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澱界宮の探索者  作者: 赤上紫下
第 07 章

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03:寝る前の会話と見つけた何か

「さ、さあ、整いましたよっ」

「……まぁ、仮眠には十分そうですね」


 織宮さんはマントを敷布団のようにし、二枚の毛布の一枚を畳んで枕に、一枚は羽織って横になっている。


「では、何を話しましょうか。答えられないものも多いとは思いますが、答えられるだけ答えるつもりではありますよ」

「それなら……えっと、まずはその、年齢とか……?」

「……難しい質問ですね」

「難しいんですか?!」

「ええ」


 織宮さんは簡単に答えられそうな質問のつもりだったみたいだけど、ウィッシュの反応もわかる。俺の年齢を聞かれてもちょっと回答には困るけど、ウィッシュの年齢はそれ以上に複雑だ。


「なにしろ、複数の私が集まってますからね。流石に合計はしないにしても、自分の年齢を覚えていない私も混ざっていますし、ご主人様と一緒に異次元空間を漂流していた期間が主観的に何年だったかもわかりません。更に漂流中にも増えていたので平均を求めるのも難しく、今の肉体年齢で言うならこの身体は作って一か月も経っていないのでゼロ歳と言うべきか……なんて、ほら、難しいでしょう?」

「そ、それはそうですね……」


 織宮さんはウィッシュの回答にちょっと引いてそうな雰囲気、かな?

 俺はその、聞き耳を立ててるみたいで、というかそのものでアレだけど、気になるのは気になるし……聞かれたらすぐ答えられるように心構えをする感じで。


「じゃあその、以前、名乗っている名前がいくつもあるようなことを話されていたと思いますが……どのように使い分けてるんです?」

「使い分け……ですか。同じ身体で複数の名前を使い分けている、というような認識をされているのであれば、それは少し違います。身体が対応している名前は一つだけなので、例えば、今のこの身体の名前はウィッシュだけですし、貴女と読みが同じ祈折(いのり)という名前だけを持つ身体もあります」

「……なるほどです。ではその、名前には何か意味があったりするんでしょうか」

「名前そのものに深い意味はないですが……そうですね、ウィッシュという名前の身体は私達全体の身体のようなもので、他の名前の身体は、現在では四つの名前があるのですが、全体ではなくそれぞれに担当が決まっているような……ともかく、第二の人生を歩みはじめた四人の私が居て、この身体で話している時は私達全員の総意のようなもの、といった感じですね」

「なる……ほど?」

「何か気になるところでもありましたか?」

「えっと、そうですね。さっきまで聞いていた話からすると、少ないような気がして」

「まぁ、それについては、必要に迫られた結果と言いますか……同じ名前を担当している私達同士での繋がりを強めているので、外から区別する必要はありません」

「……ええっと……大丈夫、なんですか? それは」

「別れようと思えば別れられるくらいの繋がりに留めていますよ。ご主人様と会うまでの経緯が似ている私同士での繋がりですし、完全に同化してしまっても私としてはあまり支障もないのですが、ご主人様が気にされてしまいますから」

「そ、そうなんですか? ええっと……??」

「事情もそう難しいものではなく……ご主人様は一人しか居ませんからね。私達が全員バラバラに一人ずつ相手をしていただくような形では、単純に待ち時間が多くなりすぎます。完全に公平にしようとしたら、一度名前を呼ばれるだけでも何日待たされるか、一時間ほど二人きりで居たら次は何年後になるか、なんて関わりしか持てないのは嫌だと思いません?」

「それはそうで……って、そんなに居るんですか?!?」

「はい。なので、一人一人が個別に触れ合うのは、ちょっと現実的ではないですね」

「いえ、それはわかりましたけど……それだけ居て、皆只野さんのことが、その、好き、なんですか?」

「まぁ……全員がそうと言い切れるわけではありませんが、そんな私も含めて、いくらでも替えが利くと言っていい私達全員を、極限状況下でも大事にしてくださってましたから」

「そうですか……それは……わかる気がします」

「それと、そうですね。先程の名前の話の続きになりますが、この身体とそっくりな私だけでなく、このような私も居ます。名前は希未(のぞみ)です」

「……えっ? えっ?! あ、あの、もしかして、妹さんとかでしょうか?」

「いえ、諸事情あって若返らせられていた時や、過去に意識だけ飛ばされている時にその体のまま世界から放り出された私も居た、という例ですね。もっと幼い、小学生だった頃の体のままの私も居ますが、ご主人様に提案を却下されてしまったので、中学生の頃のものを参考にした身体です」

「いやその、それでも驚きというか、何でわざわざそんな幼い頃の体を作ったんですか?!」

「先ほど少し言った第二の人生というのが、真面目な話だからですね。流石に小学生未満から始めるのは極端ですが、理想を言えば高学年くらいの身体も一つくらい欲しかった気はします」

「あ、はい、なるほど……」


 口調はともかく、声の質は同じだから、目を閉じていると文字通りの一人芝居を見て――はいないか。鑑賞してるような感じ。一応ある程度聞き流そうとはしてるけど、普通に聞こえる距離だしね。


「えっと、話は変わりますが、巫女さんのような服はお気に入りなんでしょうか……?」

「お気に入り、ではありますね。適度に可愛さや特別感がありますし、コスプレとしてのアレンジの自由度も高いですし」

「なるほど……って、あの、希未さんは何を?」

「話ならそちらのウィッシュだけで十分そうですが、そのまま戻るのも味気ないので、ご主人様の枕にでもなろうかと。良いですか? ご主人様」


 ……こっちに近づいてくる衣擦れや足音は聞こえてたけど、織宮さんの前で俺はこれにどう答えるべきだ……?


「……まぁ、変に脱いだりしないなら」

「はい。それでは失礼しますね」

「うん……うん?」


 どう枕になるつもりだったのかは不明だったけど、希未がやろうとしてることに合わせようか、なんて考えて目を開いたら、俺の顔の横に伸ばされた希未の手は、ふかふかの肉球グローブに包まれていた。

 まさか巫女服だけでなく猫コスプレも合わせてたか? と思いつつ視線を動かしてみると、猫耳や尻尾は付いていない。

 ……そういうコスプレをしてたら織宮さんの反応ももう少し激しかっただろうから、肉球グローブは今着けただけかな。ちょっとだけ安心。



 ………………

 …………

 ……



 何かの話し声が聞こえてきて目が覚めた。

 寝る前は……ああ、うん。希未は膝枕とかではなく、寝袋の中で俺に正面から抱き着くような体勢で肉球グローブを俺の枕にしていて、俺の顔のすぐ真横にその寝顔がある。頭には猫耳のヘアバンドが装着されていて、腰のあたりには猫尻尾も固定されている。

 寝る前は、寝かしつけようとしたウィッシュが施したマッサージで織宮さんが気持ちよさそうに悶えてたっけ? と思い出しつつ少し体を起こして見てみれば、アイマスクを装着して、パッと見寝相が悪そうな体勢で静かに眠ってる。マッサージの様子は見てなかったけど、ウィッシュと織宮さんの会話を思い出してみると、アイマスクを着けたのはマッサージをする前だったはず。……ついでに織宮さんがウィッシュからM認定されてた気もするけど、それは今思い出すことでもないか。

 時刻を確認してみると俺が眠ってたのは、多分、一時間ちょっとぐらい。寝る前でも体力には余裕はあったし、仮眠としては十分だったと思う。

 ……起きたのは良いとして、このままだと動けないな。


(ウィッシュ、起きてる? 希未の回収をお願いしたいんだけど)

(おはようございます、ご主人様。こちらでやっておきますね)

(うん、ありがとう、よろしくね)

(ふぁっ、あ、おはようございます)

(おはよう、希未)


 希未の身体が消えて――希未以外のウィッシュに身体を回収された拍子に希未も起きたらしい。

 ともかく、自由にはなったので寝袋を収納しつつ、織宮さんを起こさないよう静かに起きて、ランス博士(エマ)達が居る方へ。


「おや、起こしてしまったかね?」

「まぁ、そんなところですが、気にしないでください。それより、何かありましたか?」

「うむ。魔力を多く蓄えている対象を見ていたら、三人の魔法少女以外にもモンスターと戦っていたと思われる反応があったのだよ。この反応だが、拡大できるかね?」

「じゃあ、こちらの画面で……ええ…………?」

「おや……?」


 ランス博士(エマ)が指し示した反応を板状のゴーレムに拡大表示してみたら、その反応の形は、色こそわからないものの、袖が膨らんだ着物とスカート状の袴らしきものを着ていると思われる特徴的な形をしていた。


「これは、本物の巫女なのかね?」

「ええと、袴の形がひざ丈ぐらいしかないようなので、おそらくコスプレか何かではないかと……」

「ふむ?」


 モンスターを倒していたのならある意味本物より本物っぽいけど、神社で働いている巫女さんなら、スカートタイプの袴もあるらしいけど、足首ぐらいまでの長さはあるはずだから違うはず。

 しかし、本当に戦える能力がある魔法少女に続いて巫女っぽい何かまで居るのか……。

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