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鈴村くんは間違えない  作者: シア
第1部 番外編

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番外編①-1 鈴歩と『意思』という部屋

こちらは「第1部 番外編」となります。

第1部の本編にて描かなかったお話をピックアップしていますので、

本編のおまけ程度に思っていただけたらと思います。


付加要素もいくつか散りばめられているので、そちらも楽しんでいただけたらと思います。

「…………うーん、…………。あれ? …………ここ、どこ?」


 壁が白く、それ以外に何もない殺風景な部屋に、一人の女性が横たわっていた。


 辺り一面見渡しても白い壁しかない部屋。


 丸一日いれば精神が崩壊しそうな部屋に、その女性だけが存在していた。


「……あれ、私、死んだんじゃなかったっけ……?」





 その女性は、綾瀬忠一あやせただかずと京都旅行へ行き、その最中の不慮の事故で亡くなった鏑木鈴歩かぶらぎすずほであった。





 鈴歩は立ち上がり、部屋の中を歩きだす。


 着ている服は入院時に着ていた服そのままで、事故に遭った割には傷もなく、痛みもなく、外見だけで見れば至って健康な様子であった。


 鈴歩は事故に遭ったのが嘘に思えるくらい、傷もなければ痛みも感じないため、今の自分がどういう存在なのかが理解できていなかった。


「……私、死んだんだよね? あの猫ちゃん助けて……。それで車に轢かれて……、病院に搬送されて……」


 鈴歩の記憶はそこまでであった。


 それ以降の記憶は、ない。


 鈴歩はそこからの記憶がないということを理解した時点で、自分が死んだ、ということを自覚した。


「でもここどこなんだろう……。なんで真っ白い部屋……? 確かに壁はここにあるから部屋なんだろうけど、それ以外何もないからここがどういう場所なのかがわからない……」


 鈴歩は困惑しながら部屋を歩き回った。


 その白い部屋の広さはおおよそ十五畳程度の広さであり、二人暮らしをする家庭のリビングほどの広さであった。


 しかし、部屋の広さだけがわかっただけであり、それ以外には何も置かれていない上に窓もないため、鈴歩はなぜこの場所に入れられたのかが理解できなかった。




 と、そんなとき、目の前にある壁に二つの画面が映し出された。




「えっ、なにこれ」


 鈴歩は突然映し出された画面に驚くが、得られる情報が増えたことにより少し安堵していた。


 二つの画面には共に天井らしきものが映し出されており、時折映像が暗くなったり、天井が再び映し出されるを繰り返していた。


 それは瞬きのようにも見えた。


 少しして、赤ちゃんの鳴き声が二つの画面から聞こえてきた。


「……これ、どこかの赤ちゃんが見ている様子ってこと……? どこの? ……誰の赤ちゃん?」


 鈴歩が考えているのも束の間、二つの画面にはそれぞれ、その泣き声を聞いて駆け付けたその赤ちゃんの母親らしき女性が顔を見せた。


「…………あっ!」


 鈴歩はその顔に見覚えがあった。




香織かおりちゃんに、美春みはるさんだ!」




 この殺風景とした空間の中、やっと見覚えのある顔を見ることができ、鈴歩は安心感に浸っていた。


 鈴村香織すずむらかおり綾瀬美春あやせみはるの顔を再び見ることができて喜ぶのも束の間、香織の映る画面から声が聞こえた。


『あらー、どうしたのとおる? お腹空いたのかな?』


 そう言って、香織は赤ちゃんを抱っこした。


「……徹?」


 鈴歩はその名前に聞き覚えがなかった。


 しばらく鈴歩が首を傾げていると、今度は美春が映る画面から声が聞こえた。


『あら……。ごめんねりん、今おむつ変えてあげるからね』


 そう言って、美春は赤ちゃんのおむつを替え始めた。


「…………凛?」


 鈴歩はその名前にも聞き覚えがなかった。


「……誰? 香織ちゃんと、美春さん、赤ちゃんいたの?」


 鈴歩は映し出されている映像がどの視点から映し出されたものなのかがわからなかった。


 しばらくして、香織の画面には哺乳瓶が映し出される。


『ほーら徹、ミルクですよー。はい、どうぞ』


 そう言うと、香織はその哺乳瓶を画面に向けた。


 哺乳瓶はそのまま画面下部へ移動し、同時に左右から小さな赤ちゃんの手が映し出される。


 ゴクッ、ゴクッ、とミルクを飲む音と共に、哺乳瓶の中に入っているミルクがだんだん減っているが映し出されていた。


「…………すごく美味しそうに飲んでる」


 鈴歩はその映像に興味津々であった。


 少しして、苦しくなったのか、赤ちゃんは哺乳瓶から口を離す。


『少し休憩かな? はい、げっぷしましょうねー』


 その香織の声と共に、赤ちゃんは鈴歩の肩に乗せられ、背中をトントンと叩かれていた。


『…………げふっ』


「あ、げっぷした」


 鈴歩は少し嬉しそうに言った。


『はーい、よくできました。……まだいるの? 食いしん坊さんだねー。はい、どうぞ』


 香織はそう言って、赤ちゃんに再びミルクを与えた。


「この赤ちゃん、香織ちゃんの赤ちゃん、なんだよね……。どう見てもこれ、赤ちゃん視点の映像にしか見えない……」


 鈴歩は未だに状況が把握できないまま、今度は美春の画面に目を移した。


『……よし、できました。すっきりしたねー』


 その美春の声に、赤ちゃんは『キャッキャ』と喜ぶ声を出す。


『そんなの嬉しかったの? よかったわ。はい、これおやつよ』


 そう言って、美春は赤ちゃん用のお菓子を手渡した。


 画面の左右から赤ちゃんの手が伸び、そのお菓子を手に取ってサクッ、サクッ、と食べる様子が映し出されていた。


「こっちは美春さんの赤ちゃん視点、なのかな……。でもなんでこんなのが映し出されてるの……? 今いるここは、何?」


 鈴歩の頭は混乱状態にあった。


 ふと、鈴歩は映し出されている映像の画面の枠色に注目した。


 映像はプロジェクターでスクリーンに映し出されているように見えた。


 しかし、そこにプロジェクターもスクリーンも存在しないため、映像がそのまま空間に映し出されている状態にある。


 映像の端には枠のようなものが存在し、香織が映っている映像は青色の枠が、美春が映っている映像は赤色の枠が表示されていた。


「…………もしかして……」


 鈴歩はここまで確認して、あることを思い出す。




「……そうだ。私、成仏する前に忠一君と香織ちゃんと話してた。そして、私の『意思』を香織ちゃんと美春さんの赤ちゃんに託そうとしてたんだ」




 鈴歩は交通事故に遭った後、搬送先の病院で息を引き取った。


 が、成仏をする直前、鈴歩は病院にいた忠一、香織の目の前に姿を現し、鈴歩の『後悔のない人生を歩んでほしい』という『意思』を、これから生まれる香織、美春の子に託すと伝えた。


 その際に現れた『青い光』と『赤い光』は、それぞれ香織、美春のお腹の中に入っていった。


 鈴歩が今見ている映像の枠色は『青』、『赤』である。


 鈴歩は一つの確信に至った。




「私の『意思』、ちゃんと赤ちゃんに託されたんだ……!」




 鈴歩は嬉しそうに言った。


 鈴歩は胸に手を当てて安堵した。


「よかったー、なんとかうまくいったみたいだね」


 鈴歩自身、自分の『意思』をうまく香織、美春の子に託せるかどうかは不安であった。


 それこそ魔法の世界の話である。


 成功するかどうかはわかるはずもなかった。


 しかし、それが成功したことを鈴歩が見ている二つの映像、その画面の枠色で確信した。


「そっかー、香織ちゃんの赤ちゃんは『鈴村徹すずむらとおる』君、美春さんの赤ちゃんは『綾瀬凛あやせりん』ちゃん、っていうんだね。……この映像からだと、徹君と凛ちゃん視点の映像しか映らないからどんな顔してるのかわからないな……」


 鈴歩はそう呟くが、映像の視点は未だ鈴村徹、綾瀬凛の視点から変わる様子はなかった。


 この映像の主が鈴村徹、綾瀬凛の見る世界だと知り、鈴歩は抱いていた一つの疑問を解決することができた。


 しかし、鈴歩にはまだ抱く疑問があった。




 それは、鈴歩がいるこの部屋がどこなのか、である。




 鈴歩は一つの仮説を思いつく。


「もしかして、この部屋って、私の『意思』そのものなのかな。私がちゃんと『意思』を託すことができたからこの部屋が生まれたのかも」


 鈴歩の考えは至ってシンプルであった。


 鈴歩は鈴村徹、綾瀬凛に自分の『意思』を託すことができた。


 その際、鈴歩は無意識のうちにその後に生まれた鈴村徹、綾瀬凛に鈴歩の『意思』が伝わっているかどうかを、この部屋を通じて確認できるようにしていたのだった。


 鈴歩はそれを確認するため、映し出される映像に向かって声をかける。




「おーい! 徹君、凛ちゃん! 私の声聞こえるー?」




 鈴歩は大きな声で言うが、反応はなかった。


「……無反応か……。もし聞こえてたとしても、相手は赤ちゃんだし私がなんて言ってるかわからないよね」


 鈴歩は冷静になってその結論に辿り着いた。


「考えてても埒が明かないなぁ。とりあえず、少し様子見ることにしようかな」


 鈴歩はそう言って、その場に座り込み、映像越しに鈴村徹、綾瀬凛の様子を確認した。




                   *




 鈴村徹、綾瀬凛が小学三年生の冬を迎えた頃。


 鈴歩は、二つの映像が映し出される白い部屋に座り込んでいた。


「……二人とも大きくなったなぁ。徹君も凛ちゃんも口が達者になっちゃって……」


 鈴歩は感慨深い様子で映像を見ていた。


「徹君はゲームしかしてないね……」


 鈴村徹はゲームがこの頃の時点で大得意であり、学校から帰るなりゲームをする毎日であった。


 しかし、勉学については特に困ることもなかったため、香織はそれを咎める様子はなかった。


「徹君と早紀ちゃんが揉めて早紀ちゃんが家出しちゃったのはびっくりしたなぁ……。それから施設に預けられる話が出てたけど、その話どうなったんだろう」


 そう呟きながら、鈴歩は鈴村徹の映像を見る。


 と同時に、綾瀬凛の映像には毎日のように美春と通っている施設の映像が映し出されていた。


「……凛ちゃんはまた施設にいるんだね。なんでここに執着するんだろう……。家に帰りたくないのかな」


 ここまで呟いたところで、鈴歩はあることを思い出す。


「……あ、そっか。忠一君って確か社長になったんだっけ。綾瀬家の人間はここで習い事を受けるって言ってたね」


 これは綾瀬凛の父、綾瀬忠一が決めていたことであった。


 綾瀬家に生まれた子供たちは、その親戚も含めてこの施設でいくつかの習い事を受けることになっており、綾瀬凛もそれは例外ではなかった。


 この日も綾瀬凛は他に預けられている子供たちと一緒に習い事を受けていたが、綾瀬凛はあまり楽しくなさそうにしていた。


「……どうしたんだろう、凛ちゃん。全然楽しくなさそう。……()()にも、『楽しくない』って書かれてる」


 そう言って、鈴歩は綾瀬凛の映像の右側に表示される『綾瀬凛の感情』という画面に視線がいった。


 この画面は鈴歩が気づかないうちに表示されるようになったものであり、鈴村徹の映像の左側にも同じように『鈴村徹の感情』という画面が映し出されていた。


 緑色の背景に白い字で表示されるその画面には、二人がそのとき感じている感情がリアルタイムで表示されるようになっていた。


 綾瀬凛はこの施設に行くことに対し「つまらない」と感じており、習い事をしている最中も「楽しくない」と感じていた。


「いくらお嬢様とは言っても、いきなり幼いころからこんなの押し付けられたら、そりゃ嫌だよねー。私がガツンと忠一君に言ってあげようかな」


 そう言って鈴歩は腕まくりをして綾瀬凛の映像の前に立つが、振り上げた拳を下ろして言った。




「……そうだった。私、こっちからは向こうの世界に一切干渉できないんだった」




 鈴歩はもどかしい気持ちでいっぱいだった。


 この瞬間までも、綾瀬凛に限らず、鈴村徹にも危険が及ぶ事態はいくつかあった。


 それこそ、両親が目を離している隙に事件が起こることは多々あり、鈴歩はそれが怒る前から見ているため止めに入ろうとしたが、干渉できないことに気づき、ただそれを見ることしかできなかった。


 とても痛々しい場面もあったが、鈴歩はそれぞれを助けることはできなかった。


「……これじゃ、私の『意思』、忠一君にも香織ちゃんにも、伝わってないじゃん」


 鈴歩はそんなことを呟いていた。


 鈴歩の意思は『後悔のない人生を歩むこと』である。


 これを忠一、香織に伝えたつもりであったが、綾瀬凛の現状を見て察した。




 綾瀬忠一は、鈴歩の『意思』を伝える努力をしていない。




 これが結果的に、鈴歩にとっての『後悔のある人生』に成り代わっていた。


「……ダメだよ、忠一君。約束したじゃん。美春さんも、本当にそれでいいの?」


 悲しそうな顔で言う鈴歩。


 そんな折、施設にある男の子が綾瀬凛の前に現れた。


 綾瀬凛の映像にはその男の子が映っていたが、逆に鈴村徹の映像には、習い事を受けている最中の綾瀬凛の姿が映っていた。


「……え、あれ? なんで徹君がここに?」


 鈴歩は首を傾げた。


 鈴歩は状況が理解できなかったが、映像から聞こえる声で全てを理解した。


『あ、香織さん。お久しぶりです。お元気でしたか?』


『久しぶりです美春さん! 元気ですよー。無理言ってこの施設に入ることになっちゃってすみません……。忠一くんによろしく言っておいてください』


『お気になさらないでください。事情は聞きました。……早紀ちゃんは、帰ってきましたか?』


『それが、家出してからすぐに帰ってきたんですよ』


『あら、そうなんですか? それはよかったですね……。私安心しました』


『私もです。……でも、やっぱり今の状況だと二人の面倒を見るのは難しくて……。この施設に徹を入れられることができて良かったです』


『いえいえ、うちなんかでよければ大丈夫ですよ。ほら、凛。挨拶して』


「……そっか、徹君が預けられた施設ってここだったんだね。徹君と凛ちゃんはここで初めて会ったんだ」


 鈴歩はその様子を見て、気分がほっこりしていた。


 美春に言われるがまま、綾瀬凛は鈴村徹に近寄る。


 その瞬間、二人の感情を表示する画面に変化が起きた。


「えっ、なにこれ!? 急に緑色からピンクに変わったんだけど!?」


 鈴村徹と綾瀬凛が顔を合わせたと同時に、二人の感情を示す画面は緑色からピンクに変化した。


 そして、その下にハートマークが出現し、ドクン、ドクン、と脈を打つような動きをしていた。


「これ、もしかして心拍数……? しかもこれ、『恋』に関する感情じゃない……?」


 鈴村徹と綾瀬凛が目を合わせた瞬間、ピンクになった画面にはそれぞれ、『一目惚れ』という文字が記載され、脈打つハートの動きが早くなっていった。


「えっ、二人とも一目惚れしたの!?」


 鈴歩は驚きを隠せない様子でいた。


 そんな最中に、映像のほうから声が聞こえた。


『は、初めまして。綾瀬凛です。よろしくお願いします』


 そう言って、綾瀬凛の映像はペコっとお辞儀をするように床が映し出された。


 それに対し、鈴村徹の映像は綾瀬凛から視線を横に逸らした。


「あ、徹君ちょっと照れてる」


 映像越しにも鈴歩はそれがわかっていた。


 少し間を空けて、鈴村徹は口を開く。


『……鈴村徹、です。よろしくお願いします』


 挨拶をして少しの間反応を見せなかった鈴村徹に対し、綾瀬凛は少し残念がる感情を抱いていたが、鈴村徹が快く挨拶をしてくれたため、綾瀬凛の感情は昂っていた。


「この年で好きな人ができるなんてねぇ……。一目惚れとはいえ、これは応援したくなるな」


 鈴歩はやる気満々であった。


『す、鈴村君は何か好きなことあるの?』


『こら! 私は挨拶をしなさいと言っただけよ! 終わったならすぐ習い事に戻りなさい』


「……なーんか、美春さん性格変わっちゃったなぁ」


 嬉しい気持ちを抑えきれず綾瀬凛は鈴村徹に質問を投げかけたが、美春はあくまで挨拶を強要しただけであったため、綾瀬凛の行動に叱責した。


 綾瀬凛は寂しい気持ちを抱きながら、渋々習い事に戻った。


 しかし、鈴村徹はその様子を見て、綾瀬凛に声をかける。


『今は話しちゃダメなんだろ? 俺ずっと母さんといるからさ。それ終わったら話そうぜ』


 その言葉に、綾瀬凛はパァッと顔が明るくなり言った。


『……うん! 待っててね!』


 綾瀬凛の感情の画面には、『嬉しい』と記載されていた。


 片や鈴村徹の感情の画面には、『可哀そう。助けてあげないと』と記載されていた。


「……優しいな、徹君」


 鈴歩は微笑みながら言った。


 少しして、綾瀬凛は習い事から解放され、一目散に鈴村徹の元へと駆け寄った。


「『やっと終わって嬉しい』だって。かわいすぎるでしょ、凛ちゃん」


 鈴歩は笑いながら言った。


『ごめんね、鈴村君。待たせちゃって』


『大丈夫。ゲームしてたから一瞬だったよ』


『げ、ゲーム!? ここでゲームしちゃダメなんだよ!?』


『え、そうなの?』


 鈴村徹は驚く顔を綾瀬凛に見せた。


 綾瀬凛は鈴村徹に説明をする。


『ここは娯楽を一切やっちゃダメなの! 綾瀬家の施設ではそれが決まりなんだよ!』


『ふーん。でも、君の母さんはいいって言ってたよ?』


『え?』


 綾瀬凛の視線は美春に向いた。


 美春は申し訳なさそうに綾瀬凛に言う。


『ごめんね、凛。本当は徹君がこれで遊び始めたときに止めようとしたのよ』


『じゃあ、なんで今鈴村君はゲームしてるの?』


『凛もこういうの好きでしょ? ここでもゲームをしたがってるの、わかってたのよ』


『……そうなの?』


『そうよ。ここはゲーム禁止だから、凛にはやらせてあげなかった。でも、凛はここに来るたびにすごく楽しくなさそうな顔をしてたのは知ってたわ』


『……わかってたのに毎日ここに来てたの?』


 綾瀬凛の感情に『怒り』が表示され始めた。


「あ、美春さん、それ以上言ったら、凛ちゃん怒るよ……」


 鈴歩は心配する声を上げた。


 しかし、それを美春は覆した。


『本当は凛には自由に遊んでもらいと思っていたの。でも、他の子たちはゲームとか、そういう娯楽をしたことがないでしょ?』


『うん。誰もこのゲームも、他の遊びも知らないって言ってた』


『だから、やらせても仲間外れになると思ったのよ。でもね、徹君がこのゲームをやっている顔を見て、私の中の考えが変わったの』


『考え……?』


 美春は綾瀬凛に微笑みながら言う。


『凛には自分の好きなように人生を歩んでほしいと思っているの。施設のルールがどうとか、知ったことじゃないって思ったのよ。悪いのは忠一君よ』


『お父さんのせいなの?』


 美春は意を決した顔で言う。




『忠一君が決めたルールが何なのよ。私は、凛に自由に生きてほしいの。凛がやりたいことをやってほしいのよ。大丈夫、何かあったら私が守るから。安心して』




『お、お母さん……』


 目から涙が零れる綾瀬凛の視線は、鈴村徹のほうに向いた。


 鈴村徹は笑顔で綾瀬凛に言う。




『ほら、やろうぜ! お前、家でこれやってるって聞いたから一緒にできると思ってさ。……あ、俺めっちゃ強いから覚悟しておけよ?』




 その言葉を聞き、綾瀬凛の感情の画面には『嬉しい』、『ありがとう』が大量に記載されていた。


 そして、満面の笑みでそれに返す。




『うん! 私も負けないから! 頑張るぞー!』




「……余程嬉しかったんだね、凛ちゃん」


 鈴歩はどうなることかとヒヤヒヤしたが、胸を撫で下ろして安堵した。


 こうして、鈴村徹と綾瀬凛は出会ったのだった。




 そして時は、鈴村徹が中学一年になった秋にまで進む。

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