第12話 青海学園新生徒会
七倉わかなの気持ちが鈴村徹には届かないと、七倉自身が自覚した日の翌日。
緑ヶ丘学園高等部生徒会室にて、生徒会メンバーが集まり会議をしていた。
「……さて。昨日は俺がちゃんと伝えていなかったのが悪かったけど、今日は今年の体育祭についての会議をしますね」
鈴村はそう言って、生徒会メンバーそれぞれに書類を手渡した。
生徒会書記、宮田詩織が書類を受け取って口を開く。
「鈴村君、これ昨日もらった書類とは違うものよね? 何か変更点でもあったのかしら」
「あ、ほんとですね。よく見たら書いてること少し違います」
宮田に続き、生徒会広報、七倉わかなも書類に記載されている内容が異なっていることを指摘する。
「昨日帰ってから少し今年の体育祭について考えてたんですけど、ちょっと皆さんに提案があるんです」
「提案?」
鈴村の言葉に七倉が首を傾げる。
生徒会副会長、綾瀬凛が七倉に続いて言う。
「私たち二年生は、今年の体育祭が高校生活の中で最初で最後の体育祭だもんね。何か特別なものにでもしたいの?」
「特別なものねぇ……。まあ、それもあるけど、要約するといつも通りの体育祭はつまらないと思ってるんだよ」
「いつも通りじゃない体育祭をするってこと?」
「そういうこと」
鈴村は綾瀬の言葉に頷き、戸棚から過去に開催された体育祭の資料が記載された書類を取り出してメンバーに見せた。
「これを見てください」
「これは……、過去に開催された体育祭の資料ね」
宮田が答える。
「はい。各年の体育祭で何をやったかを、逐一履歴として残していたみたいなんです。これを見て何か気づきませんか?」
「気づき……、ですか? …………あっ。よく見たら、毎回同じことしかしてないですね」
鈴村が見せた資料を見て、生徒会会計、琴原みどりが言った。
「さすがです、琴原先輩。うちの学園、一年おきにしか体育祭を開催しないのに、毎回やってることが一緒なんですよ」
「えへへぇ……、鈴村君に褒められちゃいました」
鈴村は状況を説明するが、その傍らで琴原は自分の頭を撫でながら照れていた。
「……何照れてるんですか、みどり先輩」
その様子を見て、綾瀬が琴原を軽く睨みながら言う。
「……はっ! ついうっかり照れてしまいました!」
「うっかりってなんですか……。そんなあからさまな……」
琴原の芝居じみた行動を見て、綾瀬は再度琴原を睨んだ。
(偶然とは言え、やっぱりみどり先輩は七倉さん並みにほっといたらダメな気がするなぁ……。ちゃんとマークしておかないと……)
未だ照れる顔をする琴原を見ながら、綾瀬はそんなことを考えていた。
「ふふふっ、相変わらずモテモテね、鈴村君」
「……今その話しなくていいじゃないですか、宮田先輩」
琴原の様子を見て、宮田は思わず笑みを零して言った。
「話を戻しますね。さっき綾瀬も言った通り、俺ら二年生は今年の体育祭が最初で最後の体育祭になります。俺が生徒会長になったんですし、体育祭で行う種目や内容を提案するのは問題ないと考えてます」
「なるほど? それで今年は鈴村君の考える体育祭にしたいわけね」
宮田が眼鏡を整えながら言う。
「そうです。その一つとして、俺はこの提案をしたいと考えています」
鈴村はそう言って、ホワイトボードに文字を書き始めた。
鈴村以外の生徒会メンバーはホワイトボードに駆け寄り、書き終えた文字を全員が読み上げる。
『…………緑ヶ丘学園と青海学園合同の体育祭?』
全員が読み上げた言葉は疑問形になっていた。
鈴村は後方で腕を組みながら続けた。
「去年は緑ヶ丘学園と青海学園の合同文化祭である『蒼碧祭』を開催しました。今年行う体育祭も例年通りでいいかなと一瞬思ったんですが、せっかく合同文化祭をやったんです。合同体育祭があってもいいんじゃないかと思いまして」
「まあ考えとしては悪くないと思うけど……。でもわざわざ合同にする必要ないんじゃない? 蒼碧祭はもともと青海学園の集客目的みたいなものだったんだし」
顎に手を当てながら綾瀬が言った。
「まあそれもあるんだけどさ、どうせなら体育祭も合同にしたほうが面白いと思わないか?」
「それは面白そうだなとは思うよ? でも色々大変そうだし……。それこそまた蒼碧祭の時みたいに橘の意思を継ぐ輩が出てきてもおかしくないんじゃないかなって」
「考えすぎだよ綾瀬……。あれだけのことがあったんだ。同じようなことをする奴なんか出てこないだろ」
鈴村は困惑する顔で言った。
「私はいいと思うわ。一昨年の体育祭はまあまあ楽しかったけれど、一味違う体育祭をやるのも悪くないわね」
鈴村の提案に、宮田が賛成する。
「私もいいと思います! 私と詩織は二回目の体育祭ですが……、思い出に残ることをしたほうが断然いいです! 私は賛成します!」
琴原も同じく、鈴村の意見に手を上げて賛成した。
「ありがとうございます! 綾瀬はどうだ?」
「うーん……。ちょっと蒼碧祭のことがフラッシュバックしてるけど……、鈴村君なら大丈夫だって信じてるから、いいと思うよ!」
「ありがとう!」
綾瀬の言葉を聞き、鈴村は満面の笑みを浮かべた。
「と、いうわけで。皆からの賛成意見をもらったところで、本日のゲストを紹介します」
「……ゲスト? 鈴村君、ふざけてるのかしら」
鈴村に少しばかりの嫌悪感を向けながら宮田が言う。
「いやいや、ふざけてなんかないですよ。ちゃんとこの場に必要な方々です」
鈴村はそう言って、生徒会室の扉を開けた。
「こ、こんにちはー。お久しぶりです、緑ヶ丘学園高等部生徒会の皆さん」
よそよそしく、真ん中に立つ女子生徒が挨拶をした。
その様子を見て、鈴村は少し頭を抱えて言う。
「そんなんでよく生徒会長になれたな……、咲良」
「さ、咲良さん!?」
真ん中に立つ女子生徒の名前を聞き、綾瀬が思わず大きな声を出して驚く。
鈴村は綾瀬の反応を少し面白く思ったのか、ニヤりと口角を上げていた。
「というわけで、紹介します。本日のゲストは、青海学園高等部新生徒会の皆さんです」
鈴村はそう紹介しながら、パチパチと拍手をした。
少し照れくさそうにしながら青海学園高等部新生徒会長、木下咲良が自己紹介を始める。
「ど、どうも。今年度の青海学園高等部生徒会長、木下咲良です。桜庭先輩の推薦で生徒会長になりました」
「さ、咲良さん生徒会長になったんですか!? すごい! すごいじゃないですか!」
木下が生徒会長になったことに一番驚いていたのは綾瀬だった。
「そんなすごいことでもないですよ。生徒会長になったのはなんというか、話の流れでそうなったというか……」
「それでも桜庭先輩から推薦受けたんですよね!? ということはそれなりに桜庭先輩に期待されてるってことですよね……。すごいです! すごすぎます!」
「そ、そんなに褒められると照れます……」
綾瀬の勢いのある誉め言葉に圧倒され、木下は顔を赤らめていた。
その後ろから、助け船を出すかのように男子生徒が口を開く。
「でも実際のところ、桜庭先輩に期待されてるだけの仕事はちゃんとできていますよ。木下はしっかり生徒会長としての器を持ってたってわけです」
「あっ、遠坂君! お久しぶりですね!」
「お久しぶりです、綾瀬さん。改めまして、青海学園高等部生徒会会計、遠坂湊です。よろしくお願いします」
遠坂は自己紹介をし、少し深めにお辞儀をした。
「…………遠坂君、なんかすごく行動が丁寧になった?」
遠坂の行動を見た鈴村は違和感を持ち、疑問を包み隠さずそのまま遠坂に投げかけた。
「鈴村君はオブラートに包むってことを知らないのかなぁ……」
遠坂は頭を抱えた。
「嫌でも丁寧になるよ……。美奈さん……、いや、柳先輩と一緒に暮らしてるんだから」
「…………えっ!? 遠坂君、柳先輩と一緒に暮らしてるの!?」
鈴村に衝撃走る。
「いちいち反応が大袈裟だね、徹も凛さんも。さすがは婚約してるだけあるわ」
木下の言葉に七倉と琴原は一瞬ピクリと反応したが、動揺せずそのまま冷静さを保った。
「大袈裟も何も……。そもそも咲良たちに会ったの久しぶりなんだから当然だと思うけどな……」
「まあ、それもそうだね。新年度になってから会うのは今日が初めてだし」
「だろ? だから俺らの反応は大袈裟じゃないぞ」
鈴村は自信ありげに言った。
「まあいいけど……。それじゃ、残りのメンバーも紹介するね。こちらが……」
木下が残りのメンバーを紹介しようとしたところで、ウルフカットで銀髪の女子生徒が口を開いた。
「初めまして、鈴村生徒会長。青海学園高等部新生徒会副会長の椎名椿です。よろしく」
椎名はそう言って、軽く会釈をした。
椎名は銀髪のウルフカット。釣り目で身長はやや高めであり、腰に手を当て堂々と立っていた。
鈴村はタイムスリップ以前の性格が未だに残っているため、こういった容姿の人間は苦手な部類に入っていた。
鈴村は苦手だとわかりつつも、怯えながら返答する。
「は、初めまして。……えーっと、椎名さんは副会長なんですね」
「はい、そうです。本当は生徒会長になる予定だったんですが、みやびが木下を推薦するって聞かなくて、こうなりました」
「そうだったんですね……。…………ん? 咲良を呼び捨て……?」
「ああ、気になりました? あたし、これでも木下の一個上なんですよ」
「えっ……!? っていうことは、三年生!?」
鈴村に再度衝撃が走る。
「はい。今年受験です。生徒会長になれば受験に有利になれると思ったのに……。みやびの奴……!」
椎名は指の爪を噛んだ。
「し、椎名先輩。徹や皆のいる前でそういう私情は挟まないほうが……」
少し椎名の様子に違和感を覚えたのか、木下は椎名を宥めるように言った。
「……それもそうだね。皆さん、失礼しました」
「い、いえ、俺らは特に気にしてないです……。……ていうか、さっきから桜庭先輩のことを『みやび』って呼んでいるのが気になるんですけど……」
鈴村はいつ吠え出すかわからない椎名の様子を伺いながら、疑問を投げかけた。
「あたし、みやびとは幼馴染なんですよ。小さい頃はしょっちゅう一緒に遊んでて、青海学園に入ったのもみやびと一緒に過ごしてきたからですね」
「な、なるほど……。それで今は副会長に……」
「木下を生徒会長に推薦するってみやびから聞いた時は唖然としました……。同時に殺意も芽生えました」
『えっ!?』
椎名の言葉に、鈴村と木下の驚く声が重なった。
「冗談ですよ、冗談」
「し、椎名先輩、怖いこと言わないでくださいよぉ……」
真顔で言う椎名に、木下は半泣きで言った。
「でも、みやびが推薦するほど木下は信頼されているっていうのは理解してます。もう決まったことですし、恨んではいますけど特に気にしてないです」
「……なんか、言ってることと考えてることが矛盾する人だな、この人」
椎名の言葉を聞き、鈴村は戸惑う顔を見せた。
涙を拭いながら、木下は最後の生徒会メンバーを紹介する。
「そ、それで、最後に一年生のこの子を紹介するよ」
「おお、一年生が生徒会なのか。そりゃすごいな」
木下は一年生の女子生徒の背中を押し、鈴村の前に立たせた。
女子生徒は深々とお辞儀をし、自己紹介をした。
「お初にお目にかかります。青海学園高等部新生徒会書記の、紫苑寺愛里と申します。どうぞお見知りおきを」
紫苑寺はそのまま頭を上げ、ニコッと笑顔を見せた。
その笑顔はとても爽やかで美しく、宮田と琴原はその美しさに拍手をしていた。
紫苑寺は七倉と変わらず華奢な体躯ではあるが、身長は七倉より少し高めである。
その礼儀の良さと薄紫のロングヘアーから、宮田は「着物を着せたらよく似合いそう」と考えていたが、鈴村と綾瀬はそんなことを考える余裕もなく怯えていた。
「……? 鈴村生徒会長? 綾瀬副会長? どうかされましたか?」
所作の全てに美しさを感じさせ、お淑やかな性格を印象付ける紫苑寺は、鈴村と綾瀬の反応を見て少し困っていた。
鈴村は紫苑寺に声をかけられ我に返り、紫苑寺に答える。
「あ、ああ、ごめんなさい。初対面なのに失礼なことを……。ちょっと嫌なことを思い出したので……」
「嫌なこと、ですか? このタイミングで? ……私、何か粗相をしましたでしょうか……?」
鈴村の言葉に、紫苑寺はさらに心配の声をかける。
鈴村はそれを慌てて否定した。
「い、いやいや! 紫苑寺さんは何も! な、なあ、綾瀬!」
鈴村は綾瀬に話を振る。
綾瀬は鈴村の声に我に返り、誤魔化すかのように口を開く。
「う、うん! そうですよ、紫苑寺さん! 紫苑寺さんは何もしてないです! 大丈夫です!」
「……? そうですか? ならいいのですが……」
慌てて誤魔化す鈴村と綾瀬だったが、紫苑寺は未だ疑念が晴れないでいた。
あまりぱっとしない空気を打開すべく、木下が手をパンッと叩いて話す。
「と、いうわけで。以上が今年度の青海学園高等部新生徒会です。皆さんどうぞよろしくお願いします」
木下はそう言って深くお辞儀をする。
他のメンバーも、木下に合わせてお辞儀をした。
「よろしくお願いします。……それで? 青海学園の新生徒会さんを呼んだのは訳があるのよね? 鈴村君」
宮田が鈴村に問う。
「もちろんです。さっき俺が提案した『合同体育祭』について、青海学園の生徒会も交えて会議をしたいと思ったんですよ」
「会議をするも何も、まずはできるかどうかじゃないかしら」
「そうです。あくまでさっきのは俺が宮田先輩たちに提案をしたまでです。そして皆さんはOKしてくれました。あとは青海学園側がOKを出せばいいわけです」
鈴村はそう言うと、木下に顔を向けて言った。
「で、事前に話した通りだけど、早速会議を始めてもいいか?」
「え、事前にって、どういうこと?」
鈴村の言葉に綾瀬が反応する。
「体育祭まで時間があまりないんだ。今日ここに咲良たちを呼んだのは体育祭の細かい話をしたかったから。事前に合同体育祭をやろうっていう提案は出してるんだよ」
「ってことは、既に話は通ってるってことなの?」
「そういうこと。もうすでに緑ヶ丘学園、青海学園の合同体育祭の開催は決定してるんだよ」
「…………え!?」
綾瀬は少し間を空けて驚いていた。
「なんだか、本当に鈴村君の行動が飯田君に似てきたわね……」
鈴村の行動に宮田は頭を抱えていた。
「さっきも言いましたがあまり時間に余裕はないんです。既に咲良たちにはこの件を提案していて、OKなら来てくれと伝えています。そして、今日来てくれたということは、そういうことなんですよ」
「時間効率を考えるのはいいことだと思うけれど、もし私たちが断ったらどうするつもりだったのかしら」
「そうだよ鈴村君。私たちから反対意見が出たらどうするつもりだったの?」
「それは大丈夫。心配無用だよ」
「何を根拠に……?」
綾瀬と宮田はお互いに首を傾げていた。
鈴村は自慢げに言う。
「もうこの話は既に理事長にしてあるからね。学園長からの許可も下りてるよ」
「………………なんだか、鈴村君には敵わない気がしてきたわ」
「私も目眩がしてきました……」
鈴村の圧倒的な行動力に、綾瀬と宮田は困惑するしかなかった。
鈴村は青海学園生徒会メンバーが着席したことを確認し、改めて言った。
「さて! それじゃ早速、体育祭の会議、始めましょうか」
こうして、緑ヶ丘学園と青海学園の合同体育祭の会議が始まったのだった。
*
「……とまあ、こんな感じですかね。とりあえず今決めることとすれば」
鈴村はそう言って、ホワイトボードに会議内容をまとめた。
「決まったはいいけど、随分大掛かりになりそうね……」
ホワイトボードを見て、宮田は心配そうな顔をする。
「大丈夫です。蒼碧祭をやってのけたんですから、今回もうまくいきます」
「わ、私は心配してないですよ! 鈴村君がすごいの知ってますから!」
宮田の横で琴原が鈴村に激励の言葉をかける。
「ありがとうございます。緑ヶ丘学園、青海学園の合同体育祭、通称『朱橙祭』の大まかな内容は決まったので、細かいことについてはまた後日会議しましょう。今日はここまでにしましょうか」
鈴村はそう言って、関係書類をトントンと机に当てて均した。
「咲良たちもわざわざ来てくれてありがとうな。次の会議の日は追って連絡するよ」
「うん、わかった。……しかしまあ、徹ってすごいね。こんな短時間でいろんなことを瞬時に決められるなんて」
「そうか? どうせ一度きりしかない人生なんだから、後悔のないように動くのは当然だと思うけどな」
「…………後悔のないように、か。確かにそうだね」
木下はどこか遠いところを見ていた。
「では鈴村生徒会長。あたしたちはこれで失礼します」
椎名が代表して鈴村に声をかけた。
「はい。今日はお疲れさまでした」
鈴村の言葉に、椎名ら一行はお辞儀をして生徒会室を後にした。
椎名たちに続き鈴村も帰ろうとしたが、ふと綾瀬に視線を送ると、綾瀬が未だ帰ろうとしていないことに気づいた。
「おーい、綾瀬。帰らないのか?」
「え? あ、うん。ちょっとやり残したことあるから、少しだけ残っていくよ」
「やり残したこと……? 手伝ったほうがいいなら俺も残るけど――」
「大丈夫だから!」
琴原、宮田も残る生徒会室で、綾瀬の叫ぶ声はとても良く響いた。
鈴村は言葉に威圧感を覚えるも、綾瀬を心配するように声をかける。
「綾瀬が大丈夫ならいいんだけど……。あまり無理はするなよ。綾瀬がいなくなったら、俺の心の支えがなくなるからさ」
「…………わかってるよ。大丈夫。また明日ね」
「ああ。また明日。……それじゃ宮田先輩、琴原先輩。今日は帰りましょう」
鈴村、琴原、宮田はそのまま生徒会室を後にした。
鈴村たちが生徒会室を出て五分後。
再び生徒会室の扉が開いた。
「…………それで、話しって何ですか? 青海学園高等部新生徒会長さん」
綾瀬は再び生徒会室の扉を開けた本人に声をかけた。
「警戒されても仕方ないですよね。凛さんだけ残ってほしいって急に言われて、警戒しないほうがおかしいですから」
皆が帰った後、再び生徒会室に姿を現したのは木下だった。
「体育祭の話ならまた今度ですよ。……でも、この感じだとそういうわけじゃないんですよね」
「お察しの通りです。……単刀直入に言いますね」
木下は持っていたカバンを机の上に置き、綾瀬の前に立って言った。
「凛さん。徹から手を引く気、ありませんか?」
「…………は?」
耳を疑う言葉が、木下の口から放たれたのだった。




