第9話 呪いのゲーム
「て、手伝ってって、早紀姉ちゃん、部屋で何してんの?」
琴原みどり、琴原葵が鈴村徹の家を後にして間もなく、鈴村徹は実姉である鈴村早紀の部屋を訪ねた。
綾瀬凛も同行していたが、中から出てきたのは幽霊のような姿をした女性だった。
「す、鈴村君……、その人、本当に鈴村君のお姉ちゃんなの?」
綾瀬が一階のリビングから顔をこっそり出し、恐る恐る尋ねる。
二階にいる鈴村徹は綾瀬を安心させるように言った。
「綾瀬ー、大丈夫だぞ。これは列記とした俺の姉ちゃんだ。こっち来ていいぞー」
「おいコラ、実の姉をこれ呼ばわりとはどういう了見だ」
「痛い痛い! ごめんってば姉ちゃん! 頭が割れるやめてくれ痛い!」
自分のことをこれと呼ばれた鈴村早紀は憤り、鈴村徹のこめかみに拳を当てて力を込めてぐりぐりとし始めた。
綾瀬は鈴村徹の言葉を信じ、ゆっくりと階段を登って鈴村早紀の部屋の前に立った。
「お、お姉さん、すみません失礼なことをして……」
「いやいや、大丈夫だよ。失礼なのはこいつだからさ」
「だから痛いって! 離して姉ちゃん!」
鈴村早紀は綾瀬に言いながらも未だ鈴村徹への攻撃を止めていなかった。
「私がお邪魔したときにもお姉さん見当たらなかったので、留守にされてたかと思ったんですけど、お部屋にいたんですね」
そう言いながら綾瀬は鈴村早紀の部屋を覗き込む。
鈴村早紀は綾瀬に悪びれる顔をしながら言った。
「ごめんね、綾瀬ちゃん。ちょっと部屋で仕事してて抜け出すことができなくって……」
「お姉さんのお仕事って、ゲーム開発でしたよね?」
「うん、そうだよ。前から入りたいと思っていたゲーム会社に入社して間もないんだ。そこでゲームの開発をしてるんだけど……」
「だけど?」
鈴村早紀が言葉を詰まらせる様子を見て、綾瀬は首を傾げた。
鈴村早紀は顔を曇らせて言う。
「どうやってもこのゲーム、クリアできないんだよね……」
「クリアできないって、どういうゲームやってるんですか?」
綾瀬は素朴な疑問を投げかけた。
「姉ちゃんがクリアできないなんて珍しいな。俺と同じで姉ちゃんもゲーム得意だったはずなのに」
「徹ほど得意じゃないよ……。……しかも、今回作ってるゲーム、あたしの得意分野じゃないし……」
「え、そうなの? 何のゲーム作ってるんだよ」
鈴村徹も綾瀬同様の質問を投げかけた。
鈴村早紀は少し躊躇いながらも、その問いに答える。
「ギャ、ギャルゲー……」
『…………ギャルゲー?』
綾瀬と鈴村徹は目を丸くした。
「あれ、姉ちゃんの会社ってそんなゲーム作ってる会社だったっけ……?」
「うちの会社はいろんなジャンルを作ってるんだよ。いろんな部署があるんだけど、今回あたしが開発に携わることになったのはギャルゲーなんだ」
ギャルゲー。
ゲームに登場するヒロインと様々なイベントをこなして好感度を上げ、そのヒロインと結ばれることが最終目標となるノベルゲームである。
「で、クリアできないってどういうことだよ。ノベルゲームでも姉ちゃんならクリアできるだろ」
「それができないんだよ……。だってギャルゲーだよ? 私そういうのに疎いし……」
「……あー。なるほど。確かに姉ちゃん、恋愛経験ないもんね…………、って痛い痛い! だからそれやめて! めちゃくちゃ痛い!」
鈴村早紀は鈴村徹の言葉を聞き、無言でこめかみに拳を当ててぐりぐりし始めた。
「まあでも、実のところ徹の言っていることは間違ってないんだよね……。あたしあんまり恋愛とかしてきたことないから、ギャルゲーをどうすればクリアできるかわからないんだよ」
「そんなの、登場するヒロインとイベントこなして好感度上げればいいだけじゃないか?」
「そうなんだけどさぁ……。何をどうしても必ず最後に恋敵である第二のヒロインが現れて、その子に取られちゃうんだよね」
鈴村早紀は困り顔をし、頭を掻きながら言った。
鈴村徹と綾瀬は『恋敵』という言葉にピクリと反応し顔を合わせたが、考えすぎだと考えそのまま話を続けた。
「姉ちゃんのやってるそのゲーム、まだ発売する前のゲームだよな?」
「そうだよ。今はデバッグの段階で、テストプレーしてバグがないかチェックしてるんだ。今のところまずそうなバグは見当たらないんだけど……」
「ストーリーを進行させると何をどうしてもハッピーエンドにいかない、と」
鈴村徹の言葉に、鈴村早紀は小さく頷いた。
「助けて徹! これ今日中に解決しないと会社でめちゃくちゃ怒られるんだよ!」
「…………そんだけで怒るって、いったいどんな会社だよ……」
鈴村徹は、鈴村早紀が勤めている会社がブラックではないのかと疑い始めた。
「ていうか姉ちゃん。俺に恋愛ゲームを任せるのかよ」
「え、なんで?」
「だってほら、俺も姉ちゃんに負けず劣らず、恋愛には疎いじゃん」
「…………あんた、何言ってんの?」
「え?」
鈴村早紀は綾瀬の顔を見て言った。
「あんた、そう言っておきながら綾瀬ちゃんとくっついてるじゃん。あんたがそんなこと言っても、何も説得力ないよ」
「…………確かに」
鈴村徹は記憶を混濁して話していた。
鈴村徹はタイムスリップする前は恋愛にとても疎かった。
しかし、綾瀬と結ばれる未来を叶えるため、タイムスリップ後に様々な努力をして綾瀬と結ばれることに成功している。
この結果を知っている鈴村早紀から見れば、『鈴村徹が恋愛に疎い』とは見えなかったのである。
「さ、徹。そんなわけだから、とりあえずやってみてよ。徹がクリアできればデバッグは完了だからさ」
「……そんな判断基準でいいのか……? まあ、やるけどさ」
そう言って、鈴村徹は椅子に座り、パソコンを起動してゲームを始めた。
「えっと、ゲームのタイトルは……。…………『俺の恋愛はうまくいかない』……?」
「うちの社長がこのタイトルでいくって言って聞かなくてさ……。あたし含め開発陣からも色々意見出したんだけど、ほぼ社長の独断でこれに決まったんだ」
「そ、そんな一方的なこともあるんですね」
「社会っていうのはそういうものなんだよ、綾瀬ちゃん」
綾瀬の困惑する顔を見て、鈴村早紀は安心させるように言った。
「とりあえず始めますかね」
そう言って、鈴村徹は『ゲームスタート』を押した。
画面に映し出されたのは、ピンク髪でストレートロングの女の子だった。
[こんにちは! 〇〇君!]
画面下部にテロップが表示され、同時に『こんにちは!』の部分だけが読み上げられた。
名前の部分はゲームの仕様上読み上げられなかった。
「おー、このゲーム、フルボイスなんだ」
ノベルゲームでボイスが入ることは珍しいことではないが、鈴村徹はこれに少し感動していた。
「あ、うん。ボイスがあったほうがプレイヤーのやる気が出るっていうから、それを採用したんだけどさ……」
「……姉ちゃん、どうしたの?」
鈴村早紀は鈴村徹から視線を逸らし、照れ気味に言う。
「その女の子の声、あたしが担当してるんだよね……」
「…………え!?」
鈴村徹は理解するのに少々時間がかかったようで、時間差で驚く声を出した。
「え、これ姉ちゃんの声なの!? ……これが!?」
「あんたは何回あたしを怒らせれば気が済むのかな」
「痛いってば! ごめんって姉ちゃん! 純粋にすごいなって思っただけだから! そのぐりぐりするのやめて!」
鈴村早紀は再び鈴村徹のこめかみに拳を当ててぐりぐりしていた。
「でも、お姉さんこんな声出せるんですね! 声優さんみたいですごいです!」
片や綾瀬は、鈴村早紀の意外性に感激していた。
鈴村早紀は綾瀬の言葉を聞き、顔を赤らめた。
「あ、ありがとう、綾瀬ちゃん。この子の声の担当誰にするかの議論になったとき、声優起用するかって話になったんだけど、そんな予算はないからうちの会社から出すしかない、ってなったんだよ」
「それで、お姉さんが選ばれたって感じですか?」
「オーディションみたいなのをしたんだよね。そしたら大絶賛でさ……。満場一致で私になったんだ」
「すごい! すごいですよお姉さん! 声優目指したほうがいいんじゃないですか!?」
「そ、そこまで持ち上げなくても……。恥ずかしいからやめてほしいんだけど……」
感激する綾瀬とは裏腹に、鈴村早紀は恥ずかしさで綾瀬に顔を合わせることができなかった。
「で? 始めたはいいけど、どこでクリアできなくなるんだ?」
「あー、そうだね。そこまで一応飛ばそうか。問題のシーンのところまで行けば、何が起こるかわかるよ」
そう言って、鈴村早紀はパソコンを操作し、ゲームの終盤までゲームを進行させた。
「このピンク髪のヒロインの好感度はマックス。主人公の男の子がどんな選択を取っても結ばれるのは確実っていう状態だよ」
ゲームの画面左にはプレイヤーが選んだヒロインと主人公との好感度が表示され、鈴村早紀の言う通りこのゲージはマックスであった。
画面右上にはゲームの進行度が表示されており、まさに物語もクライマックスの状態だった。
[そ、それで、〇〇君。話って、何かな]
パソコンからは鈴村早紀があてたヒロインの声が流れる。
「……これが姉ちゃんの声かぁ」
「いいから続ける」
「いてっ」
鈴村早紀は鈴村徹に軽くチョップをした。
{夕暮れ時の教室にて。俺は、皇ちゃんを呼び出した}
画面下に、セリフではなくテロップが表示される。
「あ、この子『皇』って言うんだ」
「ああ、言ってなかったね。一応キャラの名前は決まってて、このピンク髪の子は皇ちゃん。主人公の名前はプレイヤーが決めるから、ボイスは宛てないようにしてるんだよ」
「プレイヤーがどんな名前にするかなんてわからないもんな……。まあ、それはしょうがないと思うけど」
そう言いながら、鈴村はゲームを進める。
[え、えっと。皇ちゃんに大事な話があって]
[大事な話?]
{皇は俺に顔を赤らめていた。俺には視線を合わせてくれていない。恥ずかしいのだろう}
「随分都合のいいように捉えるな、この主人公」
「好感度マックスだから手ごたえあるって主人公もわかってるんだよ。それくらい察しなさい、恋愛未経験者」
「…………姉ちゃん、これやめていい?」
「あ、ごめん。失言した」
鈴村早紀は自分の失言に謝罪した。
[えっと、その……]
{俺の心臓の鼓動が高鳴るのがわかる。だけど、俺はこの気持ちを伝えないといけないんだ}
「もどかしいなぁ。早く告ればいいのに」
「鈴村君、なんかそのゲームやってると人格変わるね」
「え、そう?」
鈴村徹は無自覚だった。
綾瀬はその反応を見て少し呆れ顔を見せた。
[あ、あのさ。俺と……]
と、セリフが出たタイミングで、画面に選択肢が二つ表示された。
1.皇に告白をする。
2.皇を教室に置いて一人で帰宅する。
「なんだこれ。こんなの『1』一択じゃん」
「まあ、見ててよ」
鈴村徹は意味ありげな言葉を鈴村早紀から聞き不思議に思ったが、迷わずに『1』を選択した。
[皇。……俺と……、つ――]
{そう言ったところで、教室の扉が力強く開く音が聞こえた。その音は、俺の心臓の高鳴りを全て消し去るほどのものであった}
「え、誰が来たの?」
「ここからが問題なんだよね……」
鈴村早紀は頭を抱えて言った。
[え、紫苑寺……!? なんでここに!?]
{現れたのは、俺の後輩である紫苑寺だった}
「この子は?」
鈴村徹は振り返って説明を求めた。
鈴村早紀は困り顔で説明する。
「主人公の一つ下の後輩。一応このゲームのヒロインの一人でプレイヤーが選ぶこともできる子なんだけど、皇ちゃんを選んだ場合だけ動きがおかしくなるんだよね……」
「…………?」
鈴村徹は鈴村早紀の言うことがわからなかったが、そのままゲームを進めた。
[ここにいたんですね、〇〇先輩! 探したんですよ!]
[紫苑寺、お前帰ったんじゃないのか!?]
[ずっと先輩を待ってたんですよ! さあ、帰りましょう、先輩!]
[……ちょっと、〇〇君。私を差し置いてなんで紫苑寺さんと帰るのかな]
[ち、違うんだって。俺は皇と……、って、離せ紫苑寺! 俺は皇に用が……]
[問答無用です! 今日は私と帰ってもらいますからね!]
紫苑寺のセリフが出たと同時に、皇の好感度ゲージが空っぽになった。
[……酷いよ、〇〇君。私……、〇〇君のことが好きだったのに……!]
[ちょ、待ってくれ皇! 行かないでくれ!]
{皇は泣きながら、走って教室を出て行った}
[さ、帰りましょ♪ 〇〇先輩♪]
[なんでこうなるんだ……]
このセリフが出てから少しして、画面には『BAD END1』と表示された。
「……うわぁ」
この展開を見て、鈴村徹は思わず言葉を失った。
「ね? 何をしてもこの紫苑寺が出てきて、皇との関係を完全に壊してバッドエンドになっちゃうんだ。ソースコードも確認したけど問題ありそうなところはなくて……。他の子でやってもこんなことにはならないんだけど……」
「さっきの選択肢で『2』を選んだらどうなるんだよ」
「皇を置いていくことになって関係は終わり。後から紫苑寺に見つかって、結局紫苑寺に連れられて『BAD END2』になるよ」
「救いようがないじゃんか……」
鈴村徹は頭を抱えた。
「こんな感じで、何をしても紫苑寺が邪魔をしてきて皇ルートだけクリアができないんだ。この問題を開発陣全員で解決しようとしてるんだけど……」
「誰も解決に至ってない、と」
鈴村早紀は大きく頷いた。
「途中のルート分岐に問題があるとかは? 何かの要因があって紫苑寺が必ず出てくるようになってるとか」
「それも見たんだけどね……。それっぽいのは見当たらなくて……」
「……うーん、困ったなぁ」
鈴村徹は頭を掻いて背もたれに背を預け、仰け反った。
「今やってもらったのはセーブデータをロードしたものだから、徹が初めからやってくれれば変わるかも」
「……そうだな。初めからやってみるか」
鈴村徹はそう言って、ゲームを初めからやり直した。
*
「ほ、本当に、結果が変わらない……」
鈴村徹が相談を受けてから数時間。
いくつかのルートを試してゲームを進めていたが、その結果は変わらずだった。
「これだけやって皇と結ばれないなんて……。……これ、なんか呪われてるんじゃないか?」
「の、呪い!? お化け!?」
綾瀬は鈴村徹の言葉に過剰反応していた。
鈴村徹はこの原因を必死に考えていた。
(ゲームの性質上、ちゃんと好感度を上げてちゃんとした選択を取ればハッピーエンドにはなるはず……。なのに何でこんな結果になるんだ……?)
鈴村徹は顎に手を当てた。
少し考えるうちに、綾瀬が口を開く。
「そういえば、後ろから見てて思ったんですけど、このゲーム、皇ちゃんのルートを選んだ時だけ、執拗に紫苑寺さんの選択肢も出てきますよね」
「え? ……そういえば、確かにそうだね。そんなプログラム組んだ覚えはないんだけどな……」
皇ルートを進めている中で出てくる選択肢には、幾度かその話の流れで関係のない『紫苑寺』が関係する選択肢が表示されていた。
鈴村徹たちは特に気に留めていなかったが、考えてみればこの挙動はゲームとして不自然であった。
全く無関係のヒロインが選択肢の中に登場するという展開に、鈴村徹は思い当たる節があった。
(……あれ、これ、俺の『人生の選択肢』で琴原先輩が選択肢に出てきたのと同じじゃね……?)
偶然なのか、ゲーム上で紫苑寺が選択肢に現れるのと、鈴村徹の持っていた『人生の選択肢』が提示する選択肢に琴原みどりが現れるのには、どこか重なる部分があった。
「……もしかして」
「どうしたの? 徹」
鈴村徹はゲームの開発画面を開いた。
「ちょっと試したいことがあって。少し待っててほしい」
「わかった。……でも、何回やっても結果は同じだよ?」
「そうならないようにするんだよ」
鈴村徹はそう言って、パソコンに向き合った。
「徹、どうするつもりなの?」
「たぶんだけど、この主人公、初めから紫苑寺に好意を持つように設定されてると思う」
「……え?」
鈴村早紀は耳を疑った。
「攻略したいヒロインは目の前にいるのに、そこで無関係のはずの別のヒロインの名前が出てくるのはどう考えてもおかしい。どこかに、隠されたコードや設定値があるはず……」
そう言って、鈴村徹は開発画面に表示されるソースコードや設定値を確認し始めた。
「鈴村君、そんなこともできるの?」
「昔、興味があってゲームを作ろうと思ったときがあったんだ。その時に少し勉強したから、それっぽいところを探すことはできるよ」
鈴村徹はパソコン操作をしながら綾瀬の問いに答える。
「たぶんこの辺に…………」
カチカチッ、と鈴村徹は慣れた手つきでパソコン操作をする。
「…………あった。このファイルだ」
鈴村徹は奥底に隠されたファイルを開いた。
そこには、ヒロインを選んだ際に設定される、主人公が保持する別ヒロインへの好意の初期値が記載されていた。
「ほら、ここ。皇を選んだときだけ、紫苑寺への好感度の初期値が五十になってる」
「……ほんとだ。他のヒロインは初期値ゼロにしてるはずなのに……。なんでだろう……」
鈴村早紀が顎に手を当てて考えている瞬間。
突然、鈴村早紀のパソコンのモニターが真っ黒になった。
「え!? 徹、あたしのパソコン壊した!?」
「こ、壊してないよ! いきなりこうなって――」
と、鈴村徹が言いかけた途端、モニターに紫苑寺の顔が映し出された。
[ふふふっ。よく気づきましたね。〇〇君]
黒い背景に紫苑寺のイラストのみが表示された画面から、紫苑寺のボイスが流れる。
「え……、なにこれ……」
「どうしたんだよ姉ちゃん。顔真っ青だよ」
鈴村早紀は後ずさりしながら言う。
「こ、こんなセリフも、ボイスも、入れた覚えないんだよ……。もちろん、こんな演出も……」
『…………え?』
鈴村徹と綾瀬は声を合わせて驚いた。
沈黙が続く中、モニターから紫苑寺のボイスが流れる。
[まさかここに気づくとは思いませんでした。さすが、ゲームが得意っていうだけありますね]
「……これ、もしかして俺に話しかけてる……?」
「じょ、冗談やめてよ。そんなことできるわけ――」
[私は鈴村君に話しかけてるんですよ]
『うわっ!?』
モニターに表示された紫苑寺のイラストは笑顔だった。
名前を読み上げないゲームの仕様を理解していた三人は、突然鈴村の名前を読み上げたことに声を上げた。
「ね、ねえ、これやばくない?」
「姉ちゃん、これ本当にプログラミングしてないんだよな!?」
「してないって! あたしにも何が起きているのかさっぱりで……」
慌てる様子を見ていたのか、紫苑寺が再び話始める。
[ははは! その反応、やっぱり面白いです。このゲームに紛れ込んだだけありますね]
「お、お前は何なんだよ! 俺をなんで認識できてるんだ?」
[それは秘密です。もちろん、私の正体も秘密です。でも、バレてしまっては仕方ありませんね。私は潔く退散することにします]
「説明はしてくれ! お前は何なんだよ!」
[いずれわかりますよ。……いや、もしかしたらもうすでにわかっているのかもしれませんね]
「ちょ、それってどういう――」
[それでは。ゲーム開発頑張ってくださいね。鈴村早紀さん]
「え!?」
紫苑寺はそのセリフを残した後、モニターから姿を消し、パソコンが再起動を始めた。
しばらく沈黙が続く中、鈴村徹が口を開く。
「い、いったい何だったんだ、これ……」
「あたしにもさっぱり……。勝手にパソコン再起動されるし……。こんなのプログラムした覚えないのに……」
鈴村早紀はパニックになっていた。
少しして、パソコンの再起動が完了し、デスクトップが表示された。
「と、とりあえず、さっきの設定ファイル確認するか」
「そ、そうだね。一応見てほしい」
鈴村徹は鈴村早紀に言われ、設定ファイルを開いた。
「……!? 皇を選んだときの紫苑寺の好感度が、ゼロになってる!?」
設定ファイルには、皇を選んだ際の紫苑寺の好感度が五十からゼロに変わっていた。
「本当に何だったんだろう……」
鈴村早紀は頭を抱えて悩んでいた。
「とりあえず、これで一旦ゲームを進めてみよう。これで皇ルートがハッピーエンドになるなら、それでデバッグは完了だろ?」
「そ、そうだね。とりあえずやってみようか」
鈴村早紀はそう言って、初めに鈴村徹に見せたセーブデータをロードし、ゲームを始めた。
[あ、あのさ。俺と……]
と、セリフが出たタイミングで、画面に選択肢が二つ表示される。
1.皇に告白をする。
2.皇を教室に置いて一人で帰宅する。
表示される選択肢も依然変わらなかった。
「じゃあ、『1』を選ぶぞ」
「う、うん」
鈴村徹はそのまま『1』を選び、ゲームを進めた。
[皇……。俺、お前のことが好きだ! 付き合ってくれ!]
[……ありがとう、〇〇君。すごく嬉しいよ。私なんかで良ければ、ぜひお願いします]
{皇は、俺の告白で涙を流し、快く受け入れてくれた}
{こうして、俺と皇は恋人になることができた}
そのテロップが表示されたあと、『HAPPT END2』の文字が画面に表示された。
「や、やった……! クリアできた!」
鈴村早紀はこの結果を見て、安堵しながら喜んでいた。
「何とかなったな……。これでとりあえずデバッグはできたでいいんだよな」
「うん! ありがとう徹! これでなんとか解放される……」
鈴村早紀は肩の荷が下りた様子で床に座り込んだ。
「とりあえず解決してよかったね、鈴村君」
「ああ。……でも、本当に何だったんだ、あの演出……」
鈴村徹は顎に手を当てて考えた。
考える鈴村徹は、パソコンのモニターに視線を送る。
「…………え?」
モニターには、いつの間にか一つのメモ帳と、笑顔になっている紫苑寺のイラストが表示されていた。
次は覚悟してくださいね♪ 鈴村君♪
その文章を鈴村が確認した後、紫苑寺のイラストは笑顔から真顔のイラストに切り替わり、そのまま画面が閉じた。
「…………う………………」
「……? どうしたの? 鈴村君」
鈴村徹の戸惑う様子を見て、綾瀬が心配の声をかける。
「うわあああああああああああああああ!!!!! やっぱり呪いだああああああああああああああああああ!!!!!」
鈴村徹は叫び、鈴村早紀の部屋から勢いよく飛び出して行った。
綾瀬、鈴村早紀の二人は顔を合わせてきょとんとしていた。
「の、呪いなんてまさか、ねえ」
「まさかですよねぇ」
と、二人が言った瞬間であった。
「あなたたちのことも、しっかり見ていますからね」
二人の後ろから、紫苑寺の声が聞こえた。
少しの間、綾瀬と鈴村早紀は顔を合わせ、黙り込む。
そして。
『きゃああああああああああああああああああああああ!!!!!』
二人の叫び声が、家中に響き渡るのであった。




