。上級探索者の三人も同じような反応を見せている。

 俺はこういう仕事は初めてだったから何とも反応に困るところ。

 移住の勢いは加速したまま続いていて、移住者は既に過半数を超えている。それと、一部の歴史的建造物や象徴的な物については相談をしているところだとか。

 その一方で、昼はもとより、夜にもモンスターが全然現れなくなっていた。

 考えられるのは、魔王とやらの手下になっていたモンスター達を、俺が全滅させたからかな? 種類が豊富だった気がするし、雷の魔法を使ってるのも居たから、増殖しつつスカウトもしていたと考えれば納得はできる。

 姿は見なくなったけど、何かまた未発見の小さな世界がそこらにあって、新規にモンスターの群れが発生して徐々に勢力を増している、なんて可能性はあるので、一応毎日警戒はしているし、発見済みの世界でモンスターを狩ったりもしている。

 それと、移住先となったこちら側では今のところ、モンスターの発生はないらしい。

 物理的な果てが存在する狭い世界である澱界とは違って、三次元的な移動を何万光年と続けても果てにたどり着けない宇宙があるこちらの世界は、人々の想像が簡単に実体を持ててしまえるほどの条件は整っていない、とかなんとか。

 まぁ、新たに発生することが少ないってだけで、他の澱界から移ってきた野良のモンスターは結構居るみたいだけど、そういうモンスター向けの対策はあるらしいし、食料や水の問題もないから、一般人なら向こうで暮らすよりは平和なはずだけどね。

 と、織宮さんの方を見てみると、何だか浮かない顔をしている。


「……織宮さん、大丈夫?」

「あ、は、はい、流石にその、全員無事というのが高望みだというのはわかっているんですが、弟みたいな幼馴染の子は見つからないままだったなって……」

「あぁ……」


 そういう相手が居るって話は聞いてたけど、ここまで移住が進んできてもまだ見つからないとなると、東京の他の地域に住んでいたみたいな可能性も無くなるか。

 織宮さんの幼馴染の――


「……あれ? そういえば、その子の名前は?」

「あれ、あ、伝えてなかったかもしれません……えっと、安道(あんどう)悠灯(ゆうと)っていう名前で――」

「ゴフッ、な、何だって?」

「? ……ライド博士?」


 織宮さんから聞いた名前に、何故かライド博士が反応した。


「ああ、聞き覚えがある名前だったのでね。念のため、漢字でどう書くのかを聞かせてもらっても良いかな?」

「は、はい。苗字の方は安全の安と道路の道で安道、名前は悠久の悠と灯台の灯で悠灯と……何かご存じなのでしょうか?」

「ご存じも何も、いや、もしかしたら同姓同名の別人という可能性はあるんだが、僕が実体化した子はその名前だったんだよ。プロフィールは……これだね」

「あっ、安道(あんどう)君です!」

「あぁ……これは、もっと早くに情報を共有しておくべきだったもしれないね」


 ライド博士はハハハとどこか乾いた笑みを浮かべている。

 まさに、灯台下暗しって奴かな。


「……なんか、苦労してそうですね?」

「ああ、うん。この子は僕のことを誘拐犯だと決めつけていて、全然聞く耳を持ってくれなかったんだよ……表面上は従っているように見えても、ほら、僕らにはそれが嘘だって丸わかりだからさ」

「あー……」

「す、すみませんっ、ご迷惑を」

「いや、君が責任を負うようなことではないよ。うん。職務上、僕から彼に君の情報を渡すことはできないけど、君の方から会いに行く分には……いや、端末から通話を繋げようか。ああ、他の移住者と同じマンションへ移る手続きは可能だから、それも君の口から伝えてあげてくれ」

「は、はいっ」


 織宮さんとライド博士の二人は部屋の隅の方に向かい、端末に向かって話し始めた。


「……何というか、延びる時は延びるものなんですねぇ」

「アキミチ君アキミチ君、君やイノリ君がトップクラスに早いだけで、一か月くらいならまだ標準的な範囲なのだよ?」

「あ、はい」


 当時は素直に答えてただけで、凄いことをしたような自覚は全くなかったけど、中にウィッシュが居たおかげで無駄に不信感を募らせてなかった結果、みたいなところもあるし、自分基準で考えすぎるのも良くないか。反省反省。

 織宮さんの方は……横からちょこちょことライド博士が補足するような形で、織宮さんは端末に向かって叱りつけるような話し方をしている。

 まぁ、何にせよ、織宮さんの探し人が見つかったのはよかったか。

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