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澱界宮の探索者  作者: 赤上紫下
第 07 章

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13:移住予定地の内見

 転移装置は何事もなく作動して、転移した先は迷宮都市の探索者ギルド――ではなく、割と見慣れた様式の高層マンション。一瞬俺が住んでるマンションかとも思ったけど、よく見ると建物も周囲の風景も違っていた。


「ほ、本当に全く違う場所に……通信は繋がりませんか」

「それはそうだろう。空間が連続していないのだからね。君達だけであちらと通信をしたいのであれば……空中に投影していた映像は光を伝えるだけのものだから、情報量を考えとスライドを見せるような形に落ち着くのではないかね? まぁ、君達自身が移動するのが手っ取り早いとも思うがね」

「……そうですね。あー……ところで、我々の住居として想定されている建物はどちらでしょうか」

「目の前にあるだろう? 人数が想定外に多かったので現在も建設中だし、間取りも同じものばかりで面白みはないが、一人暮らし用の1DKと小規模家族向けの3DKはあるから、そちらで上手く割り振ってくれたまえ」

「あ、ああ、あちらでしたか、はははは……」


 対策本部側の、撮影係のような人達にランス博士(エマ)が説明している。

 目の前の高層マンションは、タワマン、と呼ぶには少々横長い気がする六〇階ほどの高さのもので、パッと見の印象は、海外の大きなホテルのような感じかな?

 間取りのアルファベット部分はどちらもDKだから、食堂(ダイニング)厨房(キッチン)に該当する部屋があって、それとは別に1DKなら何もない部屋が一部屋、3DKなら何もない部屋が三部屋あるという意味。風呂とトイレはこの文字に含まれてないけど、ユニットバスが全部屋に設置してあるそうな。

 そんな部屋が、えー……一階あたり四〇部屋並んでるから、二四〇〇? 反対側にも部屋があるだろうから四八〇〇……まぁ、ドアの方を見ないとマンション的な意味での部屋数はわからないか。


「中は、撮影してもよろしいのでしょうか」

「ああ、この棟は完成しているようだからね」

「え、先程建設中と仰いませんでしたか?」

「うむ? 見てのとおり、あちらの棟は建設中だろう? あちらの撮影も遠くからなら問題はないが、工事の邪魔はしないようにね」

「……アッ、ハイ……確かに、そうですね」


 完成している棟が現在一つ、建設中らしい棟は、工事の進捗状況はまちまちだけど三つ見える。街づくりシミュレーションで設定した区画に建物が作られている様子を等倍で見ているような、これといった重機や車両なんか見えないのに尋常じゃない速度で完成に向かっている棟が。

 マンションだけが並んでいるわけでもなく、反対方向には緑を囲う通路や駅前を思わせるような広場がある公園のようなものもある。


 一番近くにあった完成済の棟に入り、非常階段やエレベーターの位置を確認してから、ひとまず一〇階までエレベーターで昇ってその廊下へ。

 廊下には上から下まで通じる吹き抜けとその周囲に胸あたりまでの高さの柵があり、渡り廊下が左右と中央に通っていて、縦長く潰れた漢字の日のような形になっている。渡り廊下のこちら側が1DK、向こう側は3DKになっているらしく、向こう側のドアの数はこちら側の半分だ。

 そして、1DK側から内見&撮影。使った鍵は『コンスキー』と書かれている、正式にはコンストラクションキーと呼ぶ工事用のマスターキーのようなもので、最初はどの部屋の錠も開けられるが、一度でも通常の鍵を使うとその部屋の錠をコンスキーでは開けなくなるんだとか。

 あと、オートロックも採用されているらしく、外から共用部に入る際だけではなく、共用部から各部屋の玄関に通じるドアも自動で施錠される模様。


「……コンセントのようなものが見当たりませんね」

「電力で動作しているわけではないからね。多少なら問題ないが、存在強度が上がっていけば電力と抵抗の関係が変わり、故障することも増えるから一般化は難しいのだよ」

「なるほど……デジタルデータをこちらで扱いたい場合はどうなるのでしょうか」

「電力はこの世界でも昔は広く扱われていた力であるし、バイナリ形式のデータは今でも扱われているから、よほど特殊な規格の記憶媒体を利用でもしていない限りは部屋に備え付けてある端末でも簡単に扱えるはずなのだよ。個人用の端末もそう高いものではない。どうしても元々扱っていた電子機器をこちらでも扱いたい、というのであれば高いコストを支払ってもらうことにはなるがね」


 あ、そういえば東京近郊が流れ着いたってことはゲームもある? DL販売方式のゲームに関してはデータサーバーが近くになかったらアウトか。インストールしてあるストレージでもあれば話は別かもしれないけど厳しいかな。


 そんなこんなで3DKの部屋の方も見てみたところ、1DKは窓のある部屋が一つ、3DKは窓のある部屋が三つある以外はどちらもほぼ同じ構造で、天井は二.四メートルくらいで、いずれもベランダなし。ダイニングキッチン(DK)は窓のない一部屋で、ユニットバスはさほど大きくない浴槽とシャワー、ウォシュレット付きのトイレと洗面台がまとまった窓のない一部屋といった感じ。ダイニングキッチンは3DKの方がちょっとだけ広かったかな?

 家具はアビリティを上手く扱えない人に向けたもののようで、端末はタッチ操作が可能だったり物理ボタンまでついている。それと、端末の操作で預けられる収納ケースが、サブスクではなく買い切りで色々あるらしい。持ち主と紐づけられるから引っ越しても問題ないんだとか。

 食料や日用品もこの端末経由で、ある程度常識的な範囲で注文できるらしい。

 総評としては、どっちもちょっと窮屈だなぁという印象はあったけど、まぁ、無償で提供される物件としては十分だったんじゃないかと思う。というか1DKでも頑張れば二、三人くらい生活できそう。

 そして外に出てみると、もう一棟、少なくとも外見は完成しているようだった。なかなか驚きの施工速度である。多分、コンクリートじゃないか、コンクリートにしてもコンクリートミキサー車からドバドバ流し込めるような柔らかさじゃない、もっと硬いものを収納から直接敷き詰めたり、凝固を促進する魔術的な何かがあったりぐらいはしてそう。


「さて、こんなところだが、何か質問はあるかね?」

「驚くことが多く、後になって出てくる疑問点もあるかと思いますが、ああ、バリアフリー化などはどうなっていますでしょうか。エレベーターはありましたが、点字などはありませんでしたよね?」

「それなら、あちらの建物が診療所として稼働する予定だから、そちらを利用してもらう形になるのだよ」

「は? あの、診療所、ですか?」

「うむ。大抵の怪我や病気はその場で治せるからね。あまりに多いようなら即日は無理かもしれないが、その場合は臨時で送迎の手伝いをしてくれる者を募集する形になるかね?」

「……」


 障害者が障害者のままでも暮らしやすくするための設備を置くより、治せるんだから治せばいいだけだよね、というパワープレイ。まぁ実際、問診程度の時間で各種精密検査が完了して、お薬出しておきますねー程度の感覚で大手術が必要になりそうな治療がその場で、それも麻酔も使わず無痛で完了するぐらいには技術的な差があるからねぇ。

 なんたらヒールだとかエリクサーみたいなどんな傷や病気でもその場で治る魔法や薬で一発回復、じゃないだけまだマシかな?



 ◇



 対策本部の撮影班がカルチャーギャップに戸惑うリアクション芸みたいな動画の撮影が終わり、カメラからは離れて内見をしていた織宮さん一家はコンスキーが本当に使えなくなるかの確認作業も兼ねて選ばれた低層階の3DKの一室に住むことになった。

 迷宮都市で暮らしていた経験がある織宮さんとその保護者的立ち位置であるイデア博士、あと上級探索者のうち一人はマンションのある居住地に残って、トラブル対応。移住者がどういうことに困るかの情報集めみたいなものと、イデア博士が是非の判断をするような感じかなと。

 他のメンバーは東京に戻ってきたところで、マンションに設置されている消火設備の性能を示す実験。

 煙探知機のような消火設備が取り付けられた簡易のセットが用意され、消防訓練用なのか焼け焦げた跡のようなものが見て取れる金属製の容器の中身に着火され、火柱が立ち上り、数秒でスッと火が消えていく。煙も立たない。


「……え、どうなってるんですかアレ?」

「胡散臭いと思われそうだが、範囲内の温度を魔術で体温程度にまで下げているだけなのだよ。たとえ引火点が体温より低い物質であろうとも、発火点が体温より高い物質であるなら、火そのものも含めて体温程度に下げ続ける環境があれば火は消えるものだからね。動作の開始に若干のタイムラグがあるから爆弾などに対処できるほどではないが、火だるまになった人が居ようとも安全な消火と救助が可能、というわけだね」

「んな無茶苦茶な……それができれば苦労しないって話が現実になっていて頭が……いえ、便利なのは便利なんでしょうが、ええ……?」


 すごいよねぇ。

 …………俺、さっきからついて回ってるだけで何もしてないな?

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