第15話 『未来』を変えろ
二千十二年、四月二十七日。
平日を二日挟むものの、緑ヶ丘学園の生徒の間では長期休暇であるゴールデンウィークの話題で持ち切り……、ではなく、青海学園との合同体育祭、『朱橙祭』の話題で溢れかえっていた。
「今年の体育祭、青海学園と合同でやるらしいよ!」
「去年の蒼碧祭も青海学園と合同だったよねー。体育祭も合同でやるなんてすごいよね!」
「俺は絶対に総合一位取ってやるからな」
「じゃあ本当に一位取ったら付き合ってあげてもいいよー」
「え!? マジで!?」
「キャハハ! 真に受けすぎだって!」
緑ヶ丘学園高等部の生徒会室へ向かう廊下を歩く生徒会長、鈴村徹は、廊下で会話をする男女の姿を見て微笑んでいた。
「ゴールデンウィークより朱橙祭の話で盛り上がるってすごいなぁ。皆ゴールデンウィークどうでもいいのかな」
「そんなわけないでしょ……。去年の蒼碧祭があまりにも大盛況だったから、今回の朱橙祭も皆期待してるんだよ」
独り言を呟く鈴村の横で、生徒会副会長、綾瀬凛が言う。
「楽しみにしてくれてるなら提案した甲斐があったってもんだよ。咲良たち青海学園生徒会にも感謝しないとな」
「…………そうだね」
青海学園高等部生徒会長、木下咲良の名前を出され、綾瀬は少し顔を俯かせた。
その様子を見て、鈴村は謝罪をする。
「……あ、ごめん。悪気はなかったんだ」
「ううん、大丈夫。咲良さんは生徒会長だから、名前が出るのは仕方ないよ。むしろ、過剰に反応してる私が悪いんだから」
綾瀬は鈴村に顔を合わせることなく言った。
綾瀬の反応を見て、鈴村は怪訝な顔をして確認を取る。
「……それで、もう一回確認するけど……。咲良のあの提案、本当なんだよな」
「……うん。本当だよ」
「『人生の選択肢』の選択も、勝手に決められたっていうのも……」
「本当だってば。……もう、何回聞くのさ。これでもう五回目だよ?」
「いや、ごめん。あまり現実を受け止められてないんだ……。咲良の件もそうだけど、『人生の選択肢』のほうも、本当は嘘なんじゃないかって思ってる」
「…………嘘だったらいいんだけどね」
綾瀬は顔を俯かせたまま答えた。
木下は数日前、綾瀬に直接ある提案をした。
それは、『朱橙祭で開催されるクラス別対抗レースで綾瀬と木下が直接対決をし、勝ったほうが鈴村と付き合うことができる』、というものであった。
木下は綾瀬が鈴村と婚約していることを知っている。
しかし、そんな事実を知っていながらも、木下は綾瀬にこの提案をした。
この瞬間、綾瀬の持つ『人生の選択肢』が光り出し、三つの【人生の選択肢】を提示したのである。
選択肢は綾瀬にとってどれも不利な物であったが、綾瀬は鈴村との関係を壊さない選択肢を選んだ。
しかし、実際に選ばれてしまったのは綾瀬と鈴村の関係が壊れる選択肢であった。
綾瀬はこの一件が起きた翌日、学園内で鈴村に直接相談をした。
鈴村はこの話を聞いた際、現実を受け入れられない表情をして驚いていたが、同時に綾瀬が電話で放った言葉の意味を理解していた。
『…………私を、助けてっ……!』
綾瀬の心からの叫びが、鈴村に電話越しで伝わっていた。
綾瀬の求める助けの声は、単に困っているから出たわけではない。
変えられない未来を決定させられてしまった恐怖と不安に苛まれ、鈴村に助けの声を叫んだのだった。
「……そんな顔するなって、綾瀬。大丈夫だから」
「そんなこと言われても……。そりゃ、鈴村君がお花見のときに【選択の結果】を改変できたっていう実績があったから、鈴村君にあの相談をしたけどさ……」
「したけど、なんだよ。信用できないか?」
鈴村は楽しそうに話す生徒たちを見ながら言う。
「……やっぱり怖い」
「それは俺も同じだ」
「そうなの?」
綾瀬が顔を上げて鈴村に問う。
「ああ、俺だって怖いよ。花見のときのアレだって、あの日たまたまできただけに過ぎないからな。今回もできるとは限らない」
「それじゃ意味ないんだよぉ……」
綾瀬は鈴村の制服の裾を掴み、涙声で言った。
「でも、やらなかったら綾瀬が見たその【選択の結果】はそのままになる。それなら、やらない後悔よりやる後悔のほうがいいだろ?」
「…………後悔するんじゃん」
「いいや、後悔しない。その未来を手繰り寄せるよ。だから俺に相談したんだろ?」
「いや、正直、『人生の選択肢』関連の話で相談できるの鈴村君しかいないから、そうするしかなかったというか……」
「……そうじゃん」
鈴村と綾瀬は立ち止まり、きょとんと顔を見合わせた。
その数秒後。
「……プハッ」
「……ふふっ」
鈴村と綾瀬は軽く笑っていた。
「やるだけやってみせるさ。それでも未来を変えられないなら、もっと足掻くまでだ」
「そうだね。頼りにしてるよ、未来の旦那さん♪」
綾瀬は笑顔で鈴村に言った。
その言葉に、鈴村は視線を逸らして照れていた。
「……よし、それじゃ行きますか。朱橙祭の本会議へ!」
「うん!」
そう言って、鈴村は木下率いる青海学園高等部生徒会が待つ生徒会室の扉を開けた。
*
「青海学園生徒会の皆さま、本日はご多忙の中お集まりいただきありがとうございました」
緑ヶ丘学園高等部生徒会室の生徒会長席で、鈴村が集まったメンバーに向けて話を始める。
「明日から世間はゴールデンウィークですが、俺たちはその一か月後に朱橙祭を控えています。本日の会議では、朱橙祭の草案を基に朱橙祭の流れを取り決めたいと思います」
「じゃあ、この資料はその草案を基に徹が作った朱橙祭の栞、みたいな感じなのかな」
青海学園高等部生徒会長、木下咲良が言う。
「まあそんな感じかな。皆さんにはこの資料周りましたか? 会議始めますね」
そう言って、鈴村はホワイトボードに文字を書き始めた。
生徒会室にいる緑ヶ丘学園高等部生徒会メンバー、青海学園高等部生徒会メンバーには、一人一部の朱橙祭の関する資料が配布されていた。
この資料は朱橙祭の草案を基に鈴村が作成した第二案の草案であり、これを用いて会議をし、朱橙祭の全体的なものを取り決めようと考えていたのだった。
木下は鈴村が会議の準備をしている間、渡された資料に目を通していた。
この資料には、しっかりと種目の一覧の中に「クラス別対抗レース」の記載があった。
(……よかった。ちゃんとこれはやってくれるんだね。ありがとう、徹)
木下は心の中で鈴村に感謝をしていた。
会議は順調に進み、この最中に削られる種目もなく、特に反対意見が出ることもなくトントン拍子に朱橙祭の種目が決定していった。
そして、ついに会議は「クラス別対抗レース」の話題に入る。
「さてと、次は……。『クラス別対抗レース』か」
「徹。これがここに記載されてるってことは、もうやるのは決定してるでいいんだよね?」
木下は鈴村に食い気味で問う。
木下の問いを聞き、綾瀬は戸惑う顔で鈴村の顔を見た。
(鈴村君がここで「やらない」って言えば、【選択の結果】を変えるきっかけができる。もちろん確実じゃないけど……、鈴村君ならきっと……!)
鈴村は視線を向ける綾瀬に感づいたのか、綾瀬に顔を向けた。
そしてそっと、優しく微笑んだ。
(……笑ってくれた。大丈夫だ。鈴村君はちゃんと断って――)
そう、綾瀬が考えた時だった。
鈴村は木下に答える。
「ああ、もちろん、『クラス別対抗レース』はやるよ」
「…………え?」
綾瀬は目を見開き、耳を疑った。
鈴村が綾瀬の希望を打ち砕いたのである。
鈴村の回答を聞き、綾瀬はしばらく動きが止まっていた。
その様子を見て、木下は口角を上げる。
(……やった。やったよ、凛さん。これで凛さんと直接対決ができる。……そして、私は確実に徹を手に入れられる!)
木下は勝ちを確信した。
戸惑う綾瀬は木下に視線を向けると、木下は勝ち誇った顔をして見せた。
その表情に、綾瀬は顔を俯かせる。
(どういうこと……? なんで? 鈴村君は私の味方なんじゃないの? なんで、この種目をなかったことにしないの?)
綾瀬の頭の中にはいろいろな考えが渦巻いていた。
その中でも、綾瀬が考えたくなかった、ひと際目立つ考えが脳裏に浮かんだ。
(鈴村君、私との未来がどうでもよくなったの……?)
綾瀬との離別。
鈴村はこの場で、その選択をしたのだと綾瀬は考えた。
綾瀬は鈴村がこの一年でどのような努力をしてきたかを知っている。
どのような苦労をしてきたかを知っている。
それが、何のために行っていたかも知っている。
そんな鈴村が、自ら綾瀬と過ごす未来を打ち消す選択肢をしたのだった。
この現実は綾瀬にとってとても辛く、苦しく、思わずえずいてしまいそうになるほどであった。
現実を受け入れられず、綾瀬は涙を流す。
「えっ!? ちょ、凛ちゃん!? どうしたんですか急に!」
突然泣き出す綾瀬を見て、生徒会会計、琴原みどりが心配の声をかける。
「一体どうしたのかしら……。急に泣き出すなんて……。……鈴村君、何かした?」
琴原に続き、生徒会書記、宮田詩織も心配の声をかけ、鈴村に冷たい視線を送る。
「俺は別に何もしてないですよ。会議を進めてるだけです」
「じゃあなんで綾瀬さんが泣き出すのよ……。明らかにおかしいでしょ。……綾瀬さん、大丈夫? 保健室に行ったほうがいいかもしれないわね」
宮田は鈴村に再度冷たい視線を送りながらも、綾瀬の背中をさすって保健室へ行くことを促した。
しかし、綾瀬はふるふると首を振り、涙を拭ってから言う。
「いえ、大丈夫です。ちょっと目にゴミが入っただけです。ありがとうございます」
「……ゴミが入った割にはしっかりと泣いていたように見えたけど……。綾瀬さんが大丈夫ならいいわ」
宮田はそう言って、鈴村を睨みつけて席に戻った。
「鈴村君、あまり綾瀬さんを困らせるようなことはしないで頂戴」
「だから、俺は何もしてないですって……。何度言わせるんですか……」
鈴村は呆れる顔で言う。
「……で、このクラス別対抗レースなんですけど……。確かトーナメント式にするんだったよな、咲良」
鈴村の指名され、木下が立ち上がって説明をする。
「うん。この前の会議でも少し話した通り、朱橙祭当日に開催するクラス別対抗レースはトーナメント式とします。予選はそれぞれの学園で行ってもらって、上位四クラス、合計八クラスが当日出場することができます」
「なので、ゴールデンウィークが明けたらこの予選をやろうと思います。うちはうちでスケジュール立てるから、青海学園側は咲良を中心にスケジュールを立ててください。結果が出たら報告する感じでいきましょう」
鈴村は何食わぬ顔で会議を進めていた。
(……鈴村君、なんで止めないの? これじゃ咲良さんの思い通りになっちゃうよ? ……このままじゃ、【選択の結果】は変えられないよ……?)
綾瀬は顔を俯かせていた。
(このままじゃ……。本当に私たち、別れることになるよ……?)
再び涙を流しそうになる綾瀬。
鈴村は一向に【選択の結果】を変える素振りを見せなかった。
綾瀬の心の中は、不安でいっぱいであった。
鈴村の言葉を聞いて、木下が答える。
「わかった。こっちもゴールデンウィーク明けに予選をやることにするよ」
「頼んだ。それで、当日のトーナメントなんだけど……」
鈴村がトーナメントの話を持ち出した瞬間、綾瀬は体を震わせた。
恐怖心で体を震わす綾瀬を見て、宮田が再び心配の声をかける。
「……綾瀬さん、本当に大丈夫? 保健室に行ったほうがいいわよ?」
「…………いえ、大丈夫です。本当に、大丈夫ですから」
「でもまた泣きそうな顔をしてるじゃない……。鈴村君、私ちょっと綾瀬さんを保健室に――」
と、宮田が綾瀬の体を支え、鈴村に言いかけた時だった。
「いや、綾瀬。話は最後まで聞いてくれ。ここからが本番だ」
「え?」
鈴村はニコッと笑顔を綾瀬に振りまいた。
恐怖と不安で壊れそうな綾瀬とは裏腹な笑顔を見て、宮田は憤る。
「……鈴村君、何を考えてるのか知らないけれど、もう我慢の限界よ。もうこれ以上綾瀬さんをいじめないで頂戴。一体何がしたいのかしら」
「俺を責めないでください。責めるなら……、咲良を責めてください」
『……えっ』
鈴村は木下に冷たい視線を送って言った。
鈴村の言葉に木下だけでなく、他に同席しているメンバーも驚く声を出した。
「えーっと、なんで私が責められないといけないの? 理由は?」
「理由は至極単純だ。自分でもわかってるだろ」
「…………っ」
鈴村は木下に向かって言う。
「お前がやっていることは朱橙祭の私物化だ。そこまでして俺が欲しいのか? 女なら正々堂々、小細工なんか使わず真正面から戦えよ」
「………………っ!」
これが鈴村の本音であった。
真剣な眼差しで言う鈴村を見て、木下は後ずさる。
状況が呑み込めていない宮田は混乱していた。
「事情がありそうだから深堀はしないけれど……、せめて何があったかは教えてほしいわね。私物化ってどういうことかしら」
「……まあ、これは言っていいでしょう。咲良の奴、俺を賭けて綾瀬と一対一の勝負をこのレースの決勝でするつもりだったらしいんですよ」
「…………どういうこと?」
宮田は眉をひそめた。
鈴村の発言に、琴原が口を開く。
「このレースで一対一の勝負って無理じゃないですか? そもそもクラス別の対抗レースなのに、一対一での勝負が不可能だと思います」
「その通りです、琴原先輩。そもそもの話、『クラス別対抗レース』と銘打ってるので一対一の勝負はできません」
「じゃあ、どうやって徹君を賭けて一対一の勝負をするの?」
生徒会広報、七倉わかなが首を傾げて問う。
「これも簡単なこと。この会議は朱橙祭の種目や流れを決める会議だ。ここで『決勝は一対一でやる』と決定してさえしまえば、咲良の思い描く舞台が整うってわけだ」
「……なるほど。つまり木下さんは姑息な手を使って綾瀬さんに勝負を挑んでるわけですね」
「そういうことだ」
鈴村は七倉に言った後、木下に視線を向ける。
「なあ、咲良。お前は本当に俺が欲しいのか? そんなズルをしてまで、俺と一緒にいたいのか?」
「え、っと、それは……」
木下は思わず鈴村から視線を逸らす。
「目を見て話せないくせにそんな提案をするのか。度胸ないなぁ」
「そんな風に言わなくてもいいでしょ!」
「じゃあそんなズルすんなよ」
「……っ」
鈴村は憤る顔で木下に言った。
「正直、咲良がやってることは生徒会長という肩書を持っていることも考えると、あまりにも生徒会長に相応しくない行為だ。これが外に知れたら、お前への信頼は下がるだろうな」
「…………それは、そうだね」
鈴村の言葉に、木下は顔を俯かせて答える。
「そんなわけで。このクラス別対抗レースは予定を変更して、トーナメント式はそのままで、決勝でも準決勝までと同様のルールで執り行います」
「なっ……!」
「なんだよ、文句でもあるのか?」
「それは……、ないけど……」
木下は視線を逸らして答えた。
「ただまあ、咲良の気持ちはよくわかった。朱橙祭を私物化してまで綾瀬と勝負したかったんだよな。しかも、全員が見てる場所で。自分が勝ったところを皆に知らしめるために」
「……それがわかってるなら、なんで私のこと邪魔するの!?」
「邪魔はしてない。私物化するお前が悪い。それに俺はさっきも言ったぞ。『正々堂々戦え』ってな」
「……どういうこと?」
鈴村はニヤりと笑い、渡した書類を指さした。
「クラス別対抗レースの次の種目、見てみろよ」
木下は首を傾げながらも、鈴村の言う通り書類に視線を送った。
「…………これって」
「ああ、そうだ。綾瀬から話を聞いて、こんな種目を用意した」
鈴村はそう言って、ホワイトボードに文字を書いた。
「ズバリ。『生徒会対抗騎馬戦』だ」
「……なんで騎馬戦?」
木下は鈴村に顔を向けて問う。
「要はお前は綾瀬と勝負がしたいんだろ? この勝負でどちらが俺を勝ち取れるかの勝負がしたいんだよな」
「……うん、そうだよ」
「それなら私もしたいんですけど……」
「わ、私も!」
木下の言葉に琴原と七倉も続けるが、宮田が二人の肩を掴んでそれを止めて言った。
「これは綾瀬さんと木下さんの問題よ。あなたたちが割って入っていいところじゃないわ」
「……ぶー」
七倉は不満そうに頬を膨らませた。
鈴村は二人のことを気に止めず、話を進める。
「この騎馬戦は文字通り、俺ら生徒会と咲良の生徒会が行う一騎打ちの騎馬戦だ」
「……つまり、この勝負に勝てれば……」
「ああ。咲良の思惑通り、俺はお前のものになる」
その言葉を聞き、木下は思わず笑みがこぼれた。
「鈴村君、一ついいかしら」
「なんですか、宮田先輩」
宮田は挙手をして鈴村に問いかける。
「鈴村君のその行動も、朱橙祭の私物化の一つに入らないかしら?」
「そこはご心配なく。これは厳密には朱橙祭の種目ではないので」
「……どういうことですか?」
琴原が言う。
「この種目はおまけみたいなものです。ほら、他にも『部活動対抗リレー』とかありますよね。朱橙祭自体、緑ヶ丘学園と青海学園がそれぞれ一つのチームとなって競い合い、勝敗を決めます。それぞれの種目でいい成績を取れれば得点が入り、最終的にその得点が多いほうが勝利です」
「じゃあ、この騎馬戦はその得点には関係しない種目ってことですか?」
「そういうことです。ずっと得点に関わる種目やってたら緊張感で楽しくなくなりますからね。小学校や中学校にもダンスの披露とかありましたよね? それと似たようなものです」
鈴村の話を聞き、宮田は顎に手を当てて「なるほど……」と呟いていた。
「なので、これは私物化ではありません。あくまでおまけの種目です。なので、他の生徒は『生徒会が頑張ってるなー』程度で終わります」
「だけど、この種目自体には私たちの命運がかかってる、ってことだね」
「私物化はダメ。でも勝敗はつけたい。この問題を解決するのは、これしかないと思ったんだよ。わかってくれたか? 咲良」
鈴村は木下の顔を見て問いかける。
木下はいまいち納得のいっていない顔をしていたが、少し考えて強張った表情が和らいだ。
「……わかったよ。これで勝負する。私物化は……、その、すみませんでした……」
木下は深々と頭を下げた。
鈴村はその木下の頭を優しく撫でながら言う。
「わかればよろしい。自分が悪いことをしてるっていう自覚があるなら、それでいいんだ。ただ、もう少し生徒会長としての自覚は持ってほしいかな」
鈴村はそう言って自分の頭を掻いた。
「……鈴村君、ちょっと優しすぎるわよ」
「え、そうですか?」
鈴村の言葉に、宮田は思わず本音を口にする。
「ということで! 綾瀬と咲良の勝負はこの騎馬戦で決着をつけてください。もちろん上に乗るのは、綾瀬と咲良だ。正々堂々、頑張れよ」
『…………うん!』
綾瀬と木下は声を揃えて鈴村に答えた。
「それじゃあ、今日の会議はこれで終わりにします。青海学園の皆さまは忘れ物ないようにしてくださいね」
「ありがとうございました、鈴村生徒会長。木下のわがままも少し聞いてくれてはいたみたいですね」
青海学園高等部生徒会副会長、椎名椿が言う。
「いえいえ。咲良の気持ちを汲み取ってあげないと、今後何が起こるかわからないですから」
「優しいんですね、鈴村生徒会長は」
「そうですかね? 普通だと思いますけど」
「…………普通、か」
「……? どうしました?」
「いえ、何もないです。今日はありがとうございました。ではまた、ゴールデンウィーク明けの会議で」
「はい。皆さんもお気をつけて」
椎名は鈴村の言葉に軽く頭を下げ、生徒会室を出た。
椎名に続き、遠坂湊、紫苑寺愛里も鈴村に頭を下げて生徒会室を後にした。
「……色々ありがとう、徹」
「お礼を言われるほどじゃないよ。ていうか、こう見えて俺はまだ咲良のこと怒ってるからな」
「ごめんなさい……」
木下は再度鈴村に深く頭を下げた。
「俺のことを思ってくれることは嬉しいんだけど、ちょっとやり方がなぁ……。まあ、俺の提案で納得してくれたならそれでいいんだけどさ」
「うん。……徹の提案通り、騎馬戦で綾瀬さんと戦うよ。そして絶対に、綾瀬さんに勝つ」
木下の視線は綾瀬に向いていた。
綾瀬は一瞬怖気づいたが、木下の覚悟を感じ取ったのか、真剣な表情で木下に言った。
「私だって、咲良さんに負ける気はないよ。絶対に勝つからね!」
綾瀬は笑顔だった。
「それじゃ、徹。私も帰るね」
「ああ、気をつけてな」
木下はお辞儀をし、生徒会室を後にした。
「……終わりましたね。会議」
「はい……。色々疲れました……」
琴原の言葉で緊張が解けたのか、鈴村はぐったりとして椅子に座った。
「それにしても鈴村君はいつになってもモテるわね。何をどうしたらそんな体質になれるのかしら」
「好きでなってるわけじゃないですって……。それに、俺は綾瀬一筋ですから。誰が何と言おうと、俺は綾瀬から離れる気はないですよ」
「……それ、捉え方によっては束縛強い彼氏にしか見えないわよ」
「えっ!? 俺そんな風に見えてました!?」
鈴村の反応が面白かったのか、宮田と琴原はお腹を抱えて笑っていた。
一方、綾瀬は安心しつつも、気持ちを切り替えていた。
「とりあえずなんとかなったけど……、結局のところ、【選択の結果】はあまり変わってないなぁ」
綾瀬はそう呟きながら、『人生の選択肢』を開く。
木下が鈴村の提案を受け入れた瞬間、綾瀬の『人生の選択肢』は光り輝いていた。
その光が収まった後、綾瀬はこっそりと『人生の選択肢』を確認した。
【選択の結果】
綾瀬凛はBを選んだ。
綾瀬凛は木下咲良と生徒会対抗騎馬戦で勝負をすることになる。
書き換えられた【選択の結果】には、勝負の結果までは記載されていなかった。
「結局、私の努力次第、ってことか」
つまり、この先の未来は綾瀬自身に委ねられていることを意味していた。
「……絶対に勝つからね。咲良さん……!」
綾瀬は強い覚悟を胸に、朱橙祭の開催を待つのであった。




