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澱界宮の探索者  作者: 赤上紫下
第 07 章

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16:探偵は向いてない

 ひとまず、メンバーは俺、ランス博士(エマ)、織宮さんの三人ということで、屋上を借りて箱型のゴーレムを出し、加減速込み二分程度の空の旅を終えて、近くの公園からは徒歩で若干見慣れてきた気もする公民館へ。

 公民館の受付は閉まっていたものの、対策本部の隊員さんやシメノさんが一階ロビーに居て、入り口のカギも開いていたので、こんばんはーと声をかけつつ中に入った。


「っ、卵の人! じゃなくてタダノさん! と、祈ちゃん! 昨日か今日、どこかでキラりん見なかった?!」

「いや、宙川さんは一昨日の朝に話して以降見てないよ」

「私も、ついさっき対策本部の人から行方不明だって聞いて驚いたところです」


 本気で心配してそうなシメノさんには申し訳ないけど、宙川さんの情報は持ち合わせていない。それらしき反応も見つけられていない。


「こっちでも探せるだけ探してみようと思ってるけど、シメノさんの方で何か気づいたことは?」

「……一昨日は、学校も休んでて、でも、別れる時にはいつものキラりんに戻ってて、変に思いつめたりはしてなかったはずです。あと、対策本部の人たちにも言いましたけど、書置きとかも見つかってないです」

「そっかぁ……」


 何かヒントになればとも思ったけど、ほぼ空振りみたいなものかなコレ。

 まぁ、俺は探偵ものの作品の主人公みたいな、何か凄い洞察力を備えてるわけじゃないし、何か決定的な証拠が転がり込んでくるような運もない。

 できることと言えば、警察の真似事ぐらいかな? 一般的なルートでの捜査に関しては対策本部の隊員さん達がやれそうだから、下手に首を突っ込んでも邪魔になるだけ。あとは……何があるかな? ううん……。


「そういえば、一昨日ってシメノさんとか、サシハラ君だっけ? あと色々織宮さんの同級生が沢山居たと思うけど、宙川さんが居たのは休みだったからなんだ?」

「あ、はい、そうです。先生達も結構行方不明になったまま戻ってなくて成り立たなくなってきたから、そのまま勉強を続ける進学組と休学組に分かれてたんですよ。進学組は成績も良くないと入れませんけど、成績が良くても避難所や畑を手伝うために休学組を選んだ人も居たり、色々ですね」

「へぇ。それで、宙川さんは進学組と」

「そうです。他にも栗屋(くりや)……えっと、男子の中ではキラりんと多分一番仲が良かった男子なんですけど、そいつは前の日に学校でキラりんと別れてからは全く会ってないみたいでしたね」

「そっか、それじゃその男子も無関係かな……」


 一応、多少なり情報は得られてるというか、俺の方が何も知らなすぎというか……やっぱり素人が聞き込みで真相を目指すのは無謀だよなと。


「……ところで、そっちの子……もしかして、マンションを紹介してた動画の子じゃないですか?」

「対策本部が最近公開したマンションの内見動画には出てはいたが……私は子供ではないのだがね?」

「あっ、すみません、えっと、全然そんな風には見えないんですが、おいくつぐらいなんでしょうか……?」

「むぅ……一般的な時間でなら、三〇かそこらだったかね? 時間の流れが速い空間に居る時間が多いので累計では百近かったと思うが、見た目がこうなのは、肉体的な老化や寿命とはほぼ無縁になっているからだね」

「そ、そうなんですか……?」


 シメノさんから助けを求めるような目で見られても、俺はランス博士(エマ)の実年齢とか知らないし……周囲の時間の流れが同程度だったとしても、思考を加速させている間をどうカウントするかでもちょっと悩むし?


「とりあえず、約千倍……中で約三年間過ごしても外では一日しか経ってない、みたいなとんでもない所があって、結構な人数が利用してるのは事実だよ。中で過ごした時間が一週間なら、外の時間では約一〇分だね」

「いや何ですかその漫画みたいなご都合空間……え、本当に?」

「本当に。最大でどのぐらいの倍率になるかは知らないけどね」


 俺が知ってる範囲だと、止まっているるらしい迷宮の原典(オリジナル)、千倍以上で何割かムラがありそうな迷宮の複製(コピー)、およそ百倍に調整されている図書館や訓練場、数倍から数十倍の範囲に調整されている宿屋、およそ二倍の速度である精算用の空間など。

 時間が戻っていく負の倍率を持つ空間なんてものは聞いたことがないから、設定可能な時間の倍率は〇以上の実数ってところかな。


「うむ。最大値は私も知らないのだよ。あまり高速にすると様々な問題が発生する可能性が高いので、高くとも二千倍程度に抑えるのが一般的だがね」

「そうなんですか、問題っていうと……?」

「代表的なのは、管理者が少し目を離した隙に強大な力を蓄えたモンスターが発生していて、その対処に追われる、などだね」

「あー……」


 少し、ではないんだろうけど、そういえば居たなぁ、なんかやたらと育ったゴーレムが。というかそいつの核が分割しても大丈夫なものだったから今でも便利使いしてるし、ウィッシュの身体だって脳の代わりにそいつの核を入れてるフレッシュゴーレムだし……ってのはともかく、そんなのがポンポン発生しかねない空間を放置するのは確かに怖い。

 つい先日も喋るオークが別世界への転移を実行できてたぐらいだから、触らなければ問題が起こらないわけでもない。


「ま、まぁ、大人なのはわかりました。それでその、たしか……ランスさんでしたっけ?」

「うむ。何かね?」

「えっと、何か凄い道具で探したりとか……できませんか?」

「証言を聞くだけで人探しは無理だね。何か、髪の毛だとか、よく身に着けていた物などがあれば別だが、何かあるかね?」

「あ、ありますあります! キラりんは普段こちらで寝泊まりしていて、私服以外にも制服や鞄があるのは見ましたっ」


 ああ、確かに、迷宮都市側の技術で考えるとそういう情報から辿っていく方が自然か。警察犬の真似事、というか空気の流れなんかに関係なくにおいを感じ取れる完全上位互換みたいなことができるんだから、もっと早く気付くべきだった。


 一階ロビーに居た対策本部の隊員はまだ見つかっていないという報告と帰っていないかの確認に来ただけだったらしく、周辺のパトロールに戻った。

 そして俺が宙川さんの居住スペースに向かうのはやっぱりあまりよろしくないかと思ったので、一階ロビーの椅子で待機しながら様子を見る。

 ぶっちゃけ場所さえわかれば宙川さんのにおいも識別できそうだったし、実際それっぽいにおいもわかった。私物が一つだけだと難しかっただろうけど、同一人物のにおいが付いてそうな物がたくさんある場所だったからね。

 オークから模倣したアビリティである《嗅覚拡張》はどうもにおいの元を識別するノウハウが多少組み込まれているようで……そのまま利用するのはなんか技術者的な悔しさがあるものの、今は緊急時だからということで利用させてもらう。

 料理で例えるなら、具材の種類みたいなわかりやすいものだけでなく切り方や火加減、盛り付け方の僅かな差を嗅ぎ分けているような感じで、そんな情報を基に識別してることがわかっても、変態的な意味でのなんたらソムリエを見ているような気しかしなくて……本気でやれば可能にもなりそうではあるけど、正直やりたくない。模倣した《嗅覚拡張》さんをそのまま使えばバグもなく識別できるんだからそれで良いじゃないかと。

 ひとまず、個人識別用のデータは外部ストレージ的な感じでプレートに記録しておく。


「……見てきたが、アキミチ君は本当に来なくてもよかったのかね?」

「そうですね。本当に何もなかったら宙川さんに悪いですし……場所だけわかればここからでも情報は読み取れましたし」

「うむ?」


 シメノさんとは別れてきたようで、ロビーに戻ってきたのはランス博士(エマ)と織宮さんだけだ。


「読み取れた情報というのは?」

「においですね。ゴーレムを通してオークの《嗅覚拡張》を使ったので自分ではどんなにおいかもわかりませんが、識別はできるようになりました」

「おぉ……相変わらず器用だねぇ」

「まぁ、そうなんですかね? ランス博士の方はどうでした?」

「似たようなものだが、遺伝子は把握できたから近くで見れば本人かどうかもわかるのだよ。それで、足跡を追ってみようと思ったのだが……」

「じゃあ、この公民館だと三階の女子トイレの窓から外に出たのが最後みたいなので、そこだけ一応確認してもらえますか?」

「……うむ。具体的すぎて反応に困るが、確認してくるとしようかね」


 ランス博士(エマ)はとことこと階段を上っていき、織宮さんは少しばかり表情が引きつってるような……まぁ、わかるけど。


「緊急時でもなければこんなのは使わないからね」

「で、ですよね、あはははは……」


 こんなの普段使いしまくってたら本当に変態みたいなもんだし、本気で気を付けるよ。うん。


 少し待つとランス博士(エマ)が戻ってきて「確かに、外に向かったらしい痕跡があった」とのことで揃って外へ。

 外から窓の位置を確かめ、下の地面や壁を見ても痕跡は無し。まぁ、空を飛んでの移動したんだろうから痕跡がないのは当然なんだけど。

 ひとまず、《嗅覚拡張》の範囲を広げてみると……ところどころに反応がある。先日の路地裏の反応もあるから、宙川さんのにおいを読み取れているのは間違いなさそう。

 空中のにおいは当然風に流されるとして、それでもあちらこちらの建物の屋上に反応があったりするのは、飛びっぱなしじゃなくて休憩したからとか?

 どこのにおいが一番濃いかと探ってみると、一番濃いのは先日の路地裏。そして人型の反応はない。


「んん……これは本格的に、どこか別の世界に連れ去られたとみるべきですかね……?」

「むぅ? すまないが、もう少し根拠を教えてくれるかね?」

「あ、はい、大きな地図で出しますね」


 スマホサイズのゴーレムに表示させた情報を自分で見てただけだから、突然言われても二人にはわからないよなと反省。

 河原で休む時にも使った、箱の中で支配下の空気を光らせるゴーレムを出し、においの反応がわかりやすいように表示する。


「屋上に残っている薄いにおいがいくつかあるので、空を飛んで移動してたと思うんですが、一番濃いにおいがあるのはこの路地裏で、ここからは歩いて立ち去ったようなにおいもなく、人型の反応もないので、そうかなと」

「ふむ、モンスターの転移なら魔法陣を使った跡などが残ってそうなものだが、魔力の反応はあるかね?」

「あ、そうですね、表示してみます」


 魔力の強弱を表示すると、魔力持ちが多くて地図上がごちゃごちゃと見づらくなる。痕跡を探すならと弱めの魔力を表示すると更に見づらくなるわけだけど、場所はわかってるし、ちょっと拡大してみればいいか。そして少し拡大した地図には、円の中になにやら色々描いたらしい、いわゆる魔法陣のような反応がある。


「……確かに、それらしい反応はあるね。うむ。行こうか」

「あっ、そ、その、この公民館に向かってきている反応がありますよ!?」

「む?」「?」


 織宮さんが指し示した場所を見てみると、確かに――


「というか、うっすらと宙川さんのにおいも出てる……?」


 探しに行く手間が省けた……と安心していい雰囲気ではない気もする。さて、何が来たのやら。

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