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澱界宮の探索者  作者: 赤上紫下
第 07 章

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21:なんか出た

 視線の主を追って陰陽師とその式神のような関係の二人と話し、人外っぽい存在でも敵対的な存在ばかりではないんだなと、一応安心のようなものはした。

 会ったことはないけど、迷宮都市にはエルフやら妖精やら獣人やらも居るらしいから受け入れ自体は可能なはず。大した悪意もなさそうだったし。

 そして、一応ランス博士(エマ)には端末経由で報告はしてから周囲のモンスターを適当に狩りつつ、転移門(ゲート)が設置されている警察署に近づいてきたところで――夜空に大きく、人の男性に近い何者かの映像が映し出された。

 雲よりも高いところから見下ろすような巨大な長方形の平面的な映像らしく、背景はどこかの城の内装らしい。


「……あれは、何だろ?」

(さあ……何でしょう?)


 とりあえず、少なくとも、俺にとっては全く与り知らないものではある。あと真上に近い位置にあるせいでちょっと見づらい。

 映っている何者かについては、標準的な体型ではあるんだけど、肌が青紫色で、目は白目部分が黒くなっている。頭には真っすぐジャンプしたら天井に刺さりそうな……バッファローなんかが持ってそうなイメージの角がある。服装も含めると、いかにも私が魔王ですと言わんばかりの風体だ。

 まぁ、マントを羽織ったまま悪そうなデザインの玉座に座ってひじ掛けに腕を置いているだけだからコスプレの可能性もなくはない……いや、ただのコスプレであんな映像は出せないか。じゃあ本物……本物って何だってなるし、そういうモンスターかな?


『聞こえるか、ニンゲンども』


 聞こえてるけど音量でっか。ただ、映像の口の動きと比べると、タイムラグはあんまりないな?


『聞こえているならば空を見よ』


 エコーが聞こえているのか、スピーカーのような役割を果たす魔法的な何かが散らばって配置されてでもいるのかは知らないけど、一回り小さな音でも数秒遅れて聞こえてくる。


『我は魔王。貴様らニンゲンに死と絶望を与える魔の王である』

「……」


 何というか…………ありがち?

 特にこちらに向いているような敵意は感じ取れないから、まだ盛大なコスプレという可能性が残っている、かもしれない。

 ランス博士(エマ)ならもしかしたら何か知っているかもと居場所を探ってみると……付近に人が沢山居るみたいだったから直接向かうのはやめるべきか、なんて思っていたら端末に通話が掛かってきた。


『アキミチ君、空に何かの映像が出ていたが、あれは何か知っているかね?』

「いえ、全く。どうやってあんな映像を出しているかなどは頑張れば読み取れそうですが……ランス博士は何かご存じですか?」

『いや、私も知るところではないし、迷宮都市側が起こしたイベントでもないはずなのだよ。しかし、こちらの住人には何やら知っていそうな様子の者が多いのが不思議でね』

「あー、まぁ、どの作品の誰に似ていると断定できる感じではないんですが、ファンタジー作品でありがちな魔王らしい感じの外見ですし……」


 魔王の正体が美女なんて作品も割と多かった印象はあるとはいえ、男の魔王というのも別に少ないわけではなく、男女比は実際どんなもんなのかなぁ……。

 それと、有名作品に影響は受けてそうではあるものの、画風のようなものまで再現されている雰囲気ではなく、外国人俳優にメイクを施したような造形、って感じかな? ああ、そういえば探索者やってて見慣れてたけど、実用品を思わせる重厚感がある気がする。ところどころ奇抜なデザインなのに。


『ふむ……敵意は、感じるかね?』

「いえ、今のところ敵意らしい敵意は感じてません」

『む? つまりあれは、言葉だけということかね?』

「映像以外が出てきたらどうなるかはわからないのと、遠すぎて感じ取れてない可能性もありますが」

『ふむぅ』


 映像の中の魔王とやらは、こちらが信じていないことを把握しているのか、あるいは最初からそのつもりだったのか、身振り手振りも併せて『見せてやろう』と言ったところで画面が切り替わり……屋根や装飾がやたらと刺々しい、大きな城が映し出された。

 そこから更に視点が後ろに下がって、ドラゴンやら軍らしき集団やらが整列している円形の地面、その地面の下に広がっている海の景色、どこかの港とかなり広い範囲を映し出した。つまり、そちらに居ると。

 映像だと大きさが分かっている対象が映ってなくてサイズ感がいまいち判然としないけど、少なくとも相当デカそうなものが浮いてるのは確かみたいなんで、地図を表示してチェック。


「案外近かったですね。二〇キロくらいの所なので、少なくとも喋ってる間は、こちらに対してそこまで強い敵意を抱いてなかったようです」

『おやおや……そうなると、あちらの出方を待つしかないのかね』

「ですかねー」


 何とも、反応に困る。防衛的な視点で言えば威嚇射撃や警告でもするべきな気もするけど、流石にね。権限的に俺がやるのはなんか違う気が――


『ククク……我が軍をただ見せただけで怯えるとは我も思っておらん。見せるのはこれから、ほんの小手調べというやつだがな。魔法隊!』

「うぉぅ?!」


 ――魔王とやらが向こうの軍に声を掛けた瞬間、向こうの敵意が膨れ上がった。


「ランス博士、敵意確認、殺す気で攻撃するみたいです」

『む、さっきと言っていることが違わないかね?』

「戦力で圧倒できると確信していて心構えをする必要もなかったんじゃないかと。対応します」

『うむ。撃退も好きにやりたまえ』

「了解です」


 かなり速攻で前言を撤回する羽目になったけど、わかりやすいといえばわかりやすい。ただちょっと距離的に厳しいから、まずは『防護』からかな。



 ◆



 魔王軍魔法隊。魔法を扱えるモンスターのみならず各種吐息(ブレス)を吐くことのできるドラゴンも所属する魔法攻撃に特化した部隊は、魔王の号令に従い、空に浮かぶ島から一斉に攻撃魔法を放った。

 魔法の狙いは東京湾に面する施設を適当に、味方の魔法を邪魔しない程度に射線を散らせて放たれ――虚空に現れた半透明なオレンジ色の無数の壁、『防護』の力によってことごとくが防がれた。


「…………ほう? 今の攻撃をこうも完全に防ぎきるとは、何者だ?」


 魔王本人も小手調べと言っていたように、最大火力というほどの攻撃ではなかったが、魔王の知る人間の戦力で防ぎきれるほどのものでもなかった。

 魔王の玉座から見える位置には多くの映像が表示されており、特に多くの魔力を持つ者を中心に、人が集まっている場の声も多少は拾っている。

 今の攻撃魔法を防ぐほどの魔法を使ったのだから、相当な魔力を持つ者の仕業だろうと確信し、魔力量の変化で見極めようともしてみたが、それらしい者は見つからない。魔王城を目指している者らも居るが、ろくな消耗は見られないので違う。


「……ふむ、命を犠牲にでもしていたか? まあ良い。魔法隊、第二射だ。今回は特に揃えずとも構わん。一射ずつ適当に放て」


 魔王の命令に従って魔法隊が魔力を放出、それなりの攻撃魔法を形作り、準備のできた者から順次放っていくが、またも現れた『防護』の力の壁でことごとくが防がれる。

 巨大な壁が作られているわけではない。放った魔法に合わせてどこからか魔力が集まり、壁を作って攻撃魔法を防いでいる。位置も大きさも不定であり、人間側の誰かが魔力を消費しているようには見えない。


「……どういうことだ? 何故防がれる?」


 これらの攻撃魔法を防いでいるのは明路だが、明路が自らの肉体に宿している魔力は、基本ツリーや探索者ツリーのアビリティを使うための最低限しか無い。

 明路は【物品目録】の収納の中から『防護』の力を引き出し、現場に流すことで攻撃魔法に応じた壁を適宜作って防いでいるのだが、魔王の技術では収納の中――この世界の外に蓄えられている膨大な力にも、光りもせずに光速で目的地に伝わっている『防護』の力の流れにも気づけない。

 そして――


「何だ、あれは? 星……か?」


 明路が飛ばしたゴーレムの身体(アクリル)が現地の空に到達し、大きな円盤状に広がりつつ、五芒星ならぬ七芒星を描いた。

 そして、同じ高さに留まる円盤から下に向かって鋭利なシルエットの白いゴーレムが現れ、淡い水色の光を纏いつつ空中に浮かんだ。

 ゴーレムの身長は五〇メートルほどで、出現する際に利用された円盤は天使の輪のように頭の上で回り続けている。

 なお、円盤については特に意味があるわけでもなく、明路なりの単なる演出である。


「何者――否、我が軍の前に立つ以上、敵か。魔法隊、加減は要らん。放て!」


 魔法隊から、今度はゴーレムに向かって多くの魔法が放たれ、多少『防護』の力の壁に影響を与えはしたものの、そのままゴーレムはその全てを防ぎきった。


「ほう……? 先程から邪魔をしていたのは貴様で間違いないようだな。何故ニンゲンの味方をしているかは知らぬが、良かろう。我が軍の総力を持って叩き潰してくれるッ!」


 魔王の声に、空に浮かぶ白いゴーレムは手招きで応じた。

(直で行った方が楽ではあるけど、どこからでも見えそうな特大映像に自分から映りに行くとか無理無理)

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