高校編・第11話「期末という名の、総力戦」
七月。
朝食の席で、凛は母に言った。
「今日は学校が終わってから、胡桃と図書室で勉強してくる」
「あら、もうすぐ期末テストだもんね。頑張ってきなさい」
母が、少し考えるような顔をした。
「お腹空くだろうから、お昼のお弁当の他におむすびでも作ってあげようか?」
「ありがとう、助かる」
凛は少し考えてから、付け加えた。
「あっ、四つ作って欲しい」
「四つ? 友達があと二人いるの?」
「そうだ。できれば予備でもう一つ」
「五つね、わかった」
陸が、箸を持ったまま凛を見た。
「えー、姉ちゃんって胡桃ちゃん以外に友達いたの?」
「みくびるな」
「いや、なんか意外で」
「失礼な奴だ」
陸がちょっと笑いながら味噌汁を飲んだ。
楓が「お姉ちゃん友達多いもん!」と言ってくれた。
(……楓は、いい子だ)
学校に着くと、凛は真美と聖良に声をかけた。
「今日、放課後に図書室で勉強会をする。来るか」
「え、いいの?」
真美が少し驚いた顔をした。
「構わない。胡桃も来る」
「行く行く! 聖良は?」
「もちろん」
こうして、放課後の図書室に四人が集まることになった。
放課後、図書室に向かうと、胡桃がすでに教科書を広げていた。
「あ、凛。真美と聖良も来るの?」
「声をかけた」
「いいね、賑やかになる」
「図書室は静かに過ごす場所だぞ、胡桃」
「わかってるよ」
そんなやり取りをしてると、真美と聖良が入ってきた。
「よろしくー」
「よろしくお願いしまーす」
四人で机を並べた。
しばらく静かに勉強が続いた。
「ねえ凛、この問題わかる?」
真美が数学のノートを見せた。
凛は少し見てから答えた。
「この式、二段階目の展開が違う。ここからやり直せ」
「あ、ほんとだ。ありがとう」
「聖良、英語はどうだ」
「まあまあかな……長文が苦手で」
「長文は、全体の構造を先に把握する。細部から読もうとするから時間がかかる」
「なるほど」
胡桃が、凛を横目で見た。
「凛って、教えるの上手だよね」
「そうか」
「うん。なんか、戦略的に教えてくれる感じ」
(……戦略という言葉は合っている)
テスト範囲を制圧するには、まず全体の地形を把握し、弱点を特定し、効率よく補強していく。
それだけのことだ。
一時間ほど経った頃、凛は鞄からおむすびを取り出した。
「母が作ってくれた。食べるか」
「えっ、いいの?」
真美が目を輝かせた。
「……五つあるね」
胡桃が言った。
「誰の分?」
「予備兵糧だ」
凛は大真面目に答えた。
凛以外の全員が、爆笑した。
「ありがとうー!」
四人でおむすびを食べた。
「美味しい」
「うちの母の手作りだ」
「凛のお母さん、優しいね」
凛は五つ目のおむすびを見ながら、少し考えた。
(……我ながら、なぜ予備のおにぎりを?)
余ったおむすびは、帰りにでも食べようと思うのだった。
「ねえ、テスト終わったら何かしようよ」
真美が言った。
「何がしたい」
「カラオケとか、ショッピングとか」
「……カラオケとは何だ」
三人が、一斉に凛を見た。
「カラオケ知らないの?!」
「名前は知っている。行ったことがない」
「絶対行こう!」
「え、カラオケ未体験なんだ」
「楽しみにしててね」
三人が、一気に盛り上がった。
(……また征服すべき領域が増えた)
凛は静かにそう思いながら、残りの問題集に向かった。
図書室が閉まる時間まで、四人は勉強を続けた。
帰り道、胡桃と並んで歩きながら、胡桃が言った。
「ねえ凛、今日楽しかった?」
凛は少し考えた。
「……悪くなかった」
「それ、凛的には最高評価だよね」
「そうだ」
胡桃が、笑いながら言った。
「よかった」
七月の夕暮れが、二人の影を長く伸ばしていた。




