第3話 人は見かけによらない
「さあ着きましたよー! やっほー!!!!!!!!!」
「…………お前、それどこでもやらないと気が済まないのな」
綾瀬凛が七倉わかなより、恋のライバルとしての宣戦布告を受けた日の週末。
綾瀬、七倉、そしてターゲットである鈴村徹は緑ヶ丘市内で有名なお花見スポットを訪れていた。
鈴村は到着早々に綾瀬が取った行動を見て呆れていた。
そんな鈴村の反応を見て、綾瀬は少し憤る。
「熱海旅行の時も言ってたけど、私はこれやらないと気が済まないんだよ! 鈴村君は慣れてもらわないと困るな」
頬を膨らませて怒る綾瀬であったが、鈴村は綾瀬の言葉を優しく拒んだ。
「そうは言ってもなぁ……。……周りの視線とか気にならないのか?」
鈴村は周辺にいる人たちの視線をチラチラと確認しながら言った。
「うん! 気にならない!」
「…………俺はそういう綾瀬も好きだよ」
鈴村の質問に間を空けず即答した綾瀬に対し、鈴村は悪い意味での敬意を表するように言った。
「えっ!? じゃあ私もそういうことすれば徹君に好かれるんだよね!?」
そのやり取りを見て、七倉が鈴村の前に立って言う。
その眼差しは、鈴村に期待をするようにキラキラを輝いていた。
だんだんと顔を近づけてくる七倉の顔をグイッと押し返し、鈴村は言う。
「勘違いするなよ、七倉。これは綾瀬がやるからいいのであって、七倉が真似たらそれはただの二番煎じだ。全く無意味だよ」
「……ちぇー。いい感じにアタックできるチャンスだと思ったのにぃー」
七倉は鈴村の言葉を聞き、口を尖らせて言った。
「とりあえず、鈴村君。これは私なりの、私個人を売り出すためのものだと捉えてほしいんだよ。むしろこれがないと、私の個性が失われると言っても過言じゃないよ」
「過言だよ」
鈴村は間髪入れずに綾瀬にツッコミを入れた。
「でもまあ、確かにそれが綾瀬らしいけどな。そこは否定しないよ」
ツッコミを入れた鈴村であったが、しかし綾瀬の言葉は否定しなかった。
「それが綾瀬らしいってことは俺もわかってるし、どこか安心するところもあるし」
「す、鈴村君……!」
鈴村の言葉を聞き、綾瀬は感動のあまり涙を流していた。
(鈴村君が……、私のことを肯定してくれてる! あの変な行動、鈴村君に幻滅される行動に映ってなくてよかった……!)
綾瀬は内心、「どこでも山彦をする」という行動を取るかどうか悩んでいた。
傍から見ればこの行動はただの変人である。
物によっては一種の個性として伝わるかもしれないが、それは友人関係の間で伝わるものである。
恋人同士の場合は、一歩間違えれば相手を幻滅させ、関係が崩れるきっかけになり得ないのである。
しかし、綾瀬はそんなリスクを背負ってもこの行動を取った。
理由は単純明快である。
(七倉さんがどんな手を使ってくるかわからない以上、鈴村君には私のことを常に意識させる必要がある……。どうにかして私に注意を引きつけないと……!)
これが綾瀬の答えであった。
生徒会室を後にして三十分の間で鈴村に対する対応が変化するほど、七倉の中で鈴村に対する気持ちが変化しているのである。
綾瀬との関係を知っておきながらも鈴村へのアタックは止まらず、綾瀬への宣戦布告までする始末。
綾瀬には、七倉がどんな行動を取るのか予想もつかなかった。
(気を抜くと七倉さんがいつ何をしでかすかわからない……。とりあえず、七倉さんに意識がいかないように今日を過ごさないとダメそうだね)
綾瀬には精神がすり減る音が聞こえていた。
「おっ、ここなんか花見にいいんじゃないか? ちょうど桜の木の真下だし、三人座れそうだ」
綾瀬が考え事をしている最中、鈴村が座って花見ができる場所を見つけた。
綾瀬は振り返り、鈴村の元に歩み寄ろうとする。
「さっすが私の彼氏! そういうの見つけるのうまいよ……ね……」
綾瀬の言葉は言い切る前にどんどんと小さくなっていった。
それもそのはずである。
鈴村の隣を、常に七倉が陣取っているのである。
綾瀬はその光景を見て、自分の行動に自信がなくなっていた。
(……私、何やってるんだろう。七倉さんがいろいろしてくるってわかってるんだから、考える前に行動すればいいのに)
綾瀬の考えは正解に近かった。
綾瀬は七倉とさほど面識がない。
学年は一緒であれ、一年次は別クラスであり、まともに関わり始めたのは進級して七倉が生徒会に加入してからである。
故に、綾瀬は七倉がどういう人物なのか、どんな性格なのかを知らずにいた。
その真相を確かめるべく綾瀬はこの花見に同行したが、この時点で綾瀬の判断は全てに遅れを取っていた。
(ふっふーん。綾瀬さん、何か考え事をしてたみたいだけど、そんな呑気ことしている間に徹君は私のものになっちゃうよ?)
片や七倉は、不敵な笑みを浮かべて綾瀬を見ていた。
綾瀬は全てを誤算していた。
七倉は、綾瀬が思っているほど緩やかにアタックする性格ではない。
これは生徒会室であった出来事で既に証明されていた。
綾瀬はこのことをヒントに行動するべきだったのである。
七倉は綾瀬に歩み寄った。
「ど、どうしたの? 七倉さん」
「ふふっ、いい? 綾瀬さん」
七倉はニヤりと口角を上げ、綾瀬に言う。
「私は綾瀬さんが思っているほど、悠長にライバルの様子は見ないですよ」
「………………っ!」
七倉の言葉、これが答えであった。
七倉は好意を抱いた相手がいたら、それがパートナー持ちであったとしても、すぐに自分のものにしたいと思う性格であったのである。
綾瀬は七倉の言葉に言い返すことができなかった。
(…………人は見かけによらないって、こういうことを言うのかもね)
ツインテールで小柄な体形の七倉を見て、綾瀬は七倉がそこまで恋愛に積極的ではないだろうと考えていた。
加えて生徒会での鈴村以外に対するあの言動である。
綾瀬からして、七倉は奥手なほうに見えていた。
(でも、それがわかってしまえばこっちのものだよ!)
綾瀬はそう意気込み、鈴村の隣を無理やり奪って言う。
「わー! ここいい場所だね! さっすが鈴村君! こういう場所取るの得意だったりする?」
「うーん、まあ得意というか……。どうせ花見するんだから、皆が楽しめる場所がいいなって思って」
鈴村のその言動に、綾瀬は少し眉をひくつかせた。
「なるほどねー。恋敵がいるっていうこの状況でも、鈴村君はそういう風に考えるんだね」
「……せっかくのお花見なんだし、皆で楽しめなかったら意味ないだろ」
「…………まあ、それはそうだけど」
綾瀬は七倉に鈴村を取られたくない一心でこの場にいる。
七倉は鈴村を自分のものにしたい一心でこの場にいる。
では、鈴村はどうか。
鈴村は、綾瀬と七倉に仲良しでいてほしいという一心でこの場にいた。
もちろん、鈴村は綾瀬、七倉の気持ちをしっかり理解している。
それでも、鈴村本人は、今は花見を楽しんでほしい、という気持ちが強かったのである。
「そんなにいがみ合ったっていいことないぞ。天気もいいんだし、仲良くお花見を満喫しよう」
鈴村はそう言って手際よくレジャーシートを敷いて花見の準備をし、レジャーシートに座った。
「…………ほら、来なよ、綾瀬」
「……え?」
綾瀬は驚く声を出して鈴村を見る。
鈴村は、少し恥ずかしそうに自分の隣をポンポンと叩いていた。
この仕草は、隣に来ていいの合図である。
「…………鈴村君!」
綾瀬は思わず鈴村に飛びついた。
「ちょ、綾瀬!? 危ないだろ急に!」
「えっへへー♪ ちょっと嬉しくって! お隣失礼します!」
そう言って、綾瀬は笑顔で鈴村の左隣に座った。
「じゃあ私は右隣に失礼するね? 徹君」
「え? ああ、いいぞ」
(いいんだ…………)
躊躇いなく鈴村の右隣を陣取る七倉を簡単に許す鈴村に、綾瀬は少し不満を抱いていた。
「…………そこは少しくらい、『ダメ』とか言ってくれてもよかったのになぁ」
少し、ほんの少し小さい声で、綾瀬はぽろっと呟いた。
「ん? 何か言ったか? 綾瀬」
「え!? い、いや、なんでもないよ! ……ささ、早速だけどお弁当食べよう!」
綾瀬は慌てながらカバンにしまってあった弁当箱を取り出した。
「あれ、綾瀬さんって料理できるんですか?」
「へっへーん。鈴村君の未来のお嫁さんだからね。料理はお任せあれだよ」
自慢げに言う綾瀬に、七倉は対抗した。
「甘いですね綾瀬さん。実は私もお弁当作ってきたんですよ」
「え、そうなの?」
そう言って、七倉もカバンから弁当箱をを取り出す。
「綾瀬さん、私があんなことを聞いたから私は料理できないと思いましたね?」
「……、お、思ってないよー」
「誤魔化せてないぞ、綾瀬」
図星を指され誤魔化す綾瀬だったが、見事に鈴村に見抜かれていた。
「甘いですよ綾瀬さん。恋のライバルはどんなこともできると思ったほうがいいです。そのうえで、自分がどれだけアピールできるかを考えるんですよ」
「…………めちゃくちゃ正論でぐうの音も出ないよ」
真正面から正論を食らい、綾瀬は言い返すことができなかった。
七倉の言うことは正しい。
気持ち一つで全てがひっくりかえる恋の勝負において、相手は常に自分の上をいっているのだと考えるのは珍しいことではない。
その上にいる相手をどれだけ自分の力で乗り越えることができるかが、恋の勝負での必勝法であると七倉は考えていた。
「私は綾瀬さんが料理できるの知ってましたよ。なんせ綾瀬グループのご令嬢ですからね」
「まあ、うちの家は曲がりなりにも大企業だからね……。知ってて当然だね」
隠しても隠し切れない事実であった。
「なので! 私はしっかり綾瀬さんに勝てる料理を作ってきました。それを徹君に食べてもらいたいと思います」
「え、俺が食うの?」
突然名指しをされ、驚く鈴村。
七倉はそのまま続ける。
「そうだよ? 徹君が食べないで、誰が食べるの?」
「え、七倉が食えばいいじゃ――」
「それじゃ意味ないでしょ! 徹君が食べてくれなきゃ意味がないの!」
七倉は鈴村の言葉を遮って自分の意思を伝えた。
「そ、それなら私のも食べてもらわないと困るよ、鈴村君!」
そんな七倉の積極的なアピールを見て、綾瀬も慌てて自分の弁当を食べさせようとする。
「わわっ、ちょ、待って! 急に来られたら倒れるから! 綾瀬もまたあの日みたいなことになりたいのかよ!」
鈴村は慌てながら二人の行動を止めた。
「あの日のこと…………? …………あっ」
綾瀬は鈴村に言われた言葉を聞き、納涼祭の日に起きたことを思い出して顔を赤らめた。
「…………綾瀬さん、何があったんですか?」
七倉はその様子を見て綾瀬を睨みつけながら言う。
「い、いやー、なんでもないよ、なんでもない」
「嘘です! その反応は絶対に何かありました! 徹君からも説明してよ!」
「……ごめん、恥ずかしくて言えない」
「えー!? ちょ、なんで私だけそこで仲間外れ!? いやまあ当然なんだけど! その時私いなかったから!」
その瞬間のことを一切知らない七倉は蚊帳の外になっていたが、事件が起きた当時七倉は生徒会に関わりを持っていなかったのでそのことは知る由もなかった。
「ま、まあ、とりあえず二人の弁当は一口ずつもらうから。それでいいだろ?」
「…………本当は全部食べてもらいたかったけど、徹君がそう言うならそれでいいよ」
少し不満げになりながらも、七倉は自家製の卵焼きを一つ取り、鈴村に向けた。
「はい、あーん」
こぼさないように卵焼きの下に手を添え、少し上目遣いで食べさせようとする七倉の仕草を見て、鈴村は思わず心が揺れ動いた。
(……えっ、あれ、なんか七倉がかわいく見える……)
鈴村の悪い癖が現れた証拠であった。
「……鈴村君、ちゃんとして」
「え、ああ、ごめん」
そんな様子をしっかり見ていたのか、綾瀬が鈴村を睨みつけながら言う。
「じゃ、じゃあ、いただきます」
そう言って、鈴村は七倉の卵焼きを口に入れた。
少しの間、もぐもぐと口を動かし、味を堪能する鈴村。
七倉は、どんな感想がもらえるのか期待の眼差しを鈴村に向けていた。
「うん、うまい」
「……零点」
「なんでうちの生徒会はいちいち点数つけたがる人が多いの?」
鈴村は七倉の反応を見て素朴な疑問を投げかけた。
「女の子に食べさせてもらった感想がそれだけっておかしいと思わない?」
「もちろんこれだけじゃないよ、安心しろよ七倉」
鈴村はそう言って七倉に微笑んだ。
「しっかりふわふわだし、程よく甘いし、何より気持ちを込めて作ったんだな、っていうのがすごく伝わってくる卵焼きだったよ。ありがとう」
「い、いいえ、どう、いたしまして……」
あまりのストレートな感想に、七倉は顔を赤らめてだんだん声が小さくなっていった。
「ちょっと! 私の食べてないのにそんなにべた褒めってどういうこと!?」
鈴村のジャッジが贔屓に見えたのか、綾瀬が怒りながら割って入る。
「ごめんごめん。ちゃんと綾瀬のも食べるからさ。で、綾瀬は何くれるんだ?」
「………………これだよ」
そう言って綾瀬は、自分の弁当箱から唐揚げを一つ取り、鈴村の口に運んだ。
「…………どう?」
鈴村はもぐもぐと口を動かし、綾瀬の作った唐揚げを堪能した。
そして、出た感想は。
「……うんめぇ…………」
鈴村は涙を流していた。
「え、涙!? なんで!?」
七倉は鈴村がなぜ涙を流しているのかが理解できなかった。
「ふっふーん。勝ちはもらったみたいだね、七倉さん」
「ど、どういうことですか!」
「理由は鈴村君から聞いたほうが説得力あるんじゃない?」
そう言って、綾瀬は未だ涙を流しながら唐揚げを堪能する鈴村に視線を向けた。
「ちょ、どういうことなの徹君!? 私の卵焼きはあれだけべた褒めだったのに、綾瀬さんのはその一言で勝敗が決まるものなの!?」
状況が呑み込めていない七倉だったが、少し落ち着いて鈴村が説明を始めた。
「ああ、ごめんな、七倉。七倉の卵焼きもうまかったんだけど……。綾瀬の唐揚げは、なんかこう、懐かしさを感じる味だったんだよ」
「懐かしさ……?」
「そうだな……。綾瀬、これうちの母さんか姉ちゃんに作り方教えてもらっただろ」
「ピンポーン! 正解!」
綾瀬はブイサインをして見せた。
「綾瀬の作った唐揚げは味付け、衣のサクサク感、肉のジューシーさ、全てが鈴村家伝統の唐揚げそのものだったんだよ。最近久しく食ってなかったから、懐かしくて思わず涙が出たんだ」
「そ、そんなことって…………!」
思わぬ理由での敗北に、七倉は納得がいっていなかった。
「ず、ずるいですよ綾瀬さん! そんなの反則です――」
「反則? いやいや、私はちゃんと正々堂々戦ってるよ?」
そう言って、綾瀬は腕を組んで七倉に言う。
「七倉さん、さっき言ってたよね。『自分がどれだけアピールできるかを考える』って」
「た、確かに言いましたけど……」
七倉は俯きながら答えた。
「私だって本気なんだよ。七倉さんは手ごわいってわかってるから、どれだけアピールできるかを考えてたの」
「……その一つがこれってことですか」
「そういうこと。まあ、確かに鈴村君の身内事情を持ち出したのは少しずるかったかもだけどね」
綾瀬は悪びれる顔をしながら言った。
「……なるほど、これが綾瀬さんのやり方ですか」
「お、まだ勝負する? まだまだいっぱいあるよ?」
「いえ、大丈夫です」
「え、いいの?」
想定外の回答をされ、綾瀬は耳を疑った。
「いいんです。むしろ、これが賢明な判断だと思いました」
「賢明な判断?」
綾瀬の頭の上には「?」マークが浮かんでいた。
七倉は俯きながらも、自分の気持ちを吐露する。
「そもそも、綾瀬さんは徹君の婚約者です。私以上に徹君のことを知っています。その時点でハンデは大きいです」
「でも、そんな私に勝負を挑めるなんて、すごい度胸だと思うよ?」
「私はその『度胸』で勝負するつもりでした。……ですが、それだけでは綾瀬さんには敵いません」
「……そうかなぁ」
綾瀬の言葉に、七倉は小さく頷いた。
七倉はそのまま続ける。
「私は徹君のことはおろか、綾瀬さんのこともよく知りません。同じ土俵に立てていないんです」
「…………だから、まずは私たちのことをよく知りたい、ってこと?」
「はい。徹君には『友達からで』と冗談交じりで言いましたが、本当にそうしたほうがいいかもしれません」
そう言って、七倉は綾瀬の顔を視線を逸らさずに言う。
「なので、綾瀬さんとも『友達』として仲良くしていきたいです。そのうえで、私は徹君のことをもっとよく知りたいと思ってます」
これは七倉がこの花見で得た答えだった。
今の七倉には、どうやっても綾瀬に勝つことができない。
鈴村を振り向かせることができない。
自らが丹精込めて作った弁当を食べてもらっても、その勝敗はすぐについた。
今の七倉に、鈴村を手に入れる術はなくなっていたのである。
七倉はこの時初めて、自分には手に入れられないものもあるのだと理解した。
そのうえで、七倉は努力で手に入れる決心をしたのである。
「というわけで、よろしくお願いしますね! 綾瀬さん!」
「……うん! こちらこそよろしく!」
綾瀬と七倉は笑顔で手を握り合った。
「でも友達なら喋り方とか変えてほしいなー。同い年だし」
「それは嫌です」
「なんで!?」
綾瀬は七倉の意外な回答に驚いた。
「私はこの喋り方を変えるつもりはないです。もちろん、徹君に対してもです」
「……まあいっか。それはそれで」
綾瀬は七倉のこの対応が、友達であり恋敵である証明であると理解した。
「さ、勝負事も済んだことだし、しっかり花見を楽しみますか!」
「おー!」
「…………仲良さそうでよかったよ」
綾瀬の言葉に元気よく返事する七倉を見て、鈴村はぽつりと呟いた。
「……あ、そうだ、綾瀬」
「ん? 何?」
七倉が弁当を食べている最中、鈴村は手をクイクイッと動かし、綾瀬を自分に近寄らせた。
「え、何? どうしたの?」
「飯食ってるときにごめんな、綾瀬。もしかしてだけどさ、お前……」
鈴村は、周りに聞こえない声量で、綾瀬に問いただした。
「……お前、『人生の選択肢』持ってるだろ」
「…………え?」
鈴村の口から、綾瀬が耳を疑う言葉が発されたのであった。




