7. 牽制
学園初日、プリシラをエスコートしてその門をくぐった。プリシラのストレートの金髪が風に靡くたびに、令息たちの視線を釘付けにした。
「ふわわ~」
「プリシラ、学園に着いて早々、あくびをしないでください」
「だって眠いんだもん」
先ほどまで、熱い視線を送っていた令息たちが互いに耳打ちし合っている。
「あれまさか、グレイストーン家の"白痴令嬢"か」
「社交も勉強もからきしだとか」
「隣の金髪は使用人か?」
僕は彼らを一瞥して、その顔を覚えた。
入学式では王太子・ライナス殿下が挨拶をした。『日記』によれば彼も『攻略対象』らしい。婚約者のイーディス・スペンサーと仲睦まじげだが、もしもの時には、協力を仰いだ方がいいのかも知れない。僕は殿下たちと交流を持つために、生徒会に入った。
『ヒロイン』のリリアン・エリントンは2年次に編入してくるらしい。もう一人の要注意人物・クィン先生は外国語を担当している。異邦人らしく、黒髪に黒目で、肌が見えないように長い外套を着ていた。人気のある教師で、授業はとても分かりやすかった。
「どうした? 語学は一緒に勉強してきただろう? 何か分からない単語でもあるか?」
クィン先生を見たプリシラは震えていた。他の学生と一緒に授業を受けるだけだというのに。
「大丈夫……。でもちょっと、クィン先生は苦手かな」
「そ、そうか。無理するなよ」
僕はなるべくプリシラと一緒に授業に出るようにした。課外活動に興味のないプリシラは授業が終わるとさっさとタウンハウスに帰っていった。
プリシラが帰ると、僕は僕の仕事を始めた。まずは、入学式でプリシラを"白痴令嬢"と罵っていた令息たちに会いに行った。
「アンダーソン侯爵令息でしたね」
「そうだが。君は確か今年の首席の……」
「申し遅れました。モーリス・ウェントワースと申します。プリシラ・グレイストーンの婚約者です」
「――あの"白痴令嬢"と婚約したのか!?」
「ええ、その件で一つ申し上げに来ました。プリシラ様はとても"賢い"方です。この学園に首席合格した僕が言うのだから間違いない。ご自身が聡い彼女に相手にされなかったからと言って、負け惜しみを言うのは醜いと思いますよ」
アンダーソン侯爵令息は目を丸くした。
「もし今後プリシラ様の陰口を耳にしたら、公爵閣下にアンダーソン侯爵家との付き合いについて進言します」
「ま、待ってくれ。それは困る。申し訳なかった」
「分かっていただければ構いません。生徒会の時間なので失礼しますね」
焦るアンダーソン侯爵令息を置いて、涼しい笑顔で生徒会室に向かった。
ライナス殿下は王家特有の銀髪が美しい気さくな方で、自分にも親しくしてくれた。生徒会の仕事を共にこなしながら、プリシラの『日記』にあったような怪しい動きがないか、殿下にもさりげなく確認した。
「プリシラは、たくさんの縁談を袖にしてきたので、逆恨みしている令息が少なくないんです。何かある前に、対応するのは大変ですよ」
「そうか。彼女すぐに学園に通わなくなりそうだしな」
「殿下も数多いる婚約者候補の中から、イーディス様をお選びになったとか。選ばれなかった令嬢たちの羨望と妬みは、おぞましいものがありそうですね」
「恐ろしいことを言うな。まあイーディスは一人で抱え込むところがあるから、他の生徒から嫌がらせをされていないか、聞いてみる」
「そうですね。もしイーディス様の周辺でおかしなことがあったら、僕にもぜひ教えてください。殿下だけでは動きづらいでしょう。協力します」
「助かるよ、モーリス」
殿下は生徒会の予算に目を通しながら、答えた。




