22:相性が悪すぎた
魔王や配下のモンスターと共に突然現れたこの空飛ぶ浮島は、東京に現れる際に用いた転移能力だけでなく、多少の移動能力も備えてはいるが、謎の外敵への対処を優先することに決め、他の外的要因の参加を嫌った魔王の意向によってその場に留まった。
これまで放った攻撃で大した効果は確認できていないが、それでも多少は防壁を貫くことができていた。幸いにも積極的に攻撃しようという行動も見せていない。二線級の配下であっても、戦闘後に多少の休息を必要とする程度の消耗を許容して火力を集中させれば隙は作れる。妨害のために動くならそれによってもまた隙が生まれ、そこを一線級の部下に突かせれば十分に倒しきれる、と。
そういった計算の上で配下を動かし、左右に飛ばせた飛行可能な部隊を合わせて三方向からの攻撃を継続しつつ、雷の魔法による上空からの攻撃を加え――
「ようやく通ったか。焦げたということは、やはり生物ではあるのだろうが、血の一滴も流れぬとは……む?」
半透明なオレンジ色の防壁は消え、ゴーレムは白い身体の一部が焼け焦げ、砕けた箇所すら見えていたが、後に続いていた魔法は異様な軌道を描いて逸れ、ゴーレムの周囲を回り始めた。
それとはまた別に周囲の風が集まり、損傷していた箇所が再生。変色していた箇所も白い色を取り戻していく。
そして、ゴーレムの周囲を回っていた魔王軍の魔法がそれらを放った射手らを攻撃するように軌道を変えた。
「何だと……ッ!?」
ここまでの攻撃が無に帰したどころではない事態に魔王は慄いた。
◇
敵性の有無の見極めは大体終わり。見てる間にちょっと『防護』の壁を抜かれて多少焼かれはしたけど、このゴーレムの身体は所詮ただのアクリル塊に過ぎない。
分子が何で作られているかを考えてみれば炭素と水素と酸素の三種類だけ。炭素は植物や炭を探さなくても二酸化炭素の形でそこらを漂っているし、チリになってしまうモンスターの体にも大量に含まれているタンパク質が正にこの三種類の原子+αの塊だ。水素や酸素だって、空気中から集めるなら湿度として水が含まれているし、足元の海からだって水分は集められる。
アクリルはよく利用している関係で分子構造への理解も深まっているから、空気の流れさえ作ってしまえば……大量には難しいけど、多少の補充は容易にできる。
ということで反撃を開始した。
魔王や配下のモンスターを乗せて現れたこの空飛ぶ浮島の大きさは、直径で一キロに届かない程度。
城の他にも石畳やちょっとした建造物があるからもう少し狭いくらいで、まぁ、俺が操作している身長五〇メートルほどのゴーレムを基準に見てみれば、ボクシングのリングなんかと比べれば広くて、本格的な闘技場と比べれば狭いのかな。
多少なり魔王とドラマティックな掛け合いをする配下が居そうな雰囲気もあったけど、まずは雷の魔法だかを放ってきたモンスター――宙川さんから奪った魔力を利用している疑いのある悪魔的なモンスターに迫って島に叩き帰す。
叩いた威力で瞬間的にどう見ても即死してたっぽいけどそれはそれ。俺にはじわじわいたぶる趣味なんて、全くないとは言わないけど、確実に仕留めておきたい気分だったしね。
(少なくとも表に出てる分は全滅させても問題なさそうだけど、城の中に居る分はどうするかなぁ……あぁ、空を飛んでるドラゴンは狩るとして、ドラゴンぐらいは死体を残しておきたいかも)
そんなわけで、円運動を意識しながらマッハ三くらいの超音速で飛びつつゴーレムの手でドラゴンの首をむんずと掴み、島の上に叩きつけて丸ごとカット。ここに居るモンスターが死んだ後でチリに変わって消えるタイプばかりとは限らないけど、どちらでも問題ないように、自壊を確実に妨げるように意識しつつ魔力を制御下に置いてみた。正しい手順かは知らないけど、これでも崩壊したらもうその時はその時だ。
城の外に出ているモンスターは返した魔法であらかた狩り尽くせており、ワイバーンやドラゴンの類は首を刈って
『……そのような巨体で、よく動くものだな』
忌々しそうな声が大音量で空から響いてくる。
口を出すだけで自分で動く気はないのかと、挑発するように腕を組み、頭部を少し傾けて煽るような動きをゴーレムにさせておいた。
『だが、無駄だ。どれだけ貴様が強かろうと、魔王たる我を殺せるのは世界でただ一人、選ばれし勇者のみよ!』
「はあ?」
なんか、魔王とやらがふざけたことを言い出したな。
特定の条件を満たさないと死なない、というような条件付きの不死性は、創作では割とよくある、何なら実際の神話にだっていくつか例はある。特に神話だとその条件を満たされて殺されたり、ただ不死というだけで何かの落とし穴にはまって酷いことになる話ばっかりだったとも思うけどね。
ゲームなら、本当に主人公だけ特別な属性が設定されているとか、主人公だけ超倍率の攻撃ができてダメージが通るとか、適正レベルの範囲なら成長率や覚えるスキルの関係で主人公にしか倒せないとか、単に主人公パーティーのことを指しているだけのフレーバーだったりとか、色んなパターンがあったと思うけど……物語なら特に主人公以外のキャラがうかつに攻撃して酷い結果に終わるパターンもあったか。
まぁ――
『ぐっ、おのれ無礼者が!』
現実と創作を混同するのは良くない。
城の中にはまだ複数の反応があり、まとめて潰すのはどうかと思ったので、『防護』の力を纏わせてちょっと頑丈にしたゴーレムの腕を突っ込み、掴み出した。出してすぐに掴んでいた手を弾かれたけど、腕は無事。
もし仮に、本当に特定の誰か以外には殺せないという不死性が保障されてしまっていたとしても、その保障している何かは、最大でもこの小さな世界に薄く広がっている魔力といったところ。それなら十分なんとかなる。
『無駄だと言っているのが分からぬか!』
現時点では本当に言ってるだけだからなぁ……魔力はちょっと多めではあるけどそれ以上の何かがあるようには見えない。外部との繋がりは、城の中との間にちょっとあるのは何だろう? 撮影用?
『それほど死にたいのならば、望み通り死をくれてやる! 黒炎球ッ!』
(お?)
黒と言いつつ紫色も混じった炎の、人を丸のみにできそうな大きさの玉が、魔王とやらが空に浮かべた魔法陣らしき図形から現れて飛んできた。温度はなかなか高めで、こんな色なのに二千度くらいはありそうだし、炎と言いつつ質量も中々にある。
とはいえ、さっきまで散々見てきて操りもしたモンスター達の魔法と制御方法が類似しているから……うん。奪えたな。
『は? あ――』
制御を奪った魔法で攻撃してやると、魔王とやらは数秒呆けていた関係で回避もほぼ間に合わず、辛うじて上半身の右半分と頭部が残ったような状態になった。少なくとも、攻撃そのものは普通に通るタイプではあったらしい。
そんな状態でも割と余裕はありそうで、空を飛んだままゴーレムを睨みつけている。せっかくだからと一旦手を止めて、再生能力チェック。
欠損部分の肉体を補うように黒っぽい影が少しずつ濃くなっていき、少し遅れて鎧やマントも含めた形に影が濃くなり、色が付いて元通りになった。
魔力が他所から流れ込むような流れはほとんどなく、持っていた魔力の一部を消費して再生している様子だったから……一撃死はさせられなくても何度かやれば十分殺せそうな雰囲気。
『お、のれおのれ! ここにきて唐突に現れたよくわからぬ存在にこうも痛手を負わされようとは……! 許さぬ、許さぬぞ!』
(ポッと出の自称魔王に言われてもね?)
とりあえず、本人談でも効いてはいたらしい。
制御を奪った黒い火球は俺の制御で好きに
魔王とやらの魔力がより活発に働き始め、黒いドラゴンのような見た目に変化した。
(あ、これどうしよ……)
ドラゴンタイプのモンスターは死体が残るようにしてたけど、こいつの死体を残すかどうか……普通に戦闘の過程で損傷するだろうし、変に復活されても面倒だから残そうとする必要はないか。周囲を飛んでいたドラゴンより一回りくらいはデカいけど、それでも直立して二〇メートルあるかどうか。頭の先から尻尾の先まで含めた全長でも、こっちのゴーレムの身長より小さそうだし。
人間大のキャラを操作するアクションゲームならそこそこデカい方ではあるんだろうけどねぇ。
『消え失せろ、異物!』
(これもそのまま返したい言葉だなぁ)
空に映像を映す前にどの程度居たかはしらないけど、映像を通した宣言からだとせいぜい十分くらいしか経っていない。
もしかしたら、どこかでこいつの配下からそれっぽい言葉を聞いている人も居るのかもしれないけど、周知されてた様子もないから、異物は間違いなくこの魔王とやらの方だと思うんだよね。
と、呆れていたら黒と紫の混じった炎の吐息を吐いてきた。これもさっき防いでいたドラゴン達の吐息と同じで、魔力によって動作している魔法の一種。玉の形に整えているか垂れ流しているかの違いはあるにせよ、制御は玉の場合とも変わらない。第二形態的な状態だからか密度はそのまま量まであるけど、その程度。さっき制御を奪ったまま適当に浮かべていた黒と紫の炎のような玉に一緒にまとめて――魔王とやらを飲み込めそうなサイズになっていたので押し付ける。
『ッ!? ガ――』
(…………あれ、終わり?)
最初の魔法と吐息を合わせてそこそこ大きな玉になってしまっていて、魔王とやらに押し付けた後でも二回りくらい小さくなっただけで、まだまだ割と危険物なんだけど。『やったか?』とか言ったら復活してくれる? ないか。
いや、自分の攻撃一発返したらそれで消えるのは流石に貧弱過ぎない?
(……あ、空の映像消えちゃったか)
え、本当にあれで死んだの?
とりあえず、同質の魔力を探して……なんかどんどん消えていくな。
マジで?
魔王(まだだ、たとえ魂だけとなろうとも、まだ予備の体が……グッ、き、消える!? まさか浄化の力まで――)




