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澱界宮の探索者  作者: 赤上紫下
第 07 章

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05:自分に引く

「……ランス博士、俺のそれってどの程度効果があるものなんですか?」


 さっきの説明通りなら近くに居る相手を無意識に、触れもせずにマッサージし続けているようなもので……それはなんかもうエロゲに出てくるトラップみたいなレベルではた迷惑な存在ではないかと思うんだけれども。


「うむ、その点については……先程した以上の説明は難しいね? 鈍感な者であれば何も感じないだろうが、感度の高さに応じて感じる心地よさも高まる。しかし一定以上の感度があれば自然と干渉を防ぐ術も学ぶだろうし、そもそも体内の力の流れも自分で整えられるだろう」

「なるほど? ……周りの迷惑になるかとかの心配は要らない感じですかね」

「うむ。アキミチ君が今のままLvを何十と上げたところで、転送待ちの列に並べば周囲が腰砕けに、距離があっても視線を向けられれば、なんてことはそうそう起こらないはずなのだよ」

「それぐらいなら、一安心ですかね」


 それはそれとして影響を減らせるようにはしたいと思うけど、その辺は今後の課題として覚えておきたい。……Lvが上がった後で触っても大丈夫とは言われてないし、Lvとは別に周囲への影響が大きくなる可能性もあるし。


「というか、視線を向けるだけでも効果があるんですか俺?」

「うむ。厳密には五感でより正確に認識した対象への効果が大きくなるのだろうが、干渉の強さは距離の広がりに応じて目に見えて減衰しているから、直接の接触と視線で変化を感じやすい、といったところだね」

「マジっすか……ああいや、それでもそこまで効果が強いわけじゃないならいいんですかね」


 俺の視線がいつの間にかア○メビーム化してたのかと一瞬驚いたけど、うん。無意識に干渉しちゃってる結果だそうだから、帰ったら抑えるための練習は確実にやろうと思う。

 で、そんな予定は立ったわけだけど――


「…………ええっと、織宮さん?」

「はい、なんでしょうか」

「服とか、着たらどうかな?」


 織宮さんはさっき俺になでさせた時と同じ下着姿のまま、一度離れた後はまた俺の手が届く距離まで近づいていた。少し照れてそうではあるけど、なんかそこに居るのが当然だとでも思ってそうな雰囲気である。

 どういう思考をしたらそんな行動に至るのか、割と本気で不明なんだけど?


「そ、それは、その……また後で着ます。それでですが、えと、私の触り心地はどうでしたでしょうかっ」

「……? まぁ、軽くなでただけだけど、一般的に見て悪い方ではなかったと思うよ?」

「あっ、いえ、その、一般論ではなく、只野さんがどう感じたかを聞きたくてですね?」

「んん? んー……俺としても悪いものではなかったと思う、かな?」

「……あの、何故そんなに首をかしげてるんですか?」

「いや、だってほら、俺はウィッシュを触り慣れてるし、さっきだって希未を抱き枕にして寝てたわけで、ねぇ?」

「あうっ?! そ、そうでした……!」


 ……織宮さんが色々天然っぽいというか、寝起きで頭が回ってないのかな? いや、頭が上手く回ってないのは俺もかもしれないけど。

 ここまでの織宮さんの反応を総合的に考えてみると――


「間違ってたらごめんだけど、もっと俺になでられたいってこと?」

「ま、ま、まぁ、そうなります……うぅ……」


 何で俺に? いや、俺に触られるのは気持ちいいらしいけど、ウィッシュとはともかく俺と織宮さんの関係は、友人と呼べるかも怪しい範囲の知人ってぐらい薄い関係だと思うから、気持ちいいってだけで下着姿を晒して更に触らせるのは違和感がある。

 ひどい目に遭ってきた経験があるとか、自分が居た世界から離れた孤独感を強く感じているとかならわかるけど、現在地は織宮さんが住んでいた東京で、数時間後には織宮さんの実家近くの避難所になっている公民館に向かう予定もある。不安はあるかもしれないけど、知人程度の関係性の相手に触れられてそれが癒せるもんなのかっていう話にもなる。

 それを癒してくれる恋人とかは、居そうにない雰囲気でもあるけども。


「その……お返しできるものが何もないのが、心苦しいところではありますが、只野さんは並行世界の私(ウィッシュさん)達とも、深い関係ですし。只野さんはその、下着姿を見られても触られても嫌な感じは全然なかったですしっ」

「……えー……と、気持ちよさで不快感が塗りつぶされたりしてない?」

「いえ、一部の男子生徒や男の先生の視線にあったねっとり感みたいなのは確実に少なかったですよ?」

「それはまぁ、俺にはウィッシュが居るからね」

「あぁ……」


 多分執着心の類を鋭敏に感じ取ってるんだろうけど、ウィッシュが居る俺が織宮さんに執着する理由は薄いわけで……いや、それでも居なくなったら惜しいと思うくらいには欲まみれな自覚はあるけどね。かといって性欲バリバリの男子中高生や教師と比べれば……? 教師に負けるのはちょっと違和感もあるけど、まだまだ若手だったりとか、性的な意味でよっぽど飢えてたりでもするのかなその先生。


「そ、それですね、その、な、なでていただきたいんですが、巫女さんの服に着替えてないとダメなんでしょうか?」

「……巫女っぽいコスは好きではあるけど、絶対条件ではないよ? えっと、織宮さんはパブロフの犬って知ってる?」

「パブロフの犬……中学生の頃に、理科でしたか? 何かの余談として聞いた覚えがあるような気がします」

「一応おさらいしておくと条件反射に関する話で、犬にご飯をあげる前にベルや笛を鳴らして合図にしていると、そのうちご飯を用意していなくても合図があるだけで犬はよだれを垂らすようになるっていう実験で、その実験をやったのがパブロフ博士だね」

「あ、はい、思い出しました。そういう話で……ご飯を用意せずに合図だけを繰り返しているとそのうち唾液が出なくなるんでしたっけ?」

「そうそう。これは無意識的な反応を特定の条件と関連付けることができるっていうことで、その条件反射っていうのは勿論人間でも起こる、というより医師として人を治療するための研究をしているうちにたどり着いたものらしいね」


 心理学においては重要な話で、この実験でノーベル賞も貰ってたはず。

 更にこの影響を受けた博士が人間の赤ちゃんを対象にして悪名高い実験も……名前は忘れたけどあったはず。俺が忘れてて悪名高いって言うのはおかしな気もするけども。

 まぁ、悪名で言えばパブロフ博士も実験に使った犬の数は実際には数百頭居ただとか、犬に精神的苦痛を与える方法を常に考えていたとか、犬に手術を繰り返していたみたいな話があった気もするけど。

 そういうあれこれはあるにせよ、条件反射の証明そのものは非常に重要なものである。


「それでまぁ、漫画やアニメにしか登場しないような服装のキャラクターの成人向け作品……性的な描写が多い作品を取り扱うアダルト業界は結構大規模なんだけども、そういったジャンルの作品を取り扱うサイトには、十八歳以上で興味があるとか、現実と区別できるかっていう選択肢を表示する画面がワンクッションとして挟まれるようになってたんだよね」

「は、はぁ、なるほど……?」

「そういうわけで、俺は日本で暮らしてた頃は現実の女性にそういった目を向けて不快にさせることがないようにファンタジーな作品で性欲を解消してたんだけど……探索者になったらこう、現実に居ないはずだったファンタジーな装備をしていて体も引き締まってる魅力的な女性がたくさん居たわけで……じゃあこの人たちにふとした瞬間、条件反射的に性欲を向けてしまったら迷惑になりそうだなって考えた結果の一つが、コスプレっぽい要素を含んだ巫女服ってわけ」

「あ、そこでそう繋がるんですか」

「そういうこと。なんやかんやでララに一着渡しちゃったけど、まぁ、あれは状況が状況だったし許容範囲……だったらいいな?」


 人の判断を俺が断言するのはちょっとあれだけど、ララはそこまで理不尽な性格はしていないと思うし、多分問題ないはず。


「だから、俺が好きな衣装が巫女服だけかと言われればそんなことはないし、下着姿を見てもあまり興奮しないように意識して変えようとはしてたけど……そこまで変えられてる気はしないから、さっき話に出てた男子や先生はよっぽどがっつり見てたのかなとか」

「えっと……どちらかというと、せ、性欲というより、支配欲のようなものが強かったんじゃないでしょうか」

「……俺にも割とあると思うけど……?」

「えっ? …………あっ、その、それを私に向けてるわけではない、ですよね?」

「それはまぁ、そうだね。ペットは可愛がりたいけど、見かけた動物を無理やりペットにしようとはならない、みたいな?」

「……わかりやすい例えですけど、人をペットに例えるのは……」

「いや、織宮さんが視線から相当嫌なものを感じてたのなら、本当にそのぐらいの絶対的な上下関係を押し付けたいと思ってそうじゃない?」

「……の、のーこめんとで」


 そうなると話に出ていた男子生徒や教師の精神性がだいぶアレというか、エロゲの悪役みたいな感じの思考だったのかな? 俺も割とそんな欲自体はあるけど、流石にね。言葉に出さないのはもとより、心の中でも目の前のそういう関係にない相手に向けないよう気を付ける程度の分別はある。

 とはいえ、これだけで織宮さんの受け取り方が大きく違うというのも不思議な気がしないでもないから、他にも理由がある?


「えーと……ええと……」

「……まぁ、イノリ君も欲求不満が溜まってそうだし、アキミチ君がなでるだけで解消できるなら、なでてあげたらどうかね?」

「まぁ、そうなりますか……織宮さん」

「は、はいっ」

「あんまり肌に触れすぎるのもどうかと思うし、何か服を着ててほしいんだけど、せっかくだし何か一着ぐらいあげようか。リクエストがあれば受け付けるよ」


 日本で暮らしてた頃の俺が女の人に言ったらドン引き必至の発言で、自分でも言いながら若干引いてるくらいだけど、織宮さんの不満やらは解消しておいた方が俺としても安心はできるし……?


「で、では、その、只野さんの趣味に合う、え、えっちな服で……ウィッシュさん達にあまり着せてないようなものがあれば……!」

「お、おう……ちょっと漠然としすぎてるというか、絞り切れないから、もう少し何か要望はないかな?」

「でしたら……探索に着ていけるようなもの、でしょうか? いえ、どんなものでも作っていただいた服は着ようと思ってますが……!」

「探索に……んん……まぁ、了解」


 いっそリクエストを聞かずにララにあげたのと同じような着崩れしにくい巫女服もどきをあげるのが楽だった気がしないでもないけど、せっかくだし、反応を探る方でも行き詰ってたからちょっと本格的に考えてみるか。

 探索に行くなら色々ひっかけたりしそうだし、衣擦れの音も気になるだろうから石油繊維系は避けた方が無難かな。探索に悪影響が大きそうだし。

 となると、ララに作った巫女服と同様にレーヨンもどきかな。化学的な工程は経ずに【物品目録】で成形して繋げた木綿(コットン)だから耐水性は木綿と同じ、そして木綿とは違う光沢がある、紡がずに束ねただけの長い繊維だ。

 デザイン……えっちで探索に着ていけるデザイン??? 地肌の露出が増えるとそれだけ探索中に擦り傷とかできやすそうで怖いんだけど……ララやランス博士(エマ)みたいな上級探索者ならともかく、織宮さんはまだ下級探索者だったはずだしね。

 ただ、探索に着ていけるとなると……防具を兼ねる全身装備で、えっちなデザイン? 無理じゃね? ああいや、鎧とは別の装備と考えればいいのか。

 インナーならデザインも思い当たるものが一つあるし、ウィッシュにもあんまり着せてなかったはずから丁度いい。色は、黒一択かな。


「よし、完成。はい」

「相変わらず凄い早さで……あらかじめ作っておいたわけではないんですよね?」

「そりゃまぁ、思考を加速してたからね。【物品目録】で加工する分には手を動かす必要もないからデザインさえ決まればそうそう時間は掛からないよ」

「な、なるほどで……えっと、これは?」

「全身タイツ。探索に着ていけるデザインで悩んでたけど、それならインナーとして鎧の下に着られるでしょ?」

「あ、そ、そうですよね!」


 全身タイツと言うと頭部まで覆うものの方が一般的な気もするけど、首から下だけのものでも一応全身タイツで良かったはず。ナイロンやポリエステルではないけどニット編みだから伸縮性はあるし、糸はレーヨンもどきだから光沢もある。やや厚手にもしてあるから、相当引き延ばされないと肌が透けたりはしないはず。

 ファスナーが背中側だったり、一番下まで下げても背中の真ん中ぐらいで止まる短さだったりで若干不便はありそうだけど、織宮さんならそのぐらいの柔軟性はあると信じている次第。

 織宮さんには以前あげた、プレートを差して使えるガジェット感のあるリストバンドもあるから特撮ヒーローっぽさがちょっとアップ。まぁ、全身タイツは真っ黒なだけだから鎧やスカートを足すなりして、好きなようにコーディネートしていただきたい。

祈「えっちな……(い、いえ、やっぱりそのまま)探索に着ていけるような(大人しいデザイン)で……!」

明「探索に着ていけるえっちな……(インナーにできる全身タイツが安牌か)」

祈「……これは?(き、着るとは言いましたが、これを着て探索に……?!?)」

明「インナーに良いかなって」

祈「あ、そ、そうですよね!(これ一枚だけを着て探索に行けってことではないですよね!)」


※ 祈はウィッシュに色々吹き込まれたり揉まれたりした影響もあってやや発情中&寝不足気味

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