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澱界宮の探索者  作者: 赤上紫下
第 07 章

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10:織宮祈、覚醒

(無事な人が多かったのは幸いなんですが、これは……とてもマズい状況だったみたいです。ど、どうしましょう……?)


 織宮祈は焦っていた。

 元々この世界にも明路が魔力と呼んでいる不可思議な現象を起こす力は存在しており……霊感があれば認識できる幽霊や妖怪、神様などのほか、呪術や魔術といった、いわゆるオカルトと呼ばれるものも、一般には作り話と思われているだけで実在はしていたのである。

 勿論、オカルトの全てが実在していたわけでもなく、本当にただの作り話でしかないものも多々あった。力を宿しているからといってそれを自覚できるかもまた別の話であり、オカルト的な存在は実在しないと本気で信じている人間の力によって無自覚に周囲が整えられて消滅したものも、逆に信じられすぎて無から発生したものもある。

 そして、世界が崩壊したことで隔離された小世界となった関東地方は、澱界として異次元空間上での存在を強め、内部においても力が増えはじめ、動植物が成長を早め、より大きく育つようになったりもした。

 更に、関東以外とはインターネット障害などというレベルではなく完全に遮断されていることが認識されるようになり、外からは誰も来ることはなく、離れすぎれば帰ってこれないが、人間を消そうとしている何かの姿も確認できないという異常事態も発生したことでオカルトを肯定する側の力が勢いを増し、魔法少女のようなあからさまに創作物のような真似ができてしまう人間も現れるようになってしまっている。

 しかし、祈が今一番焦っている理由は、魔法少女のような存在が増えたことでも、敵として相応しいモンスターが現れるようになったことでもない。それらの点についても焦ってはいるが、一番は自分に向けられた願望の種類と強さだ。


(無事であったことを喜んでくれている感情が大きくて助かりましたが、ちらほらと、えっちな願望も混じっているといいますか……今になってはっきり認識できました。無意識に読み取っちゃってたみたいですね私……)


 祈が冷静になれた今の頭で昨夜のことを思い返してみれば、自身が特定の願望の影響下に()あったのだと自覚できた。より正確には願望の残滓か。

 明路はウィッシュが備えているの能力の一部を利用することで正確に敵意の所在と向きを読み取っているが、実のところ、祈が持つ能力と比較すると完全な下位互換である。

 その差をカメラに例えてみれば……明路の能力は可視光線のうち赤色の範囲の波長だけを捉えられる、白黒とは少し異なる風景が映るカメラ。対する祈の能力は、フルカラーどころか紫外線や赤外線すら捉えるだけでは終わらず、場の残留思念すら収められる、探偵もののジャンルをオカルトに変えてしまえるようなカメラ、というくらいの差がある。解像度こそ同等ではあるが、祈の能力で読み取れても明路の能力で読み取れない情報は非常に多い。

 とはいえ、戦闘を目的としているなら、明路のように現時点での敵意を正確に感じ取るだけで事足りる。どこに敵が潜んでいたか、などといった情報を瞬時に、的確に読み取りながら追跡するベテランのような真似ができずとも、反応速度、攻撃力、攻撃範囲などが明らかにチートと呼べる領域にあるからだ。また、どれだけ感度を高めていても無力化済みの敵の敵意を感じて無駄に警戒することもない。

 その一方で祈はというと、敵意だけに焦点を合わせることがやや難しく、感度を高めすぎると目的とは異なる情報を読み取ってしまうことも少なくない。そして、祈はLv上げによって存在強度が高まったことで、低Lv時より感度を高められるようになっていた。

 更に、この関東地方が隔離されたような小世界も澱界として存在強度が高まっており、祈を知る人々の妄想は、祈を対象としていることと状況ぐらいは十分にわかる形で……薄まってこそいたがしっかり残ってしまっていた。


(あぁぁぁぁ……ほんと何やってたんですか私っ!)


 寝不足でこの小世界を訪れ、世話になりっぱなしでは申し訳ないと警戒のために感度を上げたまま眠っていた祈に、そんな多数の妄想が深く浸透していたのだと、祈はようやく自覚した。

 判断力が鈍っている時というのはどうしても影響を受けやすいもので、振り込め詐欺や投資詐欺などの事件が毎年何度もニュースになっているように、超常的な力が働かずとも流される人間は流されるものだ。

 そして、この小世界に焼き付くほどの妄想を無防備まま読み取っていた祈は……夢心地のまま快楽に身を委ね、朝方に時間をかけて多少の冷静さを取り戻し、知人や友人に無事を喜ばれたことで完全に目が覚めた。流されていた間の記憶はしっかり残った状態で。

 明路は無意識で周囲の力を整えてはいるが、それは他人の力を由来とする異常を取り除くことはあっても、本人の力が持つ働きを阻害するようなものではない。

 サキュバスの《魅了》のような異常を解除することはあっても、人々の想いを読み取って自主的に働いている本人の力を止める効果はないのである。


(今はもう問題を認識できたので惑わされないとは思いますが…………が、です。今後は多少安心できるとしても、すでにやってしまったことは……う、受け入れられてはいるんです、よね?)


 祈が読み取っていた妄想群の残滓は、似通った要素が重なるようにして色濃く残っており――逆に言えば、異なっている例が多かった相手側の情報は特定が難しいほどに塗り重ねられており、特定の誰かに惚れるような事態には陥っていない。

 集まった中の一部からにじみ出ていた妄想は誰が相手かもわかるが、起床後に着替えを勧められたことで覚醒に近づいていたため、この妄想の影響は極僅か。むしろ認識したことで反発があり、祈から妄想の主への好感度は下がっている。

 また、反省して感度も下げたため、よほど強い想念を抱かれてでもいない限りは読み取ることもなくなった。

 感度が高いままでも頭に浮かべている文字や映像を正確に読み取れるほどではなかったが、心をほとんど読めるような状況を冷静になって後ろめたく感じるようになった結果である。

 昨夜、色惚けたまま明路と会話をしている間に何度も呆れられていたことも思い出したが、なんやかんや最終的に大丈夫そうだったからと自分に言い聞かせるようにして、ふと思い出す。


(そういえば……只野さんに仲の良い男子が居なかったか聞かれましたが、安道(あんどう)君とはそんな仲ではなかったはず……ですよね? さっきまでの感覚がまだ少し残っているので、自分の感情をいまひとつ信じきれなくはありますが……ひとまず事実だけを並べてみると、一緒に過ごした時間は多い方ですが、少なくとも付き合ってはいませんでしたし、やっぱり弟みたいな存在ですね)


 祈に弟が居たわけではないが、友人から聞いた弟の話に当てはまる相手だったと改めて思った。


「……ところで、織宮は住むトコはあるのか?」

「ありますよ。私が契約している賃貸の部屋がありますし、こちらで寝る時には昨夜のように只野さんのお世話になると思うので大丈夫です」

「只野? ……って、ここに一緒に来てたさっきの?」

「はい。そういえばどちらに……」


 話していた指原(さしはら)から視線を外して祈が周囲に目を向けると、同じ学年だった女子二人と、動きやすそうな服装の知らない女性とも話しているところだった。

 女性ばっかりですね、と思っているうちに知らない女性は明路から離れ、公民館の入り口がある方へ向かったようだった。


「……どういう人なんだ?」

「何でもできる人といいますか……本当に文字通り何でもできるわけではないんですが……あ、物作りや修理はかなり得意みたいです」

「フーン? 物作りって、例えばどんな?」

「例えば、私はおふ……カードとか、アクセサリーとか、あと服を作っていただきましたね」

「は? 織宮に服を作ったって……女物をか?」

「あ、ま、まぁそうなんですけど、えっとえっと、私が頂いたものではありませんが、日本刀とかも作ってましたっ」

「もっとヤバいのが出てきた……ってか銃刀法違反……」

「い、いやその、あちらでは合法だったんですよっ。……ホントですよ?」

「…………本当の事だとは信じるが、どんなトコなんだよそれ……」


 祈は問題になりそうなもの――ウィッシュの身体として扱われているフレッシュゴーレムや闘技や魔術を扱えるようになる小さなプレートなどを避けて話しているが、それでも明路がこれまでに作った物は現代日本においては怪しい物が多い。


「祈って、年上シュミだったの?」

「えっと、そういうのじゃなくて、ホントに良い人だと思ってるだけなんですが」

「え? でもプレゼントを色々受け取ったんでしょ? 普段の祈なら断ってたと思うんだけど」

「ま、まぁ、その、気を引くための贈り物とかだったら断ってたと思いますが、本当に私のためを思って作られた物だったり、わ、私からお願いして作っていただいたものだったりするからで――」

「えっ? 祈の方からねだった物まであるの?」

「それは違……くはないんですが、場の勢いもあったと言いますかそのですね?!」


 それはそれとして、女友達に聞き出された祈の話によって一部男子が心に傷を負っていた。

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