番外編①-2 タイムスリップに至るまで
映像が二つ表示されている以外何もない真っ白な部屋の中で、鏑木鈴歩は呆れた表情をしていた。
「……徹君……。もう中学生になったっていうのに、全く凛ちゃんと話さなくなったね……」
鈴歩は青い枠の画面に映し出される映像を見ながらため息をついた。
鈴歩は死んでいる。
鈴歩は亡くなる前、『後悔しない人生を歩んでほしい』という『意思』を、その当時仲の良かった綾瀬忠一、鈴村香織に伝えていた。
しかし、鈴歩は不安を抱いたのか、自分のその『意思』を鈴村香織、綾瀬美春が身籠った子に託すことを決意した。
その『意思』は青い光と赤い光となって現れ、それぞれ鈴村香織、絢瀬美春のお腹へと入っていった。
その後、鈴歩は気が付くと何もない真っ白な部屋で横たわっており、部屋を散策しているうちに青い枠と赤い枠の映像が出現するようになった。
青い枠の映像には鈴村香織の子、鈴村徹が見る世界が、赤い枠の映像には綾瀬美春の子、綾瀬凛が見る世界が映し出され、鈴歩は自分の『意思』が無事に託されたことを知る。
その空間の中で鈴歩は、鈴村徹、綾瀬凛の生きていく姿を傍観することになった。
特に空腹になることはなく、眠くもならず、現実世界に鈴歩が干渉できるわけでもなかったため、ただただ二人の生きる姿を見守る毎日であった。
鈴歩はただその空間で、『後悔のない人生』を歩んでくれるように祈るしかなかった。
二人は小学生までは施設で楽しそうに会話をしたり、ゲームをしたりして交流を深めていたが、鈴村徹が中学に上がる頃にはそれもだんだん少なくなっていった。
二人の映像の隣には、それぞれが抱いている『感情』が記載される画面が表示されている。
鈴村徹と綾瀬凛が出会ってからは、双方のその画面には『一目惚れ』という記載がされたままになっており、お互いの関係が近づくことはなかった。
それどころか、鈴村徹に訪れた思春期の影響もあってか、中学に上がる頃には恥ずかしさで綾瀬凛と遊ぶ機会が少なくなっていった。
結果的に、鈴村徹は綾瀬凛への片思いを抱いたまま中学に上がることになり、逆もまた然りであった。
鈴歩はこの鈴村徹の度胸の無さに心底呆れていた。
「これじゃ片思いが実らないで人生が進んじゃうよ……。もっとこう、接点持たないとそのうち忘れられちゃうよ……」
鈴歩は鈴村徹が『後悔する人生』を歩んでしまうことを危惧していた。
人を好きになることは人生の転機でもある。
まさにその運命の人が同じ教室にいるというのに、鈴村徹も綾瀬凛も、それまでの交流の深さはどこへ行ったのかわからないくらいに接点がなくなっていた。
会話をするのも授業の一環で行われるディベートくらいであり、ちょっとした世間話すらしないほどになっていた。
鈴歩はソワソワしながら映像を見続ける。
時折『感情』の画面に記載される『話しかけたい』、『一緒に帰りたい』という文字列を見るたびに、鈴歩は鈴村徹、綾瀬凛の映像に対して大声で「いけー! 今だー! 話しかけろー!」と叫んでいた。
しかし、鈴歩は現実世界に干渉ができない。
この叫びも虚しくその白い部屋に響き渡るだけで終わるのだった。
「うーん…………、私が現実に干渉できればいいんだけど……」
鈴歩はそう言いながらもどかしい気持ちを抑えきれないでいた。
そんなもどかしい気持ちを抱いたまま、鈴村徹、綾瀬凛は中学に進学して最初の秋を迎えた。
この日は体育祭の練習をする日だったようで、鈴村徹たち一年生だけでなく、全校生徒が校庭に集められていた。
「ふーん……。今日は体育祭の練習なんだねぇ。しかも全校生徒での組体操……。……なんだか規模大きすぎない? 大丈夫?」
鈴歩は組体操をするには規模が大きいことを心配していた。
『まずは二人一組でやるものを練習するから、それぞれ二人一組になって待機しててね』
女性の体育教師がこの発言をしたのと同時に、鈴村徹の映像に動きがあった。
「……あっ! 徹君が走り出した!」
鈴村徹は誰かを探すかのように辺りを見渡して、校庭を走り回っていた。
鈴村徹の『感情』画面には『綾瀬と一緒にやりたい』と記載されていた。
「…………ははーん、なるほど。徹君、このチャンスを逃すまいと凛ちゃんを誘う気だな?」
鈴歩はニヤりと笑みを浮かべながら鈴村徹の映像を見ていた。
『くそーっ、見つからねえ……。綾瀬どこにいるんだ……?』
鈴村徹の映像からはそんな声が聞こえていた。
必死に探している様子であったが、鈴村徹の映像には一向に綾瀬凛の姿は映らない。
鈴歩もその様子を見てハラハラしていた。
「早くしないと凛ちゃん他の人とペア組んじゃうよ! 徹君、早く見つけて!」
しかし、校庭内は生徒が散り散りになって整列はされておらず、その状態で女性教師からの指示があったため、鈴村徹が綾瀬凛を見つけ出すのは困難であった。
そんな中、鈴村徹の映像にようやく綾瀬凛の姿が映し出される。
『……見つけた!』
「やった! 見つかった!」
鈴歩も鈴村徹も綾瀬凛が見つかり喜んでいたが、それも束の間であった。
『凛ちゃーん! 私と組もうよー!』
『いいよ! ちょうど私も誘おうとしたところなんだ!』
そんな声が、綾瀬凛の映像から聞こえた。
目の前でペアが組まれたことを知り、鈴村徹の視界からは綾瀬凛が消えた。
と同時に、『もう少し早く来ればよかった』という文字が鈴村徹の『感情』画面に記載された。
「……ま、そうなるよね。この人数だし、見つける前にペアはできちゃうよね」
千載一遇のチャンスではあったが、鈴歩もこの結果になるのはおおよそ予測はついていた。
しかし、鈴村徹と同じく、鈴歩も残念な気持ちでいた。
鈴村徹は俯きながら、とぼとぼと歩いて呟く。
『ちっくしょー、綾瀬と一緒にやりたかったのに誘うタイミング逃した……。なんであそこで誘わなかったんだよ……』
鈴村徹は綾瀬凛を見つけた瞬間に誘おうとしていた。
が、それよりも僅かに早いタイミングで、綾瀬凛には別の女子生徒から声がかかっていた。
鈴村徹には後悔が残った。
「…………結局後悔しちゃったか」
鈴歩は顔が暗くなった。
自分の『意思』を託すことはできたものの、それを伝えられる術は見つからない。
全ては鈴村徹、綾瀬凛の二人の行動に委ねられているということを、鈴歩は改めて痛感した。
「でもここで引いちゃダメだよ、徹君! まだチャンスはいくらでもあるから!」
そんな届かない言葉を、鈴歩は鈴村徹に向けて発していた。
そんなときである。
『それって、綾瀬凛ちゃん、ですか?』
鈴歩の知らない女子生徒の声が、鈴村徹の映像から聞こえた。
鈴村徹はその声の主の顔を見て、『え? ああ、そうだよ』と答え、その女子生徒の隣に座った。
「……えっ? 徹君、え、ここでもう凛ちゃんのこと諦めるの? いきなり別の子に乗り換えるの……!?」
鈴歩は焦っていた。
しかし、鈴村徹の『感情』画面には未だに綾瀬凛に対する『一目惚れ』の記載が残っていた。
この女子生徒に対しても、特別な感情は抱いていなかった。
鈴村徹はその女子生徒と楽しそうに話をし始めた。
「ペアも決まってないのにこんなところで駄弁るなんて……。もしかして、凛ちゃん誘えなかったからどうでもよくなったのかな」
鈴歩はそんなことを考えながら鈴村徹の映像を見ていた。
その映像から聞こえる女子生徒の言葉は、とても楽しいものではなく、ましてや初対面の人間に打ち明ける内容でもない、暗いものであった。
『私、小学生のときいじめられてたんです』
その言葉だけが、白い部屋にしつこく残る。
「……いじめられっ子かぁ。この子も大変だなぁ」
鈴歩はそう言いながら映像に移る女子生徒を見つめる。
鈴村徹は女子生徒の言葉を聞き、一つの感情を抱いた。
「え、助けるの? この子を?」
鈴村徹の『感情』画面には『助けたい』と記載されていた。
しかもそれは、綾瀬凛への『一目惚れ』よりも上位に位置付けられていた。
「徹君、助けるのはいいんだけど、どうやってこの子を助けるの……?」
心配しながら鈴歩は映像を見た。
鈴村徹の『感情』画面には少しして、『見返してやりたい』という文字が記載され、鈴村徹はそのまま女子生徒三人組の前に立って言った。
『おうおうお前ら、いい年こいて人を外見だけで判断して楽しいかよ』
「……あーあ、先輩に喧嘩売っちゃったよ」
鈴歩は頭を抱えながら呆れていた。
助けるといっても喧嘩を売るようであれば意味がない。
それは二次災害に繋がる恐れがあるからである。
鈴歩はどうか鈴村徹が被害に遭わないように、と願いながら映像を見ていた。
しかし、その鈴歩の心配は必要なくなるほど、鈴村徹の行動力は偉大であった。
鈴村徹はその時初めて出会った女子生徒のために、『人を見た目で判断するな』という思いをいじめていたであろう女子生徒三人組に必死に伝えていた。
伝え方こそ年上に向けて許されるようなものではなかったが、それでも鈴村徹は女子生徒三人組に対する怒りをぶつけた。
その気持ちは女子生徒三人組にしっかり届き、結果としてその女子生徒をいじめていた女子生徒三人組に謝罪を刺せることに成功。
それだけでなく、いじめの主犯格であった長谷川杏里はいじめていた女子生徒、琴原みどりと友人にさせることに成功させていた。
「す、すごい……。徹君、やるときはやるんだね……」
あれほど綾瀬凛に対しては恥ずかしさで話しかけることすらしなかった鈴村徹が、ここまでの行動力を見せたことに鈴歩は驚くとともに感心していた。
「それができるなら凛ちゃんともっと話せばいいのに……」
鈴歩は余計にもどかしい気持ちが残った。
鈴村徹はなんとか残っていた男子生徒とペアを組むことができ、その日は事なきを得た。
「なんでそれができるのに凛ちゃんと離さないのかなぁ。……私が手助けできればいいのに……」
結局のところ、鈴歩は鈴村徹と綾瀬凛の行動を映像越しに見ることしかできない。
助太刀してあげたい気持ちは山々だったが、現実に干渉できないこの現状はどう頑張っても打破できるものではなかった。
「……仕方ない。『絶対に後悔しない人生』を歩むことはできないから、見守るしかないね」
鈴歩はそう言って、再び映像を見続けた。
月日は流れ、鈴村徹と綾瀬凛は中学三年生に進級した。
そして、このタイミングで鈴村徹は、綾瀬凛が名門校である緑ヶ丘学園高等部への進学を希望していることを知る。
鈴村徹はこの時期に至るまでも綾瀬凛と接点を持つことはほぼなく、綾瀬凛も鈴村徹へ話しかけることはなかった。
そんな中、綾瀬凛の進路希望を聞いた鈴村徹は、一つの決意を抱く。
「…………えっ、徹君、凛ちゃんと同じ高校受けるの!?」
鈴歩は心底驚いた。
それまで鈴村徹の人生を見てきた鈴歩だからわかることだが、鈴村徹のその時の学力では受験しても落ちることは明白であった。
鈴村徹自身もそれは理解しており、しかし綾瀬凛への気持ちは未だに抱いたままであった。
この気持ちが、鈴村徹を大きく動かす。
『母さん、俺、緑ヶ丘学園に行きたい』
そんな決意を抱いた翌日、鈴村徹から鈴村香織へ自分の進学先を打ち明ける声が聞こえた。
鈴村徹の映像に移る鈴村香織の顔はとても驚く顔をしていた。
『ちょ、徹、本気で言ってんの!?』
鈴村徹の姉、鈴村早紀の驚く声も聞こえていた。
『徹、なんでか説明して。もう受験生なのはわかってるけど、徹の学力じゃ緑ヶ丘学園は無理よ』
鈴村徹の言葉を聞き、鈴村香織は強い口調でその意思を否定する。
「香織ちゃん……、ちょっとそれは酷いんじゃ……」
鈴歩は鈴村香織のその言い方に不満を覚えた。
しかし、鈴村香織の真剣な面持ちをしており、鈴村徹の意見を真正面から受け止めようとする意志が垣間見えた。
『母さんはさ、綾瀬凛って、覚えてる?』
鈴村徹は俯きながら話し始めた。
『え? ええ、覚えてるわよ。施設でよく遊んでた女の子よね。もうしばらく会わなくなったけど……』
鈴村香織は頬に手を当て、その姿を思い出す仕草をしながら言う。
『その綾瀬が、緑ヶ丘学園に行くって言ってたんだよ』
『えっ!? 綾瀬さんの娘さんが!? ……まさか徹、将来を考えずに綾瀬さんを追うためだけに受験したいとか言わないわよね!?』
鈴村香織は血相を変えて鈴村徹に問い詰めた。
鈴村徹はそれに臆することなく、話を進める。
『ああ、母さんの言う通りだよ。俺は綾瀬を追うためだけに緑ヶ丘学園を受ける』
『あんたねぇ……。あそこがどれだけ偏差値高いのか知ってて言ってる? さっきも言ったけど、徹の今の学力じゃ無理よ』
『わかってるよ。母さんの言う通り、今の俺の学力じゃ絶対に無理だ』
『……まさかとは思うけど、今から勉強して間に合うと思ってる?』
『ああ、思ってる』
鈴村徹は即答した。
『現実を突きつけるようで悪いけど、徹はどう頑張っても緑ヶ丘学園には受からないわ。綾瀬さんのことは諦めて、自分に合った未来を選ぶべきよ』
鈴村香織は、鈴村徹の意見を全く聞こうとしなかった。
実の息子の努力を応援しようとせず、今の鈴村徹だけを見て言葉を発していた。
鈴村徹はそれでも、自分の信念を曲げなかった。
『母さんの言うことは十分にわかってる。受からない確率のほうが高いのも十分わかってる。だけど……』
鈴村徹は、真剣な面持ちで言った。
『それでも、綾瀬を諦めるのはなんか違う気がする。ここで違う選択を取ったら、後悔する気がするんだ』
『後悔……』
鈴村香織はそのキーワードに思い当たるものがあった。
そのキーワードこそ、鏑木鈴歩が託し伝えたかった『後悔しない人生』である。
鈴村香織はようやくここでそのことを思い出し、鈴村徹へ言った。
『……わかったわ。徹がそこまで言うなら、私は止めない。でも、受けるからには絶対に合格してね。そして、ちゃんと綾瀬さんに思いを伝えるのよ』
『ありがとう、母さん』
鈴村香織は応援する表情を見せた。
実の息子が覚悟を決めて選択をしているのである。
もちろんその選択を止めることもできたが、鈴村徹のその目はとても真剣で、冗談で言っているようには見えなかった。
鈴村香織は、鈴村徹のことを信じたのである。
『さあ、決まったからには今日から猛勉強よ! ゲームなんて一切やらせないわ!』
『いや、ちょっとお母さん、少しくらいゲームはやらせてあげたほうが……』
鈴村早紀はそう言いながらゲームを没収しようとする手を止めさせる。
『え、なんで?』
『なんでって……。私が受験勉強してたときのこと忘れたの?』
『……あー、そういえば早紀、ストレスで家の中暴れまわってたわね……』
鈴村早紀は困り顔で言った。
『でしょ? 受験勉強も大事だけど、ストレスが発散できるものも用意しないと元も子もないよ。徹からゲーム取ったら何も残らないし』
『……姉ちゃん、それ褒めてる? 貶してる?』
『どちらかというとバカにしてる』
『……一瞬でも嬉しいと思った俺がバカだったよ』
鈴村徹はため息をつきながら言った。
『まあでも、早紀の言う通りね。徹、無理のない程度に、だけどちゃんと合格できるように頑張りなさい。徹なら今から努力しまくれば合格できるはずよ』
『ありがとう、母さん、姉ちゃん。俺、頑張るから!』
鈴村香織、早紀は笑顔を見せた。
そして迎えた合格発表の日。
鈴村徹は見事、緑ヶ丘学園高等部に合格。
家族揃って大いに喜んだ。
それを映像越しに見ていた鈴歩も、涙を流しながら喜んでいた。
「やったー! 徹君合格おめでとうー!!!!!」
万歳しながら叫ぶ鈴歩であったが、その声は未だ鈴村徹には届かなかった。
「……やっぱりここまで来ても届かないかぁ。いつになったら私の言葉でこの『意思』が届くんだろう……」
それはずっと鈴歩が悩んでいることであった。
未だに鈴歩のいる世界は白い部屋に映像が二つ映し出されるだけであり、鈴村徹、綾瀬凛の『感情』がリアルタイムでわかる画面が合わせて表示されるだけであった。
高校受験に合格するこのタイミングですら、鈴歩は現実世界に干渉できず、たたただ二人のことを見守ることしかできなかった。
「……ま、徹君ならちゃんとやってるくれるでしょ。琴原さんを救ったんだもん。自分のことも、自分で救うよね」
鈴歩は微笑みながら映像を見ていた。
「……そういえば、一つだけ変わったことがあったなぁ」
そう言って、鈴歩は立ち上がり、二つの映像の真ん中にいつの間にか置かれていたテーブルの前に立った。
「これ、いつからあったんだろう。しかもこれ、本、だよね?」
二つの映像の真ん中に、鈴歩が気づかないうちに鈴歩のお腹辺りまである高さの丸テーブルが置かれていた。
そしてそこには、二冊の本が置かれていた。
しかしその本には表紙、背表紙、どこを見てもタイトルが書かれておらず、中を見ても真っ白なページが続くだけであった。
「なんなんだろうこれ……。何の目的で使うのかな。自由帳……にしてはしっかりした本だし……」
その本は、しっかりとした文庫本の分厚さをしており、一枚一枚のページもしっかりとした紙が使用されていた。
一般的に店で販売されている自由帳にしては材質がしっかりしているため、鈴歩はこれを普通の本と捉えてはいなかった。
「意味もなしにここに現れるわけがないし……。とりあえず様子見かなぁ」
そう言って、鈴歩はその本を元あった場所に戻した。
*
鈴村徹が大学に進学した年。
未だ鈴歩は現実に干渉できないまま、それまでと全く変わらない生活をしていた。
「あれだけ啖呵切って緑ヶ丘学園に合格して入学できたのに、この三年間本当に凛ちゃんと関わることなかったね……。徹君、いったい何がしたかったの?」
鈴歩は呆れていた。
鈴歩はその一瞬こそ鈴村徹を応援していた。
緑ヶ丘学園に入学して綾瀬凛との関係性に進展があるかと思ったが、同じ高校に入学できてもその過ごし方は中学と変わらず、綾瀬凛との接点を全く持たなかった。
むしろ鈴村徹の性格はそれまでとは真逆になり、根暗、陰キャ、オタク気質となり、どんどん綾瀬凛から距離を置かれるような存在と化していた。
鈴歩は鈴村徹の映像を見る気すら失うほどになっていた。
「はぁ……。結局大学も凛ちゃんと同じ大学に進学したけど、ここでも何も起きないんだろうなぁ」
と呟いた鈴歩であったが、この時の鈴村徹は意識がまるで違った。
いつの間にか鈴村徹の『感情』画面には『変わってやる』と記載されており、その記載通り鈴村徹は大学進学後、様々な人に話しかけては友人関係になり、人脈を広げていった。
次第にサークルにも目をつけるようになり、そこでようやく綾瀬凛と出会うことになる。
綾瀬凛の映像にも、ようやくまともに鈴村徹の姿が映し出された。
「凛ちゃんの映像に徹君が映ってる……! 何年ぶりだろう……!」
鈴歩は心が躍っていた。
鈴村徹は嬉しさのあまり気持ちが昂っていたが、それを装って綾瀬凛と会話をし始める。
『よ、よう。俺の事、覚えてるか?』
サークルの部室に鈴村徹、綾瀬凛の二人しかいないこの状況で、鈴村徹はとても緊張していた。
それまで通っていた学校は同じだったが、話すのは実に数年ぶり。
鈴村徹が抱く気持ちは未だ変わらずであったが、やはり話しかけるのは照れくさいものがあったようだ。
ふと、鈴歩は綾瀬凛の『感情』画面を見る。
「…………『嬉しい』?」
綾瀬凛は嬉しがっていた。
ようやく話しかけてくれたこの状況が嬉しかったのだろうと、鈴歩は察した。
「そっかー、凛ちゃんも嬉しかったんだね。……こんなにすれ違うなら凛ちゃんからも話しかけたらよかったのに。もっと早くにさ」
鈴歩は少し不満げな顔で言った。
「……でもまあ、結果良ければ全て良し、ってね。嬉しいなら何よりだよ」
鈴歩は微笑みながら言った。
『うん、覚えてるよ。鈴村君、だよね』
その綾瀬凛の言葉を聞き、鈴村徹の心拍数は上昇していた。
「ふふっ、緊張しすぎだよ、徹君」
鈴村徹は緊張のあまり視線が泳いでいた。
『お、覚えててくれたんだ。ありがとう』
『よく私がここにいるってわかったね。誰かから聞いた?』
『え? ああ、うん。綾瀬がゲーム好きなのは知ってたし、そういう関連のサークルに入るのかなと思って、覗きに来たんだよ』
『なるほど? そこにたまたま私がいたってわけだね』
『ははは、まあ、そんなところ』
鈴村徹は広げた人脈を使って綾瀬凛がどこで何をしているかを聞いて回り、ようやくこのサークルに辿り着いた。
もはやこれはストーカーの行う所業である。
しかし、綾瀬凛はこれを『気色悪い』とは思わなかった。
「嬉しいなら十分脈ありだよ、徹君」
鈴歩はニヤニヤしながら呟いた。
『あ、あのさ、綾瀬。話があるんだ』
『え、何?』
鈴村徹は突然、真剣な表情で綾瀬凛に話題を持ち掛ける。
「…………えっ、徹君、まさかここで……!?」
鈴歩は驚いた。
鈴村徹の『感情』画面には、『告白』の二文字が記載されていた。
「ちょ、徹君、それはさすがに早すぎるんじゃ……!」
と言ったのも束の間、鈴村徹は言い放った。
『綾瀬……! 俺、ずっと前から好きでした! 俺と付き合ってください!』
ドクン、ドクン、と心臓が高鳴る音だけが白い部屋に響き渡った。
頭を下げる鈴村徹の映像は真っ暗であった。
鈴村徹は今、目を開けていないのである。
ぎゅっと目を瞑り、その告白の回答を今か今かと待ち続けていた。
「あーあ……。言っちゃったよ……」
鈴歩は頭を抱えながら言った。
「こりゃダメだね。徹君、お疲れ様――」
と言う鈴歩の言葉を遮り、綾瀬凛は言った。
『はい、私なんかでよければ、よろしくお願いします』
鈴村徹はその言葉に、思わず顔を上げる。
視界に映る綾瀬凛の顔は笑顔であった。
その綾瀬凛の回答に、思わず鈴村徹は泣き出す。
『ちょ、ちょっと、なんで急に泣くの!?』
鈴村徹が突然泣き出したため、綾瀬凛は慌てる様子を見せた。
『いや、まさかOKしてくれるなんて思ってなくて……』
鈴村徹の視界は涙で潤んでいた。
『…………ま、泣くほど嬉しいってことだよね』
『ああ、嬉しい』
『これからよろしくね、鈴村君』
綾瀬凛は再び笑顔で言った。
「……ええ……、この展開で告白OK出ちゃうんだ……」
片や鈴歩は、思いがけない結果に腰を抜かしていた。
「凛ちゃんも嬉しいのはわかるんだけど、即OKはちょっとどうかと思うな……」
鈴歩は少し呆れ顔で言った。
「……まあ、これも終わりよければ全て良し、だね」
鈴歩はそう言って二人を祝福した。
……しかし、そんな幸せそうな関係も長くは続かなかった。
鈴村徹は、綾瀬凛と付き合い始めてからそれまで抱え込んでいた気持ちが一気に爆発し、一方的に綾瀬凛に気持ちを伝える毎日であった。
それこそ好きになった理由、一緒の高校、大学を受験した理由を熱弁し続けていたが、綾瀬凛は少しドン引きしていた。
綾瀬凛の『感情』画面にはこんな文字が記載されていた。
『鈴村君の気持ちがわからない』
綾瀬凛も、鈴村徹に一目惚れして好意を抱いていた。
しかしそれは鈴村徹が施設に来なくなってから、そして時間を経過するにつれて、その感情の序列はだんだんと下がっていった。
今でこそ好意はありつつも、綾瀬凛は鈴村徹がどういう人間なのかがわからなかった。
しかし、鈴村徹はそんなことは露知らず、綾瀬凛に一方的に気持ちを伝える毎日である。
好意を抱いてくれていることに嫌気は感じていなかったが、逆に綾瀬凛は、なぜ自分が鈴村徹を好きになったのかがわからなくなっていた。
そして、大学に進学して最初の夏休み。
鈴村徹は綾瀬凛と水族館デートを決行することとなる。
「徹君……、大丈夫かなぁ……。もう凛ちゃんにだいぶドン引きされて距離を置かれてるけど、今日で挽回できるのかな……」
鈴歩は不安でいっぱいだった。
鈴村徹はいつも以上に気合を入れて、綾瀬凛をエスコートしようと心掛ける。
綾瀬凛は嬉しさもあったが、同時に複雑な気持ちもあった。
綾瀬凛にとって、今の鈴村徹は恋人ではあるが、本当に好きかと聞かれると、首を縦に振る自信はなかった。
だからこそ、鈴村徹のこの日の行動は空回りしているように見えた。
鈴歩は綾瀬凛の映像を見て直感的に言う。
「徹君。凛ちゃん、どうすればいいかわからなくなってるよ」
綾瀬凛は自分の気持ちの整理が追い付いていなかった。
確かに鈴村徹への好意はある。
だが、その好意は鈴村徹が持つ好意とは明らかに力の強さが違った。
必死に気持ちを伝えてくれている鈴村徹を見ていても、綾瀬凛からすればその行動は困るものに等しかった。
時間はあっという間に過ぎ、水族館は閉館時間を迎えようとしていた。
鈴村徹はとても楽しそうな顔をしていたが、綾瀬凛の顔は明るく映っていなかった。
綾瀬凛はこの初デートに期待はしていたものの、綾瀬凛の中では一つの答えが出来上がっていた。
『鈴村君、ちょっといいかな』
『? なんだよ改まって』
『あのね、鈴村君。君に言わなきゃいけないことがあるの』
『なんだよ、もったいぶらずに言えよ』
そして、その言葉は放たれた。
『私と、別れてほしいの』
ついに放たれた、綾瀬凛の本心。
その言葉を聞き、鈴村徹の『感情』画面はエラーを出していた。
しかし、こうなることが予想できていた鈴歩は冷静であった。
「……まあ、こうなるよね。今まで大して話してこなかったんだもん。接点も持たず、大学に入学したと思ったら急に告白。それから一方的に伝えられる好意。……嫌気がさすのも仕方ないよ」
鈴歩は、この瞬間だけは鈴村徹に味方をしなかった。
この言葉は、鈴歩が鈴村徹に嫌気をさして言ったわけではない。
自分の『意思』が伝わっていないことが分かった瞬間だったからこそ、言える言葉であった。
鈴歩は『後悔のない人生』を歩むように祈ったが、それは叶わなかった。
託すことはできたが、それを伝えられるかは別問題である。
鈴村徹は自ら『後悔する人生』を歩むことを選び、結果、やっと結ばれた綾瀬凛にすぐ別れを告げられることとなった。
鈴村徹の『感情』画面は真っ黒になり、映像も真っ暗になっていた。
その『感情』画面には、二つの文字だけが書かれていた。
『後悔』
よく見ると、その下には小さく鈴村徹が今感じている感情が止めどなく表示されていたが、あまりにも大量且つ小さい文字だったため鈴歩は読み切ることができなかった。
「……これは君が選んだことだよ、徹君。後悔するくらいなら、初めからそうならない人生を選べば良かったんだよ」
しかしそうは言うが、未来がわかる人生なんてものはない。
人は皆、何が起こるかわからない人生を歩むことを強いられている。
慎重に選択肢を選べば後悔をする未来は訪れないが、それはそう簡単にいくものではない。
それはどの人間にも平等に言えることである。
綾瀬凛の『感情』画面にはこう記されていた。
『ごめんね』
謝罪の言葉。
それだけが、綾瀬凛が感じている感情であった。
ガタンッ
突然、白い部屋が暗くなった。
映像の光だけが輝き、『感情』画面は表示されなくなった。
その映像には、頭を抱えてうずくまる鈴村徹と、それを心配し駆け寄る綾瀬凛の姿が映し出されていた。
「な、なにこれ!? 部屋が真っ暗なんだけど!?」
鈴歩は突然の出来事に驚いた。
今まで一度も経験したことのないことが起こっている。
何が起こっているのか、鈴歩は理解できなかった。
「うわっ、ちょ、何!? 体がぐらぐらする……!」
鈴歩は急に自分の足元がおぼつかなく、まともに立っていられなくなった。
「まさか、徹君がショックを受けたせい……!?」
そう言って鈴村徹の映像を見ると、鈴村徹はぶつぶつと後悔する言葉をずっと呟いていた。
そしていつの間にか、鈴村徹の『感情』画面には、『やり直したい』という言葉が記載されていた。
「や、やり直すって、どうやって!? それよりこれなんとかならないの!?」
鈴歩はまともに立つことができず、その場に横たわってしまう。
「徹君落ち着いて! 落ち着いてよ!」
その言葉を発すると同時に、鈴歩の意識はだんだんと薄れ始めて言った。
「な、なにこれ……。私、また死ぬの……?」
その感覚は、鈴歩が亡くなるときと同じような感覚であった。
手足が動かなくなり、思考もままならなくなり、だんだんと意識が薄れていく。
鈴歩は二度目の死を覚悟した。
同時に、鈴村徹の映像が消えかかった。
綾瀬凛の映像は未だ残ったままだが、鈴村徹の映像と鈴歩の意識はどんどん薄れていった。
「と、徹君……。頼むから……、落ち着い……て……っ」
その願いは叶うことなく、ブツンッ、という音と共に、鈴歩の意識は消えた。
*
『待ってくれ!!!!!』
「うわっ! びっくりした!」
鈴歩は突然鳴り響く大声に驚いて飛び上がった。
鈴歩は視界が未だぼやけていたが、だんだんその視界は元に戻った。
良く見渡すと、そこはさっきまで鈴歩がいた真っ白い部屋の中であった。
真正面を見ると、青い枠の映像が映し出されていた。
その左横には、鈴村徹の『感情』画面も表示されていた。
「な、なんだ、徹君正気に戻ったんだね……」
鈴歩は安堵した。
さっきあった出来事は鈴村徹がショックで倒れたから起きたことであり、今こうやって立ち上がることができたのは、鈴村徹が目を覚ましたからだと鈴歩は考えた。
「なんとかなった……。二回も死を味わうなんて思わなかったよ……」
鈴歩はそう言って床に座った。
安心しながら鈴村徹の映像を見る鈴歩だったが、少し違和感を覚えた。
「…………あれ? 凛ちゃんの映像は?」
よく見ると、それまで鈴村徹の映像の右に表示されていた赤い枠の映像、綾瀬凛の映像がなくなっていた。
さらに、丸いテーブルの上に置いてあったはずの二冊の本は一冊になっており、もう一冊は跡形もなく消えていた。
「え、どういうこと……? 一体何がどうなってるの……?」
頭を抱えて悩む鈴歩であったが、その残された本に変化があることに気づいた。
「……『人生の選択肢』……?」
残された本には『人生の選択肢』というタイトルがつけられており、美しい夜空に大量の流れ星が降り注ぐ綺麗な表紙をしていた。
「なにこれ、さっきまでこの本、タイトルもなかったしこんな綺麗な表紙してなかったよね……?」
信じられないことが次々起こる鈴歩の頭は混乱していた。
「……っていうかそれより……」
鈴歩は鈴村徹の映像を見る。
「なんで徹君、さっきまで水族館にいたはずなのに家にいるの?」
その映像には、鈴村徹の自室と思われる部屋が映し出されていた。
『……あれ? ここ、あれ? ここ、俺んちじゃね?』
そんな鈴村徹の困惑する言葉が白い部屋に響いた。
鈴村徹は状況を整理するが、やはり綾瀬凛にフラれた事実はしっかり思い出せるようで、そのたびに涙を流していた。
その心中を察していた鈴歩であったが、やがて鈴村徹の視界に鈴村早紀が現れた。
「早紀ちゃん……!? なんか若くない!?」
その若々しい姿を見て、鈴歩は驚く。
よくよく見ると、鈴村徹の部屋に置かれているものもいくつか古めかしいものもあった。
実家だからそういうものなのだろうと思っていたが、それにしてはあまり年季が入っていないものもあり、鈴歩はそれに違和感を覚えた。
『ね、姉ちゃん、今年って何年?』
鈴村徹は鈴村早紀に恐る恐る問う。
『そこにカレンダーあるんだから見ればいいでしょ……』
鈴村早紀のその回答に、鈴村徹は部屋にあるカレンダーを見た。
『えっ』
「えっ」
そのカレンダーを見て、鈴村徹と鈴歩は驚きの声を出す。
「と、徹君、と、私も、三年前にタイムスリップしてる……!?」
さらに信じられないことが起き、鈴歩は余計に混乱した。
「え、何が起こってるの……? 凛ちゃんにフラれたかと思ったら意識を失って、気づいたら徹君は実家にいて、しかも三年前にタイムスリップ……?」
状況を頑張って整理する鈴歩であったが、それでも混乱は治まらなかった。
「落ち着こう。とりあえず落ち着こう。何かこうなったのも意味があるはずだよ」
そう言って、鈴歩は深呼吸した。
少しして落ち着きを取り戻し、鈴歩は言った。
「……でも、タイムスリップしたのなら、もしかしたら人生をもう一度やり直せるってことだよね……。徹君には『後悔のない人生』を歩んでほしいし、なんとかしてあげたい……」
そう呟いて、鈴歩は『人生の選択肢』に目が行った。
「……もしかしたら、今ならできるかも」
そう言って、鈴歩は『人生の選択肢』を手に持った。
「……ま、持っても何もならないか。現実に干渉できないんだもんね」
鈴歩は現実に干渉できるか少し期待していたが、それは叶わなかった。
……と、思っていたのは一瞬だった。
『……あれ? なんだこの本。 ……? 『人生の選択肢』?』
「…………え?」
鈴村徹の映像からその名前が聞こえ、思わず鈴歩は振り返って映像を見る。
そこには確かに、鈴歩が手に持っている『人生の選択肢』と同じものが映し出されていた。
「なんで私と同じ本を徹君が持ってるの……? しかもこれ、どう見ても市販されてるものじゃないよ……?」
そんなことを言っているのも束の間、鈴村徹はその本を手に取り、鈴村早紀の部屋に行こうとした。
「あー! ちょっと待って!」
と叫んだと同時に、鈴歩の持つ『人生の選択肢』が光り輝いた。
鈴村徹の持つ『人生の選択肢』も、同じように光り輝いていた。
「……え、何? めちゃくちゃ眩しかったけど……」
そう言って、鈴歩は本を開いた。
【人生の選択肢】
A.この本を鈴村早紀に見せる。
B.この本を燃やす。
C.この本を秘密にする。
『人生の選択肢』にはこう記されていた。
「……私が今思いついた、三つの選択肢だ」
この選択肢は、鈴歩がこの間で咄嗟に思いついた三つの選択肢であった。
そしてそれは、鈴村徹が同じタイミングで見た選択肢と同じものであった。
『……は? なんだこりゃ』
鈴村徹は驚く声を発した。
「と、とりあえず今はこの本がバレるのは嫌だし……。とりあえず、これだけは伝えたい!」
鈴歩はそう言って念じると、再び『人生の選択肢』は光り出した。
『えっ、えっ!? も、文字が勝手に……書かれていく!?』
驚く鈴村徹の声と共に、鈴歩の考えた選択肢に対する結果が『人生の選択肢』に記載された。
【選択の簡易的結果】
Aを選んだ場合、鈴村徹は鈴村早紀に嘲笑われ、「寝言は寝てから言えよな。あ、さっきまで寝てたんだっけ」と言われる。
Bを選んだ場合、鈴村徹の人生は終了する。
Cを選んだ場合、何も起こらない。
「……やっぱり、この本を通じて現実に干渉できてる……!」
これは鈴歩にとって大きな一歩であった。
鈴歩が現実に干渉し、鈴村徹に自分の『意思』を伝えることができれば、鈴村徹が『後悔する人生』を歩まなくて済む。
鈴歩は覚悟を決めて言った。
「よし……、この本を通じて、今度こそ徹君に『意思』を伝えなきゃ……!」
だが、鈴歩は一つ気になる点があった。
「でもやっぱり、正解を見せるだけじゃ面白くないよね……。やっぱり『後悔しない人生』を選ぶかどうかは徹君に任せないと、本人のためにならないかも」
鈴歩はそう言って、一つの結論に至った。
「よし、わかった。この本を通じて私から選択肢を出すことにしよう。どの選択肢を選ぶかは、徹君がどんな人生を歩みたいかによるけど……。ここで私の『意思』を伝えるんだ……!」
鈴村徹の映像はずっと『人生の選択肢』を見つめたままだった。
時折、悩む鈴村徹の声が聞こえてくる。
「大丈夫、徹君ならちゃんと『後悔しない人生』を歩めるような選択肢を選んでくれるって信じてるよ。……頑張ってね、徹君……!」
こうして、鈴村徹が『後悔しない人生』を歩むまでの物語が始まった。
全ての物語の結末は、鈴村徹の選択に委ねられたのであった。




