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澱界宮の探索者  作者: 赤上紫下
第 07 章

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04:無茶振り

 色は魔力の強弱を表示するために使ってるからあくまで巫女っぽいシルエットのってだけだけど、そんな十中八九巫女だろうなーという反応以外にも高い魔力を持つ人型の気になる反応がいくつか見つかっていたようで、それぞれ指示されるままに拡大して見てみたところ……コスプレ巫女っぽい反応と同様に着ている衣装の形もわかる反応ばかりだった。

 魔力を探っていて着ている衣装の形がわかるってことは、魔力が籠った特別な衣装を着ているということ。何かの素材を使ったか、後から付与したか、変身のような行程を経て形作られたかは不明だけど、いずれにせよ普通の衣装ではない可能性が高いと思う。

 ただ、体格からして女性の比率が高めで、最初に見た反応ほどではないもののどこかコスプレ染みた衣装が多い。具体的には、メイド喫茶とかに居そうなメイドらしいミニスカ半袖ミニエプロンに頭にも何か着けてたり、妙にきっちりとしたスーツ姿でマントを羽織ってたり、ズボンタイプの袴姿で腰に刀を差してたり、鎧姿で太い剣を背負ってたり。

 あとは、裸で銃身の長い銃らしきものを背負ってるように見える反応もあったけど、体温で見ると服らしき形の反応もあったから、多分普通の服を着てるんだと思う。


「案外バリエーション豊かなもんですね……」


 コスプレっぽいシルエットであることはともかく、十分な戦力を持つ人材がこれだけ居る……案外、モンスターの被害は心配する必要もないのかな?


「まぁ、全員がモンスターと戦っていたわけではないが、ビルからビルへと飛び移れるような身体能力を持ち、野生動物のようなものを狩るような真似はしていたのでね、一応、気にしておいた方が良いかと思ったのだよ」

「……そうですね。ありがとうございます」

「なに、必要な連絡事項だよ。そこでなんだが、この地図上で特定の対象を強調することはできるかね?」

「あー……ちょっと難しそうな気がしますが……とりあえず試してはみます」

「うむ。可能ならありがたいが、無理なら無理で対応できないことでもない。気楽にね」

「はい」


 クライアントからの無茶振りっぽい印象はあるけど、できなかったからといって怒られるような雰囲気でもないからマシな方ではある、かな? 実装方法が思いつかない要求でもあるけども。

 というのも、魔力の強さこそ把握できても、それで個体識別ができるわけではないからだ。ゲームなら内部的にIDや配列があるだろうからそれを使えばいいし、スマホなんかなら電話番号やシリアルIDが割り振られてるだろうから読み取れるようになればいい。しかし、魔力にはIDなんて振られてないし、配列のようなものに情報が収められてるわけでもない。

 ……物語でたまに登場するアカシックレコードみたいなものが実在していればそこに情報が収められてそうだけど、少なくとも、俺が認識できる範囲にそんなものはない。

 マイナンバーが全員に割り振られているとしても、魔力の反応を見て割り出せるはずもなく、遺伝子情報とも関連付けられているわけでもない。

 迷宮都市の基本ツリーにならそういった識別子ぐらい組み込まれてそうだけど、こっちで暮らしている一般人は基本ツリーなんか持ってないわけで。


「んー…………においとか? 無理か」


 一応、魔力と同様に読み取れる情報ではある。多少なり被る可能性はあるとはいえ、魔力と合わせてそこそこ高精度で識別できそうではある。ただ、においを消す方法は何種類もあるから、そういった行動をとられた時にどう判別するか。反応を人が目で追いかけていれば十分判別可能だろうけど、それは本末転倒だし、自動処理でどうなるか……魔力だって増減する可能性だろうから、追い切れるかは不安がある。

 マーカーになる何かを仕込むような真似はできなくもないと思うけど、そういうのは攻撃とみなされそうだから却下。

 魔力は強さぐらいしか読み取れてないから……どうしよう、遺伝子情報を遠隔で読み取る? いや、これもどう読み取ればいいかがわからない。


「……魔力から読み取れる情報量を増やせないか、頑張ってみるか」


 魔力持ちの人達それぞれで内部の情報の管理方法が違ってる可能性なんかも考えられるけど、それならそれで、管理方法も識別するための情報に含めてしまえば――あれだけバリエーションが豊かなんだから、個人識別は無理でも魔法少女かコスプレ巫女かみたいな区別ができるようになれば十分助かる。というかそれでモンスターを認識できれば十分な気もする。

 そしてできれば、アクティブセンサーではなくパッシブセンサーのように、相手が垂れ流している魔力を読み取るだけで実現したいところ。まぁ、言うは易しという奴だろうけどね。



 ………………

 …………

 ……



「おはようございます……」

「おはよう」


 俺がああでもないこうでもないと試しているうちに織宮さんも起きてきた。まだ外は暗く、織宮さんが寝てたのは多分、三時間くらい。一般人にしては短いけど、探索者になってLvが上がってる織宮さんには十分な睡眠時間……まだちょっと眠そうには見えるけど、寝起きがあまりよくない性質だったり?


「では、儂も仮眠を取らせてもらうとしようかの」

「はい。僕は、イデア博士の後かな」

「二人で寝てきたらどうかね? 何かあれば起こすし、アキミチ君が起きていれば全員での退避も可能だろう」

「そうかい? それじゃあ、お言葉に甘えようかな」

「うむ」


 織宮さんと入れ替わるようにイデア博士が隅に移動し、ランス博士(エマ)に促される形でライド博士も仮眠を取りに行った。


「ランス博士は大丈夫なんですか?」

「私はLvと『治癒』の力があるからね。数日の徹夜は問題なく、立ったままでも数分休めば活動は十分可能なのだよ。まぁ、必要ないとはいえ、横になって眠りたくなることはあるがね」

「なるほどです」


 以前、探索に誘われて一緒に寝たのはレアケースだったと。なんか色々溜まってそうだったし、そりゃそうか。


「あ、あの、只野さん」

「うん、何かな?」

「今は何も言わず、私の頭をなでてくださいっ!」

「……うん???」


 え、いや、え?

 椅子に座ってる俺にお辞儀でもするような姿勢で頭を差し出してるんだけど、どういう意図なの織宮さん?

 いやまぁ、要望自体は聞いていた通りなでてほしいんだろうけど、えぇぇ……? いや、うん。セミロングくらいの長さの若干寝ぐせが付いている髪はちょっと気になってるし……と、とりあえず、なでておくかな。寝ぐせもついでに手櫛で直せるだけ直しておく。


「はう……あぅぁぅ……」


 寝ぐせを直すついでに、かゆそうなところを軽くかいてみたら、気持ちよさそうに目を細めつつ、頭が上の方に。これは、あれか? 喉もなでろと?


「ふぁ、ほあぁ…………ハッ!?」


 俺が喉をなでても気持ちよさそうにしていた織宮さんだったけど、何かに気づいたような声を上げた。さっきまでと違って目がぱっちりと開いている。


「……何かマズかった?」

「気持ちよかったで……じゃなくて、も、もう少し確かめたいので、このまま続けてお願いしますっ……!」

「続けて? ……ええ……?」


 探索者用の装備を収納して、スポーティな印象の下着姿になった織宮さんが一歩進み、俺の目の前に立っている。いや、これどうなでろと?

 ひとまず……割れてこそいないものの腹筋や肋骨が見て取れる引き締まったお腹周りを、揃えた指の付け根あたりでなでくりと。


「ふっ、う……? 只野さん……?」

「いや、流石にその辺は本格的にはなでにくいし、そろそろどういう意図か聞きたいんだけど?」


 織宮さんは「それだけですか?」と言わんばかりの物足りなさそうな雰囲気ではあったけど、いい加減気になる。


「は、はい……その……私って、Mなんでしょうか?」

「うん? ……あー……うろ覚えだけど、寝る前にウィッシュがそんなことを言ってたっけ?」

「はい……自分で触ってる時と違って、ウィッシュさんに触られた時の方が、そして只野さんに触られた時がもっと、その、き、気持ちよかったんですが……」

「……ウィッシュより俺の方が気持ちよかった理由はわからないけど、まぁ、俺はウィッシュを触り慣れてるから、その辺の関係かな?」


 どの辺をどんな力加減で触られたいかは、ウィッシュに関してならなんとなくわかる。それが誰にでも通じるとは思ってないけど、並行世界の同一存在のような織宮さんに関しては通じたんじゃないかと。


「それにしては、只野さんだけ……体の芯からしびれるような感覚もあったんですが……」

「そんなこと言われても……俺は知らないよ? 普通に触っただけだし……」

「ええぇぇ……?」


 本当に、普通になでたりしてただけのつもりなんだけどね?


「ああ、アキミチ君は無意識なんだろうが、私には心当たりがあるのだよ」

「へ? ……あっ?」

「……ええと、ランス博士、その心当たりというのは?」


 織宮さんは、ランス博士(エマ)や護衛のような戦力としてついてきていた上級探索者三人の存在も忘れてたような反応をしてるけど、指摘しても恥ずかしがらせるだけな気がするのでスルー。心当たりってのも気になるしね。


「まずは、Lvだね。ウィッシュ君の身体のLvと比べてもアキミチ君のLvは高いから、体の深くまで影響を与えやすいのは確かなのだよ」

「はぁ、なるほどですねー」


 Lvが上がると――存在力(ExP)が集まると、本人の力より体の強度の方が補正を受けやすいらしいから、自分自身で触るより、自分より高Lvな相手に触られた方が強い刺激を受けるのは道理か。


「そしてもう一つ、これはアキミチ君が操作を得意としているからだと思うが、アキミチ君の周囲の力の流れは整うからね。体の中の乱れた力の流れを上手に整えられれば、気持ちよくなってしまうものなのだよ」

「ええ……? いや、そっちについては全然俺にも心当たりがないんですが? 今回も【操作】とかは使ってませんし」

「まぁ、【操作】はあくまで人が扱いやすいように作られたアビリティだからね。アビリティとは無関係に力の方が勝手に従う部分も当然ある、というより、そうでなければアビリティなど作れるはずがないのだよ」

「な、なるほど……」


 そういえば、アビリティは完全に人のために作られた物なんだっけ。アビリティが一つあれば次を作りやすくなったりはするんだろうけど、精密加工機や電子機器も、部品を作る機械や、更にその機械の部品を作る機械と辿っていけば、人の手で作られた物に行きつくようなもんか。

 ……全く意識してなかったんだけど、織宮さんにちょっと悪いことしたかな?


「そういうことだから、イノリ君も立ち位置を変えてみれば、それだけで感じるものはあるのではないかね?」

「そ、そういうことは、あるような気も……」

「……マジで?」


 そんな位置を変えただけでわかるくらい効果があったの? なんか色々申し訳なくなってくるんだけど……。


「なんか、ほっとしました。ありがとうございます」

「うむ」


 織宮さんの悩みは解決したみたいで良かった……のか?

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