09:なんか続々と
スマホサイズのゴーレムに周辺の魔力の反応を表示させてみたところ、織宮さんの周囲に集まっている人たちの魔力は、ぽつぽつ素の俺と同じくらいの人が居る程度。
どの程度の魔力かを具体的に例えると、フル活用できれば、人を殺せる威力の魔術をギリギリ一発だけ放てるかなってところ。まぁ、魔力の回復速度はわからないから評価は難しいけど、仮に回復に数日かかるとしてもヤバいといえばヤバい、かもしれない。
ただ、魔法少女と呼ばれていた三人組や昨夜ゴーレムを介して軽く接触したゴスロリ少女はその何十倍も魔力があるから、そういった存在と比較すると脅威度が低いのは間違いない。そして織宮さんも当然魔法少女と並ぶラインに居る。
それはともかく、もう少し範囲を広げてみると、この公民館に魔法少女並かそれ以上の魔力を持つ存在は、俺達以外では一つだけ。公民館の正面入り口辺りから、俺達が居る駐車場の方に歩いてきている。部屋着のようなスウェットとパーカー姿の黒髪の若い女の子で、多分、ちょっと前に見た顔だねこれ。
「……? おはようございます。初めまして」
「あー、うん、初めまして。織宮さんを探してるのならあっちの、人が集まってる所に居るよ」
「……あ、本当に居る…………織宮さんには後で話を聞きたいと思いますが、貴方はどういった関係の方でしょうか」
織宮さんの友人か知り合いっぽいけど、なんか俺と話すことにした模様。ゆるく警戒されてるような感じはあるけど、敵意ってほどでもない。
「俺は、今は織宮さんと同じ職場で働いてるほぼ同期、ちょっとだけ先輩ってところで、知り合ってからは二週間くらいの間柄だね」
「え、就職してるんですか? 高校中退……?」
「あー……詳しくは本人から聞いてほしいところだけど、特にノルマなんかもなく好きな時間に好きなだけ働ける成果給のバイトみたいなものだし、織宮さん本人はこっちの世界で行方不明になってから体感で一か月も経ってないらしいから、状況次第で復学はあると思うよ?」
「え、あの、一年は経ってるはずなんですが、記憶喪失とかですか……?」
「いや、コールドスリープみたいな状態で漂流してたようなものだから、肉体的にも一か月ぐらいしか経ってない、って言って伝わる?」
「SFみたいな話ですが、その……騙そうとしてるわけではないんですよね?」
「うん。本人に聞けばわかる話だし、嘘を吹き込んで人を困らせるような趣味もないよ」
「そ、そうですか」
手をひらひらと振りながら正直に答えると、どうやらある程度信じてもらえた様子。本当のことではあるんだけど、内容が内容だけにここまで信じられると逆にちょっと心配にもなる。
「というか、君はあっちに行かなくていいの?」
「まぁ、その、同じ学年ではありましたが、そこまで親しかったわけでもないので、あの場に加わるのは、ちょっと」
「だからって初対面の男と話し込むのもどうかと思うけど……」
「話し込むってほどでもないでしょ。ナンパされてるわけでもないですし」
「それはそうだけど……ああほら、来たよ?」
「来た?」
俺に話しかけてきているこの子は気づいてないみたいだけど、俺はウィッシュのおかげで敵意を感じ取れるから、入り口の方から誰かが俺に敵意を向けながら、早歩きくらいのペースで向かってきているのもわかる。多分だけど、女子をナンパしている男、とでも思われてそうだなぁと。
「あっ」
「おっはよーキラりん。祈ちゃんは居た?」
「うん、居たよ。でも話したい人がいっぱい居るみたいだから、私はこの人から話を聞いてたの。同じ所で働いてる人なんだって」
「あっ、そうなんだ? 本当に?」
「うん、本当みたい」
幸いにも、お友達らしい女子の誤解はすぐに解けた模様。
んー……表面上は普通っぽい対応だったけど、敵意を持たれていたのはわかるからちょっと微妙な気分。でも気にしすぎるのもあれか。
「あっあー……どうも初めまして、示野でっす」
「初めまして。只野です」
「あっ、その、私は宙川です」
少し目が泳いでたけど、敵意が無くなって苗字を名乗られたから、名乗り返しておいた。先に話してた子も苗字を名乗ったことに、後から来たシメノさんが驚いてたりもする。
まぁ、名乗り合ったところで話が途切れたし、俺から聞くことも特にない……わけじゃないけど、第三者が居るところで『あなたは魔法少女ですか?』とか聞くのもどうかと思うからどうしよう。
「って、お兄さんよく見たら、卵の人じゃない?」
「……卵の人? そんな呼び方をされた覚えはないけど、人違いじゃない?」
「あれ? 対策本部のサイトで新しく公開されていた動画の人と似てた気が、あ、卵の人はうちらが勝手に呼んでるだけか」
「あぁ、それなら出たね。加齢による体力の衰えを理由に肉体労働を拒否する人が多くて問題になってるとかで、体力が衰える理由の大半は加齢そのものではなく運動不足だって趣旨の話を……まぁ、どのぐらい編集されたかは知らないけど、卵を使った実例は流れたのかな」
「ですです。確認とかしなかったんですか?」
「いやー、撮影後に思い返すとだいぶ余計なことも好き勝手言っちゃってたし、自分の写真や映像ってあんまり見たいもんでもなくてね」
「あー、そういう人も居ますよねー」
なんか、意外にもするっと納得されたな。
シメノさんは雰囲気的に自撮りとか平然としてそうな子だと思ってたけど、交友関係が広かったとかそういう感じかな?
そして、ソラカワさん、空川さん? の方は俺が持っているアクリル板に注目している。
「あれ、スマホかと思ったら、違うんですね?」
「ああこれ? これは黒く染めたアクリル板にちょこっと手を加えたものだよ」
「……何でそんなものを?」
「便利なのと、安全のためかな。ここ一年くらいで不思議なことができるようになった人が結構居たりすると思うんだけど、俺も色々できるようになった方で……みたいな話をされても困るかな?」
「…………まぁ、胡散臭い、ですね」
「宗教とかの怪しげな勧誘だったりします?」
魔力的に色々やれそうなソラカワさんに胡散臭いと言われつつ、そこまでではないシメノさんの方からもちょっとアレな評価が。
「怪しいのはわかるし勧誘みたいな側面が全くないとは言わないけど、とりあえずこの場で今すぐどうこうってことはないよ」
「……じゃあ、怪しさについては良いとして、結局それは何なんですか?」
「今は、特別なことができる力を宿している何かの位置と、その力の強さを調べるレーダーを表示するモニターだね」
「……うえっ?!?」
表示している面を真上に向けながら、二人にも見やすいように下げて見せる。
なお、どれだけ拡大しても真上から見た粗いドット絵のようにしか見えないように解像度、というか分解能は低めに設定してある。覗きと疑われたりはしたくないからね。
「むー……本当に怪しさ満点ですけど、本物なんですか、これ?」
「完璧とまでは言わないけど、十分信頼できる情報だと思うよ」
「えぇぇー……祈ちゃんはなんとなくそんな気はするけど、あたし全然じゃない……?」
「個人差はどうしてもあるからねー」
「それで、この強く光ってる人を勧誘すると」
「いやいや、これで反応を探れるのは人間だけじゃないし、反応が強いほど色々なことができるから、むしろ悪さをしてないか警戒してるところだよ」
「ああ、そっち……」
ソラカワさんの方は見せた時に驚いてそのまま画面を見つめていて、シメノさんの方は若干落胆したような雰囲気で色々聞いてきている。ソラカワさんの反応が強い点についてはスルーなんだなーとか。
「……なんか、強い反応が近づいてきてますね? 走ってるにしてもちょっと速いペースで」
「ん、ホントだね。道路を通ってはいるみたいだけど、かなり滑らかな……キックボード?」
反応を見た感じ直立に近かったけど、手を前に突き出したような姿勢のままスーっと動いてるからそんなところかなと。もしかしたら、空飛ぶキョンシーの可能性もなくはないか? と、ガラガラと小さなタイヤが回ってそうな音が聞こえてきたから、やっぱりキックボードっぽい。
そして公民館の敷地の入り口に現れたのは、シンプルな構造のキックボードに乗った黒い長髪の女性。そこそこ若そう。
……電動じゃないキックボードって、公道を走っちゃダメだったような気が……自動車がほとんど走ってない今のこの世界ならアリなのか?
「お知り合いですか?」
「いや。君らはどう?」
「初めて見る人ですよ。今日はお客さんが多いですね」
女性は敷地に入った辺りでキックボードをバッグに収納したかと思えば、俺達三人が居る方に歩いてくる。まぁ、敷地の入り口から一番近い位置に居るのは俺達だけど、何だろうね?




