番外編② 飯田生徒会、発足
二千十一年、四月。
気温も温かくなり、桜の花びらがひらひらと舞い散る季節となった。
新年度を迎えた緑ヶ丘学園高等部の生徒たちは、これからの学園生活に期待する表情や、不安を感じる表情など、様々な感情を抱いて登校していた。
それを、緑ヶ丘学園高等部の三階に位置する生徒会室の窓から眺めている人物がいた。
「おーおー、今年も優秀そうなのがたくさん来たなぁ」
緑ヶ丘学園高等部生徒会長、飯田勝翔はそんな生徒たちを見て微笑みながら言った。
「皆ちゃんと進級できたんだなぁ。……お、あっちにいるのは新入生か」
そう言って飯田は生徒会室から見て左側にある体育館に視線を向ける。
体育館前には、あまり気慣れていない緑ヶ丘学園高等部の制服を身に纏った新入生が集まっていた。
その初々しい姿を見て、飯田は感心する。
「あいつらは高等部に入学してきた新入生だな。いいねぇ、若いねぇ」
飯田はそう言いながら軽く新入生に向けて手を振った。
もちろん、その様子を確認できるほど新入生の心に余裕はなく、緊張で顔が強張っている生徒がほとんどであった。
緑ヶ丘学園は中高一貫の学園である。
故に、中等部に在籍していた生徒は年度末試験を経て高等部に進学するが、別の中学校からも新入生を募っており、高等部への入試試験を合格した者のみが入学を許可される。
その壁はとても高く、生半可な気持ちでは入試試験を突破できるものではない。
人一倍、いや、人より数百倍の努力をこなさなければ、高等部への入学はほぼ不可能である。
そのため、高等部の入試試験を突破した新入生は、まさに賞賛するに値し、今後様々な活躍が期待できる希望の星ともなり得る存在なのであった。
飯田はそんな希望を胸に抱き、生徒会長席の前に立って、腕を広げて叫ぶ。
「お前ら! 進級、入学おめでとう! そしてようこそ、俺の生徒会へ!」
生徒会室には三名の生徒が招集されていた。
緑ヶ丘学園高等部二年、琴原みどり。
同じく二年、宮田詩織。
そして、飯田が希望を抱いた入試試験を見事突破した新入生、綾瀬凛。
そしてもう一人、生徒会室にはある人物がいた。
「『俺の生徒会へ』って……、まだちゃんとお前の生徒会発足したわけじゃないぞ。役職もまともに決まってないんだから」
緑ヶ丘学園理事長、綾瀬忠一であった。
理事長は飯田に呆れ顔を向けながら言った。
「あー、すみません。そうでしたね」
「全く……。悪いなお前ら。飯田はこういうやつなんだ。許してやってくれ」
理事長はそう言って飯田を軽く叱った。
「あの」
宮田が挙手をし、発言する。
「入学式も始業式も明日と聞いています。その前日は例年通りだと新入生、在校生の交流の場を設ける日だった認識です。ですが、私たちは生徒会室にいます。なぜですか?」
宮田は理事長に質問をした。
理事長は目を丸くしてそれに答える。
「あれ、飯田、もしかして言ってないのか? 今日の事」
「え? ……あ、すみません、伝え忘れてました」
飯田は理事長の質問に対し、頭を掻きながら笑顔で言った。
「お前ほんとにそれでも次期生徒会長かよ……」
理事長は再度呆れ顔を向けた。
飯田は悪びれながらも、今置かれている状況を三人に説明する。
「詩織の言う通り、入学式、始業式の前日は新入生、在校生の交流を深める日だ。しかし、今日お前らがここに呼ばれたのは理由がある」
「も、もしかして、生徒会のメンバーに選ばれたから、ですか?」
少し飯田に怯えながらも、琴原は震える声で言う。
「あ、それは春休み中に話聞きました。次期生徒会のメンバーに選ばれたから、始業式の前日に生徒会室に来いって、担任から」
綾瀬もこの場に呼ばれた理由を理解していた。
宮田は綾瀬の言葉を聞いて、ようやく呼ばれたときのことを思い出し、納得する。
「あぁ……、そういえばそうだったわね……。飯田君からもそんな話を聞いていた気がするわ」
「詩織には確かに言った気がするな。でも悪い、綾瀬と琴原には言ってなかったわ」
手を合わせ、頭を下げながら飯田は言った。
飯田はそのまま説明を続ける。
「連絡のあった通り、昨年度末試験の結果、綾瀬に関しては入試試験の結果により、理事長、学園長、俺の推薦によって次期生徒会メンバーに抜擢されたってわけだ」
その言葉に理事長が続ける。
「で、今日集まってもらったのは、その意思確認と、生徒会発足の手続きをするためだ」
そう言って、理事長は三人にそれぞれ一枚ずつ紙を渡した。
その紙にはそれぞれの名前と、緑ヶ丘学園高等部生徒会の役職が記載されていた。
そして、その紙の下部には署名欄、捺印欄が記載されていた。
理事長は紙を全て渡し終えてから説明を始める。
「今お前らに渡したのは同意書みたいなもんだ。俺、学園長、飯田の推薦によってお前ら三人が次期生徒会に抜擢されたわけだが、役職はこちらで決めてある」
「ここに書かれている役職は変更できないんですか?」
琴原が紙を見ながら質問をする。
理事長がその質問に答える。
「希望する役職があったら言ってくれ。副会長以外だったら変更可能だ」
「え、副会長は変更できないんですか?」
綾瀬が驚く顔をして問う。
その言葉に、飯田が答える。
「うちは副会長だけ特殊なんだよ。試験の結果で決めることもあるが、次期生徒会長が推薦して決めることもある。今年は俺が推薦したから、副会長の枠は埋まってるんだ」
「へー、そうなんですね。……それが、宮田先輩ですか?」
そう言って、綾瀬は宮田の顔を見た。
宮田に渡された紙には、しっかりと『副会長』の文字が記されていた。
宮田は飯田に視線を向けて微笑んだ後、綾瀬の問いに答えた。
「ええ、そうね。私が副会長らしいわ」
「なんだ綾瀬、副会長になりたかったのか?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど……。……宮田先輩って、年度末試験の結果何位だったんですか?」
「二位よ」
宮田は綾瀬の問いに即答した。
「琴原先輩は?」
「い、一位です」
琴原は少し自慢げに答えた。
綾瀬はその結果を聞いて、話を続ける。
「この流れだと普通なら琴原先輩が副会長になると思ってましたが……。宮田先輩を推薦したのには理由があるんですか?」
綾瀬はそう言って飯田を見る。
「ああ、もちろんあるさ。なかったら綾瀬の言う通り、琴原が副会長になってるからな」
飯田はそう言って、宮田の顔を一瞬見てから説明した。
「詩織を推薦したのは理由があるんだ。俺は生徒会長になることには抵抗なかったんだが、ちゃんとやっていけるのか自信なくてな。そこで、俺のことを傍で支えてくれる、彼女の詩織を副会長に推薦したってわけだ」
「へー、なるほど……。彼女である宮田先輩に支えてほしくて副会長に……、って、えええええ!? 彼女!? 二人とも付き合ってるんですか!?」
「そこ驚くところか……?」
綾瀬は驚愕の事実を知り、大声を出して驚く。
「副会長ってのは生徒会長の仕事を傍で支えて行うことが多い。俺自身、生徒会長なんてやるの初めてだからさ。一番信頼のおける詩織に頼んだんだよ」
「な、なるほど。重大かつ不安の多い役職だからこそ、信頼できる二人で生徒会長、副会長になったと……」
「そういうこと。詩織もそれに異論はなかったから、そうなったわけだ」
飯田は笑顔で答えた。
片や宮田は、耳を赤くして照れていた。
「全く……、なんでそんなことを恥ずかし気もなく言えるのかしら……」
宮田は髪を指でくるくるといじりながら呟いていた。
「それほど詩織のことが好きってことですよ」
琴原はニヤニヤしながら宮田をからかうように言った。
その言葉を聞き、宮田はさらに顔を赤らめた。
「ま、そんなわけだ。詩織が副会長になったのはそれが理由だ」
飯田は宮田の肩をポンポンと叩きながら言った。
飯田はそのまま続ける。
「んで、琴原には『会計』を、綾瀬には『書記』を任せたいんだ」
琴原の渡された紙には『会計』、綾瀬の渡された紙には『書記』と記載されていた。
「なんで私が会計なんですか?」
琴原は首を傾げて問う。
「琴原は情報処理能力に長けているって聞いたんだよ。確か、琴原は去年の文化祭の実行委員やってたよな」
「え? ええ、はい、やってました」
「そこで予算案の話が出たときに、琴原が先陣切って話を進めてその予算通りに文化祭を終えたって聞いたんだ。誤差なしだ。その処理能力があれば、会計はできるって思って推薦したんだよ」
「そ、そんなに褒められるものですかねぇ……」
「高校生でそれだけ情報処理ができれば十分なもんだ。計算ソフトとか使うの得意だろ」
「はい、そこそこ自信はあります。……でもそんな理由で会計なんていう大役任されていいんでしょうか?」
琴原は飯田にここまで言われても、自分の力に対して自信がなかった。
しかし、それでも飯田は琴原を説得し続ける。
「ああ、むしろお前ほどの力がなければやっていけないほどだ。ぜひとも会計の仕事をお願いしたい」
そう言って、飯田は琴原に頭を下げた。
琴原は慌てて飯田に顔を上げるように言う。
「ちょ、ちょちょちょ、飯田会長!? 顔を上げてください! 頭下げるようなほどじゃないですって!」
「自分を下に見すぎだ、琴原。もっと琴原は胸を張ってくれていい。それはお前が誇るべき特技なんだ。だから、その力を貸してくれ」
飯田は再度頭を下げた。
その熱量に負けたのか、琴原は少し声を小さくして答えた。
「……わ、わかりました。私なんかの力がお役に立てるかわからないですが、頑張ります」
「よく言ってくれた! ありがとう、琴原!」
飯田は笑顔で琴原に礼を言った。
「……で、なんで私が書記なんですか? 私もプログラミングとかパソコン系の仕事得意ですよ?」
そんな琴原に対抗するように、綾瀬が飯田に言う。
「ああ、知ってるさ。だが綾瀬には書記をやってもらいたい。お前の国語の成績はとても秀でたものがある。さらに、お前は自分で小説も書いているらしいな」
「な、なんでそれ知ってるんですか!?」
綾瀬は恥ずかしさで顔が赤くなった。
「理事長から聞いたよ」
「……お父さん、それほんと……?」
綾瀬凛の実の父である理事長、もとい綾瀬忠一はそっぽを向きながら答える。
「……ああ、言った、かな」
「…………はぁ。お父さん今日のご飯抜きだからね」
「え、なんで!?」
理事長の取った行動は重罪に値していた。
飯田は「こほん」と咳ばらいをして話を進める。
「そんな綾瀬の『まとめ上げる力』を貸してほしいんだ。生徒会ってのはいろいろ重大なことを取り決めるから、会議で決まったことをわかりやすく、誰でも見やすい資料にできる人がいたらいいなって思ったんだ。小説が書ければ、それくらいできるかなと思ってさ」
「……まあ、議事録は中学の委員会でよく書いてましたし、それを褒められたこともあったのでそれが事実なんだとは思いますけど……」
綾瀬は少し恥ずかしそうに言った。
「わかりました、私が書記をやります」
綾瀬はそう言いながらも、表情を変えて飯田に言う。
「ありがとう、綾瀬!」
飯田は礼を言った。
「……でも、一つだけ条件があります」
「条件?」
「…………私が小説を書いていること、絶対に誰にも口外しないでください」
「え、なんで?」
「いいから! 返事は『はい』以外受け付けません!」
「……はい」
飯田は素直に気になったが故に理由を聞こうとしたが、綾瀬の圧に負けてそれを聞くことができなかった。
一方、理事長はその様子を見て腹を抱えて笑っていた。
そして、一しきり笑った理事長は飯田の横に立って言う。
「まあ、そんなわけだ。役職の割り振りの理由も伝えたわけだが、お前ら、やってくれるか?」
「私に拒否権はありますか?」
宮田が理事長に問う。
「もちろんあるぞ。……まあ、宮田の場合は副会長だからほぼ決定しているようなもんだけどな」
宮田たちが渡された紙はあくまでも『同意書』である。
割り振られた役職を請け負うことに同意するかどうかのものであり、ここにサインをすることで正式な手続きが完了し、晴れてその生徒は生徒会に加入することになる。
宮田の場合、飯田の推薦があって副会長に選ばれてはいるが、もちろん拒否権はある。
緑ヶ丘学園は『生徒を尊重する』学園である。
一方的なやり方で生徒の人生を左右することはないのである。
「で、どうだ? お願いできるか?」
理事長は再度、三人に問う。
綾瀬と琴原は顔を見合わせたが、宮田は即答した。
「やります。やらせてください」
「おっ、よかった。詩織がいてくれないと不安で仕方なかったんだよ」
飯田は胸を撫で下ろし、安堵していた。
「飯田君には私がついていなきゃダメだもの。それに、私以外に副会長が適任な生徒なんていないはずだわ」
「そうか? 飯田を支えられればなんでもいいと思ってるけどな」
宮田の意見を全否定するように、理事長は言った。
宮田はその言葉を聞き、理事長を睨みつけて言った。
「飯田君を支えられるのは私だけです。飯田君の傍で支え、仕事を共に全うし、よりよい生徒会を作る。私はそう決めました。なので、副会長は私がやります」
宮田からはとてつもない量の熱意が溢れていた。
それに少し困惑する理事長であった。
「そ、そうか。ならよかった。二人はどうだ?」
そう言って、理事長は綾瀬、琴原に視線を向ける。
「……私、やってみます。自分がどれだけ力になれるかわからないですが、足手まといにはならないようにします!」
「わ、私も! ……ちょっと自信はないですが、皆さんのお力になれるよう頑張ります!」
綾瀬と琴原は、この推薦に前向きな意見を述べた。
飯田は理事長と顔を合わせてから右手を高く上げ、笑顔で言った。
「ありがとう、みんな。これで正式に次期生徒会発足だ!」
その飯田の言葉に、綾瀬達からは拍手が送られた。
その後、綾瀬達は同意書にサインをし、正式に飯田率いる新生徒会への加入手続きが完了した。
理事長が全ての書類を持って生徒会室を去った後、綾瀬が口を開く。
「で、飯田会長。最初は何やるんですか?」
「んー、そうだなぁ……。何するかねぇ」
発足して間もない生徒会である。やることは山ほどあるが、飯田は特に何も考えていなかった。
「え、もしかして何も考えてなかったんですか?」
琴原は考えなしに生徒会を発足させたと勘違いし、飯田に冷ややかな視線を送った。
「いやいや、違うって。生徒会ってやること多いから、何からやっていくか悩んでたんだ」
「……飯田君、今日わざわざ生徒会を発足させた意味、わかってないわよね」
「え、なんで?」
その飯田の回答に、宮田はため息をついて呆れていた。
「明日は入学式に始業式よ? その準備は先生たちがしているけれど、私たちも手伝ったほうがいいんじゃないかしら?」
「あー、それもそうだな。……よくよく考えたら、入学式と始業式で俺ら前に出て話すんだわ。それも考えないといけないわ」
飯田はこの時点で、宮田を副会長に推薦して正解だったなと感じていた。
「よーし! ってことは、記念すべき第一回目の生徒会会議ですね! 私、議事録張り切ってやりますよ!」
そんな中、綾瀬は自分が生徒会役員であることを自覚し、元気よく発言をしていた。
「よし! じゃあやりますかね! 第一回生徒会会議!」
『おー!』
こうして、飯田率いる新生徒会は無事に発足し、初めての生徒会活動が執り行われた。
*
「もうすぐ夏休みですねぇ」
飯田生徒会が発足して約三カ月。
もう一週間もすれば夏休みが始まるというある日、冷房の効いた生徒会室にて、綾瀬がぼそっと呟く。
「そうですねー。皆さん何か予定ありますか?」
綾瀬の言葉に、琴原が話を広げていく。
「私と飯田君は熱海旅行に行くつもりよ」
「え、また熱海行くのか?」
「何よ、嫌なの? 私は熱海旅行以外受け付けないわよ」
「いや、旅行はいいんだけど、たまには熱海以外の選択肢を出してくれよ……」
宮田の誘いに対し、飯田は少し呆れ顔で答えていた。
「宮田先輩って、熱海好きなんですか?」
宮田の顔を見て、綾瀬が問う。
「ええ、好きよ。毎年、夏休みに一回は飯田君と海水浴に行くって決めているのよ」
「その海水浴の行き先がいつも熱海なんだよ……。綾瀬からも何とか言ってやってくれ……。海水浴なら他の場所でもできるってさ……」
飯田は困惑する顔で綾瀬に助けを求めた。
「んー、海水浴場ですかぁ……。……あっ、鵠沼とかどうですか?」
「鵠沼? 江の島が近くにあるあそこか?」
「はい! ここら辺から熱海って遠いですが、鵠沼だったらその半分くらいで行けます! 駅からも近いですし、いいと思いま――」
「ダメよ」
宮田は嬉しそうに提案をする綾瀬の言葉を遮った。
「え?」
「ダメよ」
綾瀬は宮田の言葉に聞き返すが、宮田は再び同じ言葉を口にした。
宮田の表情はとても真剣だった。
そして、宮田はそのまま話を続ける。
「私にとって熱海は神聖な場所なの。年に一度は飯田君とここに行かないと、私の中から飯田君が消えていく気分になるわ」
「…………宮田先輩、クールな印象ありますけど、もしかして恋愛に関してはかなり重い感じですか?」
綾瀬は宮田の言葉を聞き、困惑する顔を見せた。
しかし、飯田はこの宮田の言う言葉を少し理解していた。
飯田は宮田の頭に優しく手を置いて言う。
「……わかってるよ、詩織。お前が熱海に拘ってる理由は」
「……じゃあ、なんで別の場所に行きたいとか言うのよ」
宮田は頬を膨らませて言う。
「たまには違うところに行きたいと思うのは普通だと思うけどな……。……ま、でも、俺にとっても熱海は特別な場所だ。今年も熱海に行きますかね」
飯田は微笑みながら言った。
その言葉に、宮田の表情は一気に明るくなる。
が、その表情を見られまいとすぐにクールな宮田の表情に戻り、言葉を発する。
「そうよ、初めからそう言えばいいの。今のうちに宿を取っておきましょう」
「あ、それなら俺がやっておくよ」
「そう? じゃあ、頼んだわね」
飯田はそう言ってスマホを取り出した。
一方で、綾瀬は琴原に小声で話しかける。
「……なんだか飯田会長、宮田先輩の尻に敷かれてる感じしますよね」
「そんな感じがしますね……。大丈夫なんでしょうか」
いらぬ心配をする綾瀬と琴原であった。
「……あっ。そうだ」
「? どうしたんですか? 飯田会長」
飯田は大事なことを思い出したかのような表情を見せた。
少し考える様子を見せた飯田は、意を決して言う。
「よし! 生徒会にもう一人メンバーが欲しくなった。募集するか!」
『…………え?』
突拍子もない飯田の発言に、メンバーは目を丸くする。
「えっと、飯田会長? 何言ってるんですか?」
「飯田君、訳を説明して」
と、飯田の言った言葉の理由を問いただそうとする綾瀬と宮田であったが、飯田はそれに構うことなく生徒会室を出ようとした。
生徒会室を出る前に、飯田は言う。
「ちょっと理事長のところ行ってくるわ! お前らは寛いでてくれ!」
そう言って、飯田は生徒会室から出て行った。
「…………何か絶対よからぬことを考えてるわね」
宮田は嫌な予感しかしていなかった。
「わかるんですか?」
綾瀬が宮田に問う。
「飯田君は頭はとてもいいのに、たまにああやって突拍子もないことをし始めるのよ……。今回に限っては何をしようとしてるのか想像もつかないわね……」
宮田は頭を抱えながら言った。
綾瀬はその様子を見てだいぶ深刻なのだろう、と考えたが、飯田のことを信じて言った。
「い、飯田会長にも何か考えがあるんですよ! 飯田会長を信じましょう!」
これは綾瀬なりの宮田に対する励ましであった。
「……そうね、ちゃんとしたいい考えがあるといいのだけど……」
しかし、その励ましはあまり通用していないようだった。
飯田はこの行動を取ってから一週間もしないうちに、緑ヶ丘学園高等部の全校舎に生徒会メンバー募集の張り紙を張った。
これが功を奏したか、はたまた運命のいたずらか。
夏休みに入って三日目の生徒会室に、鈴村徹は姿を現すのであった。




